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尖閣諸島接続水域に中露艦艇が初めて進入 中国がロシアを利用したのか

Wedge 6月11日(土)12時30分配信

 2016年6月8日から9日にかけて、尖閣諸島周辺の接続水域にロシア及び中国の艦艇が相次いで進入した。これまでも中国は接続水域内に国家海警局(沿岸警備隊)の巡視船を恒常的に進入させてきたが、軍艦はこれが初めてである。一方、ロシア海軍について、防衛省は「過去にも例がある」としており、接続水域内に軍艦を進入させたのはこれが初めてというわけではないようだ(後述)。

 これに対して日本政府は、安倍首相を議長とする国家安全保障会議を開催するなど極めて緊迫した反応を見せ、日本のマスコミでも大きく取り上げられた。どちらかというと、これはロシアというより中国の行動に対する反応であったと見られる。

 そもそも接続水域とは領海の外側12カイリの水域であり、国家の領域ではないが関税や出入国管理などの管轄権は及ぶとされる。軍艦の航行については、無害航行が認められているため、本来はロシアや中国の軍艦がこの海域を通過することには法的問題はない。

 だが、中国は尖閣諸島を自国領であると主張して日本政府と対立し、日本側の抗議にもかかわらず、巡視船その他の公船を恒常的にこの海域に進入させ続けてきた。こうした経緯があるために、今回の中国艦進入には大きなインパクトがあったのだろう。一方、ロシアは尖閣問題に関しては中立を維持しており、日本政府ともこの点では対立していないため、軍艦が通るといってもその意味するところはかなり異なる。

 日本の外務省が午前2時に中国大使を呼びつけて抗議を行うという強硬な姿勢に出たのに対し、ロシアに対しては「外交ルートを通じた注意喚起」(菅官房長官談話)に留めたのも、こうした経緯の違いが大きく影響していたと言える。

最初に進入したのはロシア艦

 では、今回の事態はどのようにして生じたのだろうか。

 時系列で見ると、接続水域に最初に進入したのはロシア艦である。これは今年3月にウラジオストクを出港し、東南アジアでの国際対テロ演習に参加した太平洋艦隊の駆逐艦アドミラル・ヴィノグラートフ以下3隻の艦艇グループと見られる。報道によると、ヴィノグラートフ以下の艦艇は8日午後9時50分ごろに久場島と大正島の間の接続水域に南側から進入した。一方、中国艦はその3時間後にあたる9日0時50分ごろに北側から同接続水域に進入している。

 中露艦艇が接続水域を出たのはほぼ同時で、9日午前3時5-10分ごろ。ともに接続水域を北側へと抜けている。したがって、ロシア艦がそのまま北への進路を維持したのに対し、北から進入してきた中国艦は接続水域内でUターンして再び北へ抜けたことになる。

 以上を見るに、ロシア艦に政治的意図があったかどうかは今ひとつ判断しがたい。ロシア艦が日常的に接続水域を通過しているのであれば特に政治的な意図はなく母港への最短ルートを取ったということになろうが、我が国の統合幕僚監部は南西諸島付近におけるロシア艦の通過状況をほとんど明らかにしていない。そこで筆者が独自に関係筋へ確認してみたところ、ロシア艦はこれまでにも東南アジア方面との往復で同じようなルートをたびたび通過しているとのことだった。

 一方、昨年11月には、太平洋艦隊の巡洋艦ワリャーグがインド洋で演習を実施した帰路に南西諸島付近を通過し、「数日間に渉る往復航行、錨泊」を行ったほか「一部我が国接続水域内での航行」があったことを統合幕僚監部が発表している(統合幕僚監部が南西諸島におけるロシア艦の活動を公表したのは、確認できた範囲ではこれが唯一)。つまり、ロシアは最近になって単なる通過とは異なる動きも見せていたわけで、これも判断を難しくする要因であろう。

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最終更新:6月11日(土)12時30分

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