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スピリット・マイグレーション 作者:ヘロー天気

魔導船団編

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第二話:リゾート遺跡探索





 洞穴拠点に戻ったコウは、マンデル達が見つけた建造物が古代遺跡だった事を報告した。
 その中で、あの遺跡は地下深くまで続いていそうな構造である事や、フラキウル大陸に点在していたダンジョンのような禍々しい気配は無かった事、しかし王都の地下ダンジョンのような雰囲気はあった事なども伝える。

「ご苦労だった、コウ。どうやら退屈はしなくて済みそうだな」
「じゃあ明日からは魔導船の修理と遺跡の探索でも行いますか」

 コウを労ったレイオスが遺跡探索を仄めかすと、ガウィークが探索隊の組織を提案する。無人島の古代遺跡なら、手付かずの古代魔導製品など、お宝が手に入るかもしれない。
 珍しい動物なども見つかるかもしれないなと話が盛り上がっていたので、コウはステルスゴキブリの事を話した。

「ほう〜、そんなのが居たのか」
「害の無い虫ならともかく、そういう能力を持った魔獣の類が居たりすると危険ですな」

 しっかり準備を調えてメンバーも厳選して行かねばなと話し合っている中、レフがステルスゴキブリの話にプルプルと反応していた。苦手らしい。

「レフは連れて行けないな」
「まあ仕方あるまい、誰にでも苦手なものはあるさ」

 彼女の火力は惜しいが、パニックになられたらそのままパーティーを吹き飛ばす火薬になり兼ねんと、レフは今回の遺跡探索メンバーからは外れる事になった。
 代わりに、遠距離攻撃はカレンとディスに頑張ってもらう。カレンには、件のゴキブリを見つけても、くれぐれも素手で捕まえようとしないように注意しておく。

「しかし、その遺跡の固有種でなければ、この辺りにも生息してるかもしれないな」

 副長マンデルのもっともな推測に、確かに在り得ると頷く面々。レフの顔色が悪くなった。


 夜。強風吹き荒れる大雨の中、無人島滞在用に洞穴拠点の居住性を整えながら、魔導船の固定と作業用足場の補強作業が続けられている。
 居住空間の向上はコウが異次元倉庫に色々保管しているので、それを使って快適に整えられた。

――ベンチは分かるけど、なんで地球世界のマッサージチェアが入ってるんだ――
『拾っても怒られなさそうな物は回収してたんだよ』

 木のベンチはバラッセのダンジョンから。マッサージチェア――いわゆる椅子型電動按摩器は、地球世界でフリージャーナリストの美鈴と取材旅行をしていた時、宿泊施設で廃棄される予定だった物だ。一応貰っても良いか聞いてから回収した。

「くたびれているが、良いソファーだな」
「異世界のソファーか……」

 レイオスとガウィークが革張りの重量感あふれるソファーに興味を示している。博士に見せれば魔導技術で動くように出来るかもしれない。他にも、食堂に置かれていたテーブル等があった。

――なんつーか、カオスだな――
『そーお?』

 "統一感の無い快適な居住空間"に、京矢からツッコミが入っていた。

 深夜に入り、洞穴拠点では見張りを立てて皆が就寝する中、眠る必要の無いコウはこの島の虫や動物に憑依して付近の情報を探る活動を続けた。
 雨風が強いのであまり自由には動けなかったが、この付近に大型の獣は居ない事などが分かった。


 そして翌日。嵐は少し勢いが収まったが、まだまだ暴風雨は続きそうな空の下、ガウィーク隊と金色の剣竜隊から数名ずつで探索隊を結成して件の古代遺跡を調べる事になった。
 レイオスは魔導船の修理と今後の航路設定など、トラブルで予定を変更した部分を新たに再構築する立て直し作業を予定しており、それらの目途が立ってから探索に加わる。

「ヴァヴァヴーヴァ "いってきます"」

 複合体で遺跡探索隊に同行するコウは、昨日通った道無き道を先導する。途中の川は橋を作って架けておこうという事になり、木を切り倒して運ぶ役目を担う。
 大工道具も一通り異次元倉庫に入っていた。

「何でも出て来るな」
「ヴェヴァヴァー "えへへー"」

 間も無く丸太を組み合わせた丈夫そうな簡易橋が出来上がった。コウが向こう岸にジャンプして渡れるので、半分つり橋のような形になっている。
 そうして進むことしばらく、昨日コウが見つけた遺跡に到着した。出入り口に立てかけておいた錆びた扉を外して中に入る。

「なるほど、王都のダンジョンにそっくりだな」

 ガウィーク達と改めて調べた結果、最初のフロアは安全そうなので、ここを遺跡探索用の拠点にする事が決まった。洞穴より快適かもしれないとはディスの談。
 今日はとりあえず探索拠点の構築を済ませて明日からの探索に備える。探索を進めて行くうちに危険な怪物に出くわす可能性もあるので、無理はしない。
 しかし、コウがここに棲みついている虫などに憑依して読み取った情報からして、あまり危険は無いと思われた。無人になってから随分経つようだ。

 とりあえず拠点となるこの階層を隅々まで探索してから、下の階へと挑む。壁に貼られていた案内板によれば、この古代遺跡は地上二十階、地下六階で構成される巨大な建物だったらしい。
 地上部分は五階辺りから先が無くなっているが。

「探索のしごたえがありそうだな」

 一応、上の階から調べてみたところ、天辺まで上がる事は出来た。三階から四階のフロアは床が抜けて瓦礫で埋まっている。一階のフロアが無事だったのは、かなり強固に造ってあったからだろう。
 五階部分は木材で補強された見張り台のようになっており、ここもほとんど朽ちている。そのまま使うのは危険だ。

「晴れていれば、見張り台から洞穴の拠点と互いに見通せるな」
「何かあった時に便利ですな。魔導艇で行き来するのに丁度いいかもしれません」

 見張り台の部分は台座を補強して、魔導艇を接岸出来る空中港にする予定を話し合うガウィーク達。とりあえず上階部分は調べ終わったので拠点フロアの探索に入る。

「ディスとマンデル、カレンはここに残って各隊の連絡と状況把握に努めてくれ。俺とダイド、リーパは剣竜隊の小隊と右側の通路から調べる。コウは反対側を頼む」

 コウが解読した案内板によると、右側は『飲食店街』、左側は『商店街』のエリアとなっている。拠点に設定したこの場所は『中央エントランスホール』となっていた。
 ガウィーク達は金色の剣竜隊員の小隊と飲食店街エリアを探索し、コウは単独で商店街エリアを探索する。

「ヴァヴァヴォヴォー "じゃあ行ってくるねー"」
「ああ、気を付けてな」
「コウちゃん、たいちょー、いってらっしゃーい」

 カレンのゆる〜い送り出しを受けながら、コウ達はそれぞれの探索エリアへと出発していった。


 古代遺跡の商店街を探索するコウ。ほとんど瓦礫や土砂で埋まっているが、そこそこ広い廊下の両側には店舗らしき部屋が幾つか並ぶ。
 埋まっていない部屋の中には、木片や石が転がっているだけで何も無い。時折、金属で出来た箱状の機械類っぽい物体が並んでいたり倒れていたりするが、腐食が酷く、ほぼ鉄の塊でしかなかった。

(なにもないなぁ)

 暗い廊下に、ズシン、ズシンという複合体の足音だけが響く。今日はまだ京矢からの交信も無いので、暇を持て余したコウは装飾魔術を使った記憶映像の描写に挑戦しながら探索を続けた。
 流石に空中に光文字や図形を浮かべる術で映像を作り出すのは簡単にはいかなかったが。

(うーん、むずかしい。やっぱり精霊の力を借りないと上手くいかないのかな)

 しばらく光の図形を浮かべながら廃墟の中を歩いていたコウは、やがて突き当りの大きな部屋にたどり着いた。ここが商店街の終点のようだ。
 奥の方に開けた空間が見える。廃墟の中でもそこだけ片付けられたような場所で、円形の小さな広場のようになっていた。
 天井には、放射状の枠にくすんだ色の窓がステンドグラスのように嵌め込まれており、わずかに外の光が射し込んでいる。
 朽ちた長椅子の残骸らしきものが、この広場の外周に沿って散らばっているのを見るに、ここは憩いの場のような空間だったのかもしれない。

――おはよう。今日は探索中か――
『あ、キョウヤおはよー』

 その後、拠点に戻る道すがら埋まっていない部屋の瓦礫をどかしながら隈なく探索をした結果、人型の残骸っぽいものを何体か見つけた。

――中身が詰まってる様子からして、単なるマネキンの残骸ってわけでもなさそうだな――
『ろぼっととか?』

 人型の残骸は、この廃墟内に転がる他の機械類らしき物体と同じくかなり腐食しているが、土塊のようになった中身には細かくて複雑な、電子部品のような物が詰め込まれているのが分かる。
 転移装置のような魔導機械が存在していた古代の魔導文明なら、今で言う人型召喚獣のような魔導機械人形があってもおかしくはないだろうとは京矢の談。

『もしかしたら、ボーみたいにまだ動いてるのも居るかも?』
――リゾートホテルの案内ロボットみたいなのがか? それはそれで興味あるけど、何か切ないな――

 主人の居なくなった施設で動き続けるロボットに哀愁を感じるのは、日本人の性か、などと呟く京矢。コウは何となく、王都の地下遺跡にあったボーの製造工場で、天井の穴からどこかへ流れていくボー達を切なそうな表情で見送っていた沙耶華を思い出した。

 夕方。拠点に戻って来た探索組は、それぞれ成果の報告を行う。

「こっちは何もなかったよ」
「そうか、まあ安全の確保は成された訳だ」

 ガウィーク達の方はステルスゴキブリの群れと遭遇したらしい。飲食店街なのである程度の推測はしていたが、あそこまで大量にいるのは想定外だったという。

「閉鎖された古い遺跡じゃあ、繁殖に耐えうる食料も無いだろうと予想してたんだがな」

 地下に繋がる小さな穴が複数あって、そこから吹き出してくる空気がやけに暖かかった事から、どうも地下階には熱源となりうる何かがありそうだとの事だった。

「向こうをコウに調べてもらった方がよかったかもしれん」
「じゃあ後で調べてみるね」

 一階の探索は一応これにて完了したので、探索隊の今日の活動は終了。ガウィーク達は明日からの地下階探索に備えて休息に入った。


「さて、それじゃあボクは向こうの探索をしてこよう」

 皆が休息をとっている間、眠る必要のないコウは飲食店街の方を調べに向かう。複合体には乗り換えず、少年型のまま飲食店街に入る。

 こちらのエリアも商店街と同じく、区分けされた空間が左右に並んでおり、その幾つかは瓦礫や土砂で埋まっていた。
 商店街エリアに比べると区分けの壁が低く、見通しの良い作りになっている。真っ暗闇でも視界が効く上に視点を寄せる事も出来るコウは、遠くの壁に不自然な゛ゆらぎ゛を見つけてそれに近づいた。予想通り、それは壁に張り付いているステルスゴキブリだった。
 憑依可能な距離まで近付いたコウは、少年型をそのままにして一度ステルスゴキブリに憑依。それから精神体の一部を少年型に入れて召喚を解除した。
 召喚石を異次元倉庫に仕舞いながら、憑依したステルスゴキブリから情報の読み取りを行う。実は、複合体に乗り換えずに少年型でここまで来たのはこの為だ。
 複合体の巨体だと、ステルスゴキブリは近付こうとするだけで逃げてしまう。少年型ならギリギリまで近付けると踏んだのだ。

――とうとうゴキブリにまで憑依したか……――
『あ、キョウヤおかえりー。そっちのしごと終わったの?』
――いや、ちょっと休憩だ――

 帝都エッリアの離宮でノートPCによる情報入力作業を一段落させた京矢は、疲れた精神を癒されにコウに意識を繋いだのだが、いきなりのゴキブリ憑依にゲンナリしているようだ。

『ゴキブリ君もほかの虫とそう変わらないよ?』
――いやまあ、それは、分かってはいるんだ……分かってはいるんだけどな〜――

 精神衛生的に気になると突っ込む京矢なのであった。




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