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【コラム】
355 ヘイトスピーチに反対する人々が拡散するヘイトな感情とは
今年の1月15日、大阪市で「ヘイトスピーチ条例」が賛成多数で可決されました。特定の民族や団体を侮蔑し攻撃する、いわゆる「ヘイトスピーチ」を規制しようという条例です。当初案では「ヘイトスピーチ」に対する訴訟費用まで大阪市が面倒を見ることになっており、大阪市議会自民党などの抵抗により削除されましたが、私はこの条例に明確に反対します。
理由は、この条例が大阪市外での表現活動まで「規制」をかけるとする地方自治の枠を越えた越権行為であり、法治国家のそれではないからです。想像するに「ネット」を念頭にゆるい網をかけたつもりなのでしょうが、日本での言論活動を北朝鮮の法律で裁くようなトンデモ条例です。
ヘイトスピーチ自体は言語道断です。しかし、そもそも論において「ヘイトスピーチ」の定義がとても曖昧であり、表現の自由が侵害される懸念もあります。また、ヘイトスピーチに反対する人たちのご都合主義にも呆れるというか、むしろこの反対する人々が、新たな「ヘイト」を生み出している「ヘイトスピーチ0.2」な面が否めません。
隣国に優しく日本に厳しく、捏造といえる誤報を放置し続けた、あの新聞グループに属するL新聞は、地方新聞としては絶大な発行部数を誇っています。県内で実施予定の「嫌韓デモ」を、在日一世を名乗るおばあさんに、苦難の歴史を語らせることで、批判を試みていました。極度に「韓国を嫌いになれ」とする"嫌韓"の主張に同意はしませんが、「嫌い」という表現の自由も保障されていることは「多様な言論」において重要であり、その反対もしかりです。ただし、「嘘」はいただけません。
L新聞の記事で、この女性は「強制連行された」と証言していましたが、父親に手を引かれての強制連行であり、また初来日(便宜上)したときの年齢は5才と語っていました。しかし、その記事に記された現在の年齢から逆算すると、当時は昭和10、11年です。ただ、人的・物的資源を政府が統制運用できる「国民総動員法」の制定が昭和13年、「国民徴用令」はその翌年に成立しています。また、朝鮮半島の住民に対して「徴用」が実施されたのはさらに遅く、戦争末期となった昭和19年の8月からであることはネットで検索すれば、いくらでも出てくる事実です。
「紙」の時代であれば、記事に気になる記述を見つけても、違和感に対して日常生活が上書きしていたことでしょう。しかし現代、ネットニュースに転載されたL新聞の"センテンス"から「ググる」ことは容易になっています。
さらにグーグルの検索窓に、数式をいれると「計算機」となります。
「西暦-(現在の年令-来日年令)」
と入力すれば、在日一世の彼女が、来日した元号や西暦を簡単に特定できます。
日本人は「嘘」を嫌う民族です。ググるだけで暴かれる「嘘」への悪印象が、証言した女性へ向かうことは想像に難くありません。それが「ヘイト」の生まれる素地になると想像できない「ヘイトスピーチ0.2」な記事なのです。さらにネットを渉猟していると、ヘイトスピーチに反対する活動家達のふるまいは、まるでヘイトを拡散しているようにしか見えません。
ヘイトスピーチに対抗する活動を「カウンター」と自称する人々がいます。彼らは嫌韓デモの場に足を運び、デモの参加者に罵声と怒声を浴びせかけます。主張の内容はともかく、合法的に許可されたデモに、法的根拠もなくつきまとい、威嚇し、暴力行為に及んだカウンターもいます。暴力的な事件を未然に防ぐために、デモの警護にあたる警察官にまで罵声を浴びせかけ、その様子を手柄のように、動画やツイッターでネット上に拡散しているのです。
かつてはテレビにも頻繁に出演していた精神科医も「カウンター」活動に傾注し、海外では拘束されることもある挑発的な中指をツキ立てるポーズで「バカヤロー」と叫ぶ動画がネット上で最近拡散されていました。そのお仲間には、不良漫画の乱闘シーンでしかみかけない、木製バットに釘を打ち込んだ「釘バット」を構えてポーズを決める著名人や、身体に多くのデコレーションを施している人々もいて、彼らとにこやかに記念撮影する国会議員の姿も確認できます。
ネット上で拾った、これらの動画や写真をノンポリの専業主婦に見せ、どちらがヘイトスピーチしているかとたずねると、即答でカウンター側を指しました。そして先の記事を読ませて、歴史的事実を伝えると、主婦はこう吐き捨てました。
「だから、嫌われるのよ」
あえて「誰が」とは問いませんでしたが、一部メディアが垂れ流す嘘や、カウンター側の言動は、ネット上に保存されています。多くの"普通の日本人"が、これらに触れたとき生まれる「ヘイトな感情」を止めるのは困難です。
さらに「特定秘密保護法」の議論はもちろん、東京都による「非実在青少年」への規制条例において、表現や言論の自由への危惧を叫んでいた有識者らは、大阪市の条例には反対の声を上げません。国家機密への制限や、エロ漫画への規制は許さないが、定義の曖昧な「ヘイトスピーチ」だけは取り締まれというのでしょうか。不思議な人たちです。
エンタープライズ1.0への箴言
すぐに検証できるネット時代に嘘はダメ
宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に「Web2.0が殺すもの」「楽天市場がなくなる日」(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」
筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」
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