【萬物相】悪習・悪弊まみれの政界で右往左往する自称「韓国のジョブス」

スティーブ・ジョブスと安哲秀

【萬物相】悪習・悪弊まみれの政界で右往左往する自称「韓国のジョブス」

 アップルを創設した故スティーブ・ジョブス氏がアップルから追放されたのは1985年。この年の5月に開かれたアップルの取締役会での言い争いが大きなきっかけになった。この日、ジョブス氏と彼が迎え入れた当時の最高経営責任者(CEO)だったジョン・スカリー氏はいずれも相手に辞任を要求した。マッキントッシュの開発をめぐる対立がその原因だった。当時30歳になったばかりのジョブス氏は、親子ほどの年齢差があり恩師でもあったスカリ-氏を厳しく責め立てた。しかしその独善的な言動が災いしてか、ジョブス氏の側に付く取締役は一人もいなかった。椅子を蹴ってその場を後にしたジョブス氏は、しばらく泣いてばかりいたという。素晴らしい製品を世に送りたいという自らの理想が挫折し、その悔しさに耐えられなかったからだ。4カ月後に彼はアップル社を後にした。

 ジョブス氏ほどの天才でも、再起は決して簡単ではなかった。4年にわたる臥薪嘗胆(がしんしょうたん)の末、ネクストという会社を立ち上げて新しいコンピューターを販売したが、1カ月に400台足らずしか売れなかった。投資家たちは「ジョブスもこれまでか」などとささやき合い、ビル・ゲーツ氏も「本当に失望した」と一言口にして背を向けた。この時がおそらくジョブス氏にとって最低のどん底だったのだろう。その後、ジョブス氏は優れた技術力と卓越したセンスを持つピクサー社に投資し『トイ・ストーリー』を成功させるなど華々しく復活した。1997年には売り上げの低迷で倒産の危機にひんしていたアップルに復帰し、iPhone(アイフォーン)神話を築き上げた。

 つい先日、安哲秀(アン・チョルス)議員は記者団に対し、野党・新政治民主連合を離党した自らを「かつてのジョブス氏のような立場」と語った。この言葉には「離党はしたが、今後うまくいけば自分もジョブス氏のように成功できる」という意味合いが込められていた。自ら立ち上げた企業から追い出され、それでも復活してIT(情報技術)業界で新たな神話を築き上げたジョブス氏。安氏はこのジョブス氏のように、自らが掲げる「革新政治」によって再び野党のリーダーになるという理想を描いているようだ。

 4年前に韓国で出版されたジョブス氏の自伝には、当時ソウル大学教授を務めていた安氏が書いた推薦の言葉が記されている。要約すると「生まれると同時に他の家に養子に出され、大学も中退したジョブス氏がどうやって英雄になれたのだろうか。それは天才だったからではなく、挫折にもくじけず常に革新を追い求めるチャレンジ精神があったからではないだろうか。ジョブス氏の真の才能は、自らの仕事を愛し、それに異様なまでに集中する情熱にあった」というものだった。当時は安氏周辺で常に政界進出のうわさが語られていた時期だった。

 安氏の覚悟とその心境は理解するが、自らをジョブス氏に例えるのはやや無理があるのではないか。安氏が自ら語るように、ジョブス氏の偉大さは自らの仕事を心から愛し、ただひたすらそれを追求する情熱にあったはずだ。安氏も自らの得意分野をただひたすらチャレンジ精神を持って追求し続けていたら、今ごろはどうなっていただろうか。もしかすると社会に大きく貢献できたはずの人材が、今なお悪習と悪弊にまみれた政界に飛び込み、自らの能力を存分に発揮できなくなったのではないか。修羅場のような政界で右往左往する「韓国のスティーブ・ジョブス」を見るのは本当に心苦しい。

キム・テグン論説委員
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