現代の戦争で徴兵制に合理性はあるのか

[写真]ドイツでは2011年に徴兵制が廃止され、志願兵制度がスタートした(ロイター/アフロ)

 しかし、現実として、日本において徴兵制が必要とされることはあるのでしょうか。現代の戦争においては、ハイテク兵器を駆使して戦う必要があるため、徴兵制で集めた経験の浅い兵士では役に立たないから、徴兵制には軍事的合理性がないという意見があります。これはその通りで、現に世界各国では徴兵制は廃止される傾向にあります。長年、徴兵制を維持してきたドイツも、2011年に廃止に踏み切りました。

 ところが、現代の戦争はこうしたハイテクの兵器を用いる戦争に限られるわけではありません。「正規の軍や情報機関、義勇兵、民兵その他を組み合わせることで、平時とも有事ともつかない状況下で軍事作戦を遂行する『ハイブリッド戦争』では、徴兵制が必要になる場合もあり得る」と軍事アナリストの小泉悠氏は指摘します。公式の宣戦布告もなく、突然に国内に戦闘地域が出現し、延々とゲリラ的な消耗戦を強いられる「ハイブリッド戦争」では、少数の職業軍人よりも大量の徴兵を動員せざるを得ないというのです。

「軍事的に弱体な小国は、大量の国民を動員した武装抵抗によって、侵略のコストを仮想敵に認識させることが、安全保障上重要となります。 実際、ウクライナやリトアニアなどでは、最近になって徴兵制が復活しました」(小泉氏)

 しかし、地理的な要因、軍事的な装備などを考えても、こうした東欧諸国と日本の状況は大きく異なります。日本は島国であり、海上自衛隊及び航空自衛隊によって海上防衛や対空防衛の戦略が確立しているため、容易に敵が侵入することができません。つまり、可能性としても、ハイテク兵器を用いた現代型の戦争以外は起こりにくい状況なのです。小泉氏も、次のように指摘します。

「中国が南沙諸島への実行支配を強めているのは事実ですし、いずれは尖閣、沖縄も視野に入れていることは確かですから、遠い将来そういった場所でいわゆる『ハイブリッド戦争』が起きるかもしれません。しかし、そのような局所的な紛争に対して、日本国全体で一般の国民を総動員するような徴兵制が必要かは極めて疑問です。本土まで侵略されてゲリラ戦で対抗しなければならない事態も論理的には想定できますが、日本の国防能力を考えると、その可能性は将来的に見ても極めて低いでしょう」

 確かに、現実として古典的な徴兵制が日本で導入される可能性は低いようです。ただ、法令の解釈は、今回の「集団的自衛権」と憲法9条の関係を見ても分かる通り、そもそも絶対的なものではありません。安倍首相が、憲法18条の『意に反する苦役』の解釈が1つに決まっているかのような説明をすることには、少し違和感を感じます。また、若者の貧困や自衛隊員の応募減少などの側面から、将来的には徴兵制に近い状態が生まれることを懸念する声もあります。今後は、「古典的な意味での徴兵制の導入」というテーマから一歩踏み込んで、実質的な問題点について議論していく必要があるかもしれません。

(ライター・関田真也)

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