高校3年生の子どもに自衛隊から「赤紙」届きました(※「赤紙」=「赤紙なき徴兵制」「経済的徴兵制」)

井上伸 | 国家公務員一般労働組合執行委員、国公労連書記、雑誌編集者

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昨日、私の子ども(高校3年生)宛てに、「防衛省・自衛隊からのお知らせ」という封書が郵送で届きました。

ちょうど1年前に書いた「AKB48×安倍政権の「赤紙なき徴兵制」-目の前の食べ物を追いかけているうちに気がついたら戦場にいた」の中でも紹介した「高3生に自衛隊の募集案内が、個人宛に続々と届く」という高校生への求人活動の解禁にあわせたものです。

うちの高校3年生の子どもは、自衛隊からの封書を見て、なぜ自分に自衛隊から直接勧誘されるのかという驚きと、自分の人生の中で初めて戦争を身近に感じてまさに「戦争したくなくてふるえる」という感覚に襲われていました。

子どもの親としては、自衛隊がどうやって個人情報を入手したのかがまずもって気になりましたが、その点について疑念を抱かれるであろうことは自衛隊側も承知のようで、以下の紙片が封書に入っていました。

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この問題については、ジャーナリストの布施祐仁さんが昨年、ツイートで「自衛隊のリクルート戦略」の実態を告発していました。そして、今年も布施祐仁さんが次のようにツイートしています。

今日は高校生への求人活動の解禁日。今年も自衛隊が全国の高校3年生に一斉にDMを送ったみたい。戦争法案審議中ということもあり驚いた人もいるだろう。でも、これ毎年やってること。住所などの個人情報は市町村の住民基本台帳から入手しています。

出典:布施祐仁さんのツイート

自衛隊はこんなふうに市町村の住民基本台帳の閲覧をして「募集適齢者」の個人情報を集めています。高校3年生全員にDMを送るなんてことをしてるのは公務員でも自衛隊だけ。今でもそこまでしないと必要な数と質の隊員を確保できないということです。

出典:布施祐仁さんのツイート

今ですらそうですから、さらにこれから少子化が進み、そのうえ安保法案が成立して自衛隊が海外の戦地で「戦死者」を出すような事態になったらどうなるかは、推して知るべしです。「隙のない安全保障」どころか、自衛隊の人的基盤が崩壊しかねません。政府はそこまで考えているのでしょうか?

出典:布施祐仁さんのツイート

「戦争法案」が成立していない現状でも自衛隊員の人数が確保できていないことは、暦年の『防衛白書』を見ても分かります。1989年版(平成1年版)の『防衛白書』にある自衛隊員の現員数は24万7,191人でしたが、直近の2014年版『防衛白書』では22万5,714人(2014年3月31日現在、充足率91.3%)と、2万1,477人も減少しているのです。

全日本教職員組合(全教)と全国私立学校教職員組合連合(全国私教連)が5月8日、「2015年度高校生の就職内定実態調査(卒業時)」の結果を発表しています。それによると高校生を対象にした自衛隊の違法な勧誘が次のように行われていることが明らかになっています。

自衛隊の違法な勧誘

自衛隊の違法な勧誘については、316校からの回答のうち4県の6校7件(北海道1校1件、愛知2校2件、山口2校3件、長崎1校1件)でした。昨年は5校11件(454校から回答)、一昨年は5校14件(426校から回答)。

・自衛隊受験者に家庭訪問や本人への直接の連絡(佐賀)

・自衛隊が、学校を通さないで生徒の個人宅に行き勧誘活動をしている(北海道・10月末報告)

・自衛隊の勧誘の際に、県内の高校比較のような表を提示した。偏差値や受験合否の人達が書かれたものであった(滋賀・10月末報告)

・自衛隊の勧誘については、「消防希望者に併願として希望があるか確認する」と言った次の日に、名前も言っていないのに、その生徒の家に担当者が説明に行ったと聞き、不気味に思った。情報の入手先は自衛隊のイベント、市町村の公式機関とのこと(山口・10月末報告)

この実態調査を受けて、全教等は5月29日、「自衛隊の違法な勧誘活動の中止」を求めて防衛省へ要請し、自衛隊が市区町村に対し、住民台帳に基づき高校卒業予定者の氏名、住所、連絡先のデータを要求し、これに自治体が応じていることをただしています。防衛省担当者は、各地の自衛隊が違法な勧誘をしている状況を把握しておらず、「個別勧誘は違反であり、今後は発見次第に指導する」と回答するにとどまっています。

それから、今回郵送されてきた封書の中にあったチラシ「自衛官の待遇ってどうなってるの???」(下の画像)にも驚きました。

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とりわけ、「隊舎で生活する隊員は全て無料です!」として、「家賃、食費、光熱費、水道料金」など「生活費」(全国平均月約9万6千円)が全て無料とのこと(下の画像)。私たち国家公務員にも公務員宿舎はありますが、全て有料ですので(有料で当たり前ですが)驚きました。自衛隊員から私たち労働組合に、パワハラやセクハラ、残業代不払い、不当解雇などの相談が寄せられますが、そもそも自衛隊員には労働基本権である団結権すらありませんから労働組合に入ることができません。なので、自衛隊員の労働条件については詳細に知る機会があまりないわけです。私たち国公労連には人事院出身の人もいるのですが、その方に聞いてもこの「生活費も全て無料」というのは初めて知ったと言っていました。

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アメリカでは、貧困家庭の子どもや学生に対して経済援助などを持ちかけてイラクやアフガニスタンなどの戦地に送り込む手段(※稲葉剛さんが指摘されている「赤紙なき徴兵制」「経済的徴兵制」)が常態化しています。そう考えると今国会で、安倍政権が「戦争法案」と労働者派遣法改悪などの労働法制大改悪をセットで強行成立させようと狙っていることは、まさに「最大の貧困ビジネスとしての戦争」であることを示すものといえるのでしょう。

▼同封されていたチラシ

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井上伸

国家公務員一般労働組合執行委員、国公労連書記、雑誌編集者

月刊誌『経済』編集部、東京大学職員組合執行委員などをへて、現在、日本国家公務員労働組合連合会(略称=国公労連)本部書記、国家公務員一般労働組合(国公一般)執行委員、労働運動総合研究所(労働総研)労働者状態分析部会部員、月刊誌『国公労調査時報』編集者、国公一般ブログ「すくらむ」管理者。著書に、山家悠紀夫さんとの共著『消費税増税の大ウソ――「財政破綻」論の真実』(大月書店)がある。ここでは、行財政のあり方の問題や、労働組合運動についての発信とともに、雑誌編集者としてインタビューしている、さまざまな分野の研究者等の言説なども紹介します。

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