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江田けんじ 衆議院議員 神奈川8区選出(横浜市青葉区・緑区)

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シリーズ/なぜ国際貢献なのか?・・・ (1) 湾岸戦争トラウマの真実

2007年10月22日  tag:

 テロ特措法をめぐって国際貢献論議がかまびすしい。湾岸戦争の時には130億ドルもの支援をしながら「汗をかかない」と批判されたと、「湾岸戦争のトラウマ」をことさら強調する論者も多い。

 しかし待ってほしい。「湾岸戦争のトラウマ」を言うなら、私も、その当事者の一人である。当時は海部内閣であったが、私は総理の演説担当・国会担当(内閣副参事官)として首相官邸にいた。イラクがクウェートに侵攻(90年8月2日)してから、牛歩牛歩の徹夜国会でPKO法案(国連平和維持活動への協力法案)が成立(92年6月)するまでの丸々二年間、官邸という政権の中枢で、戦後はじめて日本が国際貢献とは何かを厳しく問われた現場で、いやというほど辛酸をなめさせられたのである。

 確かに「カネだけ出して汗をかかなかったから」日本は批判されたのだ、と言うのは、当たっていないことはないが、多分に以下のような特殊事情があったことに留意すべきである。

 まず、「ツーリトルツーリトル(too little too late)」と言われたことだ。いわゆる「小出し後出し」だ。とにかく資金面でもスピーディーに米国他国際社会の要請に応えられなかった。その最大の要因は、極めて低次元の国内権力争い、すなわち「大蔵省vs外務省」の縄張り争いだった。

 今でも鮮明に覚えている象徴的な出来事があった。私が石原信雄官房副長官(当時)の部屋にいると、血相を変えて海部首相の秘書官が駆け込んできて「大蔵大臣がだめだと言っています」。その数十分後には、外国プレスをわざわざ官邸に呼び集めて、海部首相がはじめて、イラクがクウェートに侵攻した後の「周辺諸国支援策」を打ち出そうという時に、肝心の財政当局が「聞いていない」と言って、総理記者会見を中止させたのだ。その張本人は、何を隠そう、その数年後に直接私がお仕えすることになる橋本龍太郎大蔵大臣だった。

 当時の政府において大蔵省の威光には絶大なるものがあった。ましてや自民党の重鎮橋本氏が大蔵大臣である。石原副長官も「今さら言われても」とぶつぶつ言っていたがどうしようもなく、結局、あっけなく記者会見は中止になった。

 おさまらないのが外国プレスである。日本が湾岸危機後、はじめて鳴り物入りで具体的な数字を入れた資金的貢献策を打ち出すというので勇んで来てみたら、まったくの肩すかし。「一体日本は何をやっているんだ!」と怒りをぶちまけて帰っていった。何事も初動が大事と言われるが、これが「ボタンの掛け違い」の始まりだった。

 その後、大蔵vs外務の非生産的な仕切り直しが官僚流儀で行われた後、まったく評価されないタイミングで、まず10億ドルの平和回復活動への協力、次いで20億ドルの周辺諸国支援策と10億ドルの平和回復活動への追加策が打ち出された。

 そして、いよいよ、年が明け、戦争が始まるというので90億ドルの戦費支援の問題になるのだが、これもやっと、石油やたばこの緊急増税で財源を捻出したものの、国会との関係で「武器・弾薬には使わせない」。米国も、さんざん待ったあげく資金の「使途に悶着をつけてくる」日本に、ほとほとあきれかえる思いだったという。

 こうした経緯があったものだから、一口に130億ドルの支援といっても感謝されなかった。いや、実は、この「湾岸戦争のトラウマ」とは、直接的には、当事国のクウェートが戦後出した米国新聞の感謝広告に「JAPAN」がなかったというコンテクストで使われるのだが、しかし、これも考えてみれば当たり前のことなのだ。

 実は、90億ドル支援(当時のお金で約1兆2000億円)のうち、クウェートに払われたのはたった6億円だったという事実を知らない人が多い。1兆円以上のお金は米国のために支出されたのだ。クウェートの首長は石油王で、イラクがクウェートに侵攻している間は、実は隣国のサウジの超高級ホテルのスウィートルームで優雅な生活を送っていた。その石油王にとって6億円程度は「はした金」にすぎないわけだから、感謝しようにもその気がわいてこないのは、ある意味しょうがないことなのだ。

 言いたいことは、「湾岸戦争のトラウマ」を例にあげながら、しきりに「お金だけではだめだ」「汗をかけ」「自衛隊を出さなければ」と言っている人には、背後に、こうした事情、経緯があったことを知った上で発言してもらいたいということだ。「おカネ」は決して卑下すべき貢献策ではない。時と場合によっては、効果てきめん、感謝される貢献策となりうることも肝に銘じておくべきであろう。

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