2005年07月12日

貧弱な装備で働く、おじさんには向かない職業

National_Guard_12003年10月、人口7千人の町、アーカンソー州クラークスビルの州兵(National Guard)たちに、突然、召集令状が届いた。
「イラクの自由作戦」に参加せよ、勤務は最長で730日だというのだ。

州兵は各州の知事の監督下にある軍事組織だが、その主な任務は災害救助であり、普段は別に仕事を持っている10代から50代の市民で組織されている。


National_Guard_2国家の非常時には大統領の命令で正規軍に編入されることになっているが、平時は年に一度2週間の合宿と月に一度の訓練を義務付けられているだけであり、州兵たちは「海外出兵することなんてない」と思っていた。
この部隊が、実戦配備されるのは実に60年ぶり、第二次世界大戦以来である。

クラークスビルの州兵部隊には、輸送用トラックや装甲車などの軍用車両60台が配備されていた。

National_Guard_3ほとんどが1950年代のもので、一番新しいものが1956年製だが、これをイラクまで運んで使うことになる。

防弾装甲になっていないので、イラクでは、廃材となった鉄板や防弾チョッキを取り付けて補強した。木製の型枠に砂などを詰めることもあった。


これは、NHK・BS1の「BSドキュメンタリー」から「アーカンソー州兵」のシリーズです。
「突然の召集令状」「バグダッド出兵」「帰還を待つ家族」と、今回の「バグダッドを去る」まで4作品を見ました。


クラークスビルの州兵部隊で指揮を執るブライアン・メイソン少尉(35)も、陸軍経験はあるが、普段は印刷会社の営業マンだ。

七面鳥農家のロナルド・ジャクソン氏(45)は、10年前に農場を始めたとき、経営が安定するまでの間の生活の足しにするつもりで、州兵に登録していた。州兵の月給は、300ドルだった。

州兵に登録したばかりのドニー・アイルラン氏(16)は、両親の家に同居しているが、同い年の妻は妊娠している。父のウェイン氏も州兵に登録していたので、親子同時に出兵することになった。

地域に貢献するために州兵に登録していたジョー・ベッツ氏(39)は、2年前から牧師を務めている教会の信者が増え、軌道に乗ってきたところだった。子どもが3人いる。

マット・ハートライン氏(19)は、「月に一度の訓練に参加すれば学費もらえて大学に行って酒飲んで遊んでいられる」と友達に聞いて、高校卒業後、州兵に登録したばかりだった。2年間州兵に登録すれば、奨学金がもらえるからだ。


州兵たちは、テキサス州フォートフッド陸軍基地で、陸軍に編入され、6ヶ月間の訓練が行われた。
訓練中に、ドニー・アイルラン氏は、精神鑑定の結果、「暴力をコントロールする力が弱い」として派兵不可能とされ、除隊することとなった。


2004年3月下旬、クラークスビルの州兵たちは、クウェートに到着し、2週間後にイラクに出発した。
600km先にあるバグダッドの北西30km、キャンプ・クックを根拠地として、バグダッド市内とその近郊をパトロールする任務に就くのである。

国防総省は、イラク駐留アメリカ軍兵士14万人の1/3に相当する4万人余を州兵に割り当てるとしていた。
アーカンソー州から派遣された州兵は、全米で最も多い4,000人である。

バグダッドで迫撃砲弾を受けて顎と左腕に重傷を負ったウェイン・アイルラン氏(47)は、いったんドイツに移送され治療を受けた後、クラークスビルに帰還し、先に除隊となっていた息子のドニー氏と再会した。

帰還によって、イラク出兵中は陸軍兵士として月7,000ドルほどあった手当てがなくなり、州兵の手当である月300ドルほどに戻っただけでなく、医療費の多くも自己負担となった。負傷兵に支払われる社会保障手当の申請は複雑で、期限が切れてしまった。
大手家電メーカーで組立工をしていたウェイン氏だが、5回の手術を受けたものの複雑骨折し神経が切断された腕は快復する見込みは少ない。

大統領選挙の最中、2週間の休暇を取得して一時帰省したマット・ハートライン氏は、高校の後輩たちにイラクの話をするよう依頼された。

首と肩を痛めて3ヶ月の静養・治療が必要と診断され、テキサス州フォートフッド陸軍基地に戻っていたジョー・ベッツ氏は、3ヶ月を経ても快復しなかった。
故郷の州兵事務所に配置転換になり、自宅から事務所に朝8時に通勤するようになったが、仕事は電話番と掃除だけ、報酬は州兵の手当である月300ドルだけだった。


2005年1月のイラク総選挙前、3月7日から順次撤退することが発表された。
州兵の任期を6年延長すれば総額15,000ドルが支給されるので、延長に応じた者もいる。

しかし、任務終了を前にしてクラークスビルの州兵たちから初の戦死者が出た。
ライル・ライマー氏(24)である。残された妻と幼い子どもには、政府から見舞金として25万ドルが支給されるという。


アーカンソー州からイラクに派遣されていた州兵、4,000人のうち死者は34名。負傷者は500名を超えた。
クラークスビルから出征した兵士は全員で57人。うち7名は負傷などで戦線を離れ、戦死者は1名だった。



"National Guard"を一般には「州兵」と訳してますが、本当は「国土防衛隊」でもいいはずで、本来の意味における防衛目的以外で自国の領土外に派遣するのは契約違反じゃないかと思うのですけど、我らが自衛隊の皆さんと同様に、よく耐えてますよねえ。
もちろん素朴に自分の務めを果たすという人もいますが、政治の貧困だという人もいたりして、そういうあたりが普通の市民感覚を反映していて、いいドキュメンタリーになってました。


ただ、驚くのは装備の貧弱さです。
前にTBSで見たアメリカのCBSドキュメント「60Minutes」のリポートで、オレゴン州兵の例でしたが、留守宅の家族が兵士に頼まれて民生品のGPSやトランシーバー、暗視ゴーグルまで仕送りしているほどだそうです。

このドキュメンタリーでもアーカンソー州兵の胸にオレンジ色の通信機が見えましたが、これも軍用品ではないでしょう。

6月の上院公聴会では、「満足な装備もなしに兵士を戦場に送り出した」などで「野球なら三振アウトだ」と非難されたラムズフェルド国防長官が「2度辞意を表明したが、2度とも大統領に慰留された」と発言して、それこそ開き直っていましたが、こういう戦争の仕方をしていると、いまさら後任を引き受ける人もいないのでしょうね。。。


【関連記事として】イラク最前線を行く -アメリカ海兵隊同行取材-(2005/05/21)イラク戦争 死者の統計(2005/07/01)

soliton_xyz at 23:43│Comments(0)TrackBack(0)イラクと中東 

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