ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
撤退するアメリカと「無秩序」の世紀
【第1回】 2015年4月24日
著者・コラム紹介バックナンバー
ブレット・スティーブンズ [WSJ外交問題コラムニスト・論説欄副編集長],藤原朝子 [学習院女子大学]

アメリカ人はもう「世界の警察」を続ける気がない
中国が暴走したとき、アメリカは日本を守るのか?

previous page
3

中国、ロシア、イランの暴走を
止める力はもうアメリカにはない

 冷戦時代は、アメリカのどの都市にもソ連のICBMが三〇分で到達する可能性があったから、一般市民にとっても外交は非常に身近な問題だった。だが冷戦は終わった。アメリカ人はいまほかに心配するべきことがある。まずは自分自身だ。

 だとすれば、アメリカが総じて世界に背を向ける時代に突入したのも驚きではない。その論理は表面的だが説得力があり、政治的に強烈なアピール力がある。だから少なくとも一期目のオバマは、外交政策で高い支持を得ていた。

 また草の根保守派運動ティーパーティーや、ランド・ポール上院議員など自由主義的な考えを持つ共和党議員は、一九七〇年代にジョージ・マクガバンがベトナムからの撤退を訴えて、「アメリカよ、帰ってこい」と唱えたのと似たスローガンを訴えている。

 これまでの経過を見る限り、何をやってもアメリカは黙認するだけだと見込んで、世界秩序に挑戦する行為は増える一方だ。

 バシャル・アサドは今後もシリアの独裁者として君臨し続けるのか。だとすれば、それはレバノンやイラク、ヨルダン、イスラエルにどんな影響を与えるのか。

中国政府は、世界の海上輸送の三分の一が通過し、世界屈指のエネルギー資源が眠る南シナ海を中国の湖にしてしまうのか。

イランは核兵器を獲得するか、獲得に限りなく近づき、危機感を覚えたサウジアラビアまでが独自の核開発に乗り出すのか。プーチンはNATOの弱腰に乗じて、旧ソ連諸国への影響力をいっそう強めるのか。

 中国経済のバブルが崩壊したら、あるいはユーロ圏が再び激しい不況に見舞われたら、あるいはアベノミクスが抵抗勢力によって本格的な構造改革を阻まれて失敗に終わったら、アメリカ経済は世界経済を牽引できるのか。

アメリカが世界秩序を維持する役割を拒否するなか、悪夢のシナリオの現実味は高まっている。

previous page
3
スペシャル・インフォメーション
ダイヤモンド・オンライン 関連記事
新1分間マネジャー

新1分間マネジャー

ケン・ブランチャード 著/スペンサー・ジョンソン 著/金井壽宏 監訳/田辺希久子 訳

定価(税込):本体1,300円+税   発行年月:2015年6月

<内容紹介>
30年以上世界中で読まれてきた上司のための教科書が、生まれ変わった。短期間で目覚ましい成果を上げる「新1分間マネジャー」はどんな手法を使っているのか。「1分間目標」「1分間称賛」「1分間修正」の3つの秘訣で、部下のやる気を高め、自発的に動ける社員に変える。寓話形式だから、短時間で簡単にわかる。

本を購入する
書籍編集者募集中!


知っておきたい価値ある情報 ダイヤモンド・オンラインplus


ブレット・スティーブンズ [WSJ外交問題コラムニスト・論説欄副編集長]

 

ウォールストリート・ジャーナル紙外交問題コラムニストおよび論説欄副編集長。2013年にピューリッツァー賞(論説部門)を受賞。ニューヨークで生まれメキシコで育つ。シカゴ大学(学士号)とロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(修士号)で学ぶ。エルサレム・ポスト紙編集主幹(2002~2004年)。家族と共にニューヨーク在住。

 

 

藤原朝子[学習院女子大学]

 

学習院女子大学非常勤講師。フォーリン・アフェアーズ日本語版、ロイター通信などで翻訳を担当。訳書に『ハーバードビジネススクールが教えてくれたこと、教えてくれなかったこと』(CCCメディアハウス)、『未来のイノベーターはどう育つのか ―― 子供の可能性を伸ばすもの・つぶすもの』(英治出版)など。

 


撤退するアメリカと「無秩序」の世紀

イスラム国、クリミア半島、アフガニスタン、尖閣諸島……
世界各地で頻発する危機の背景にはアメリカの驚くべき方針転換があります。
いま世界で何が起きているのでしょうか。そして、日本はどう対処すべきでしょうか。ピューリッツァー賞受賞のWSJコラムニストが、歴史とデータから世界の秩序の崩壊を丹念に分析していきます。
アメリカがもしも「世界の警察」の役割を放棄したとき、中東・ロシア・中国はいかなる行動に出るでしょうか。日本もまた世界情勢から無関係でないことを、イスラム国による後藤健二さん・湯川遥菜さん殺害で思い知った今、本連載で世界秩序の行く末を占います。

「撤退するアメリカと「無秩序」の世紀」

⇒バックナンバー一覧