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【中高生のための国民の憲法講座】
第80講 「普通の国」として何ができるか 長尾一紘先生
日本と世界の常識乖離(かいり)
「戦争は悲惨なものだ。よい戦争も、正しい戦争もありえない」
これが日本の常識です。
「よい戦争(グッド・ウォー)は存在しないかもしれないが、正しい戦争(ジャスト・ウォー)は存在する」
これが世界の常識です。
日本において「戦争」は情緒のレベルで把握されていますが、世界の国々では「戦争」は政治道徳のレベルで把握されています。こうした戦争観の相違を意識させたのが湾岸戦争です。
湾岸戦争は、フセインのイラク軍のクウェート侵攻によって開始されました。これは、ヒトラーのポーランド侵攻に匹敵しうる蛮行です。日本国は自衛隊の派遣を断りましたが、世界一多額の拠出金を負担しました。その額は、130億ドルに及びました。
終戦後、クウェート政府は戦争に協力した国々に感謝の意を表しましたが、そのなかに日本国が含まれていません。「金は出すが、血は出さない」という日本の態度をみて、感謝の必要はないと判断したのです。この事件は、国民に対して大きなショックを与えました。湾岸戦争は、国際社会において「正しい戦争」とみなされていたのです。
西欧においては、中世以来、「正戦論」の伝統があります。どのような戦争が「正戦」にあたるかということは、時代によって異なります。
現在の国際社会において、自衛戦争が「正しい戦争」とされていることは明らかです。これには、個別的自衛権にもとづく戦争と、集団的自衛権にもとづく戦争が含まれます。