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水循環の法制化 地下水を「公共」の財産に

(2014年6月8日午前8時27分)

 川から地下まで含めた“水の循環”を流域で保全、回復させる「水循環基本法」が議員立法で成立した。7月までに施行される。とき遅きの感だが、水の保全は国土と国民の生命を守ることにほかならない。「水の世紀」といわれる21世紀。国連は昨年を「国際水協力年」に制定した。紛争の懸念を抱え世界は深刻な水不足にあえいでいる。

 きれいな水を豊かに当たり前に使ってきた日本も、高齢化、過疎化の隙をうかがうように水源地買収を進めてくる外国資本(外資)に足をすくわれかねない状況にある。治水の在り方を本格的に見直し、自然な水の循環を守らなければならない。

 ■見事なバランス保つ■

 水の惑星・地球を覆う水は液体、気体、固体に変化しながら陸、海、空を往来している。少し理科の勉強をしてみよう(日本海事広報協会データより)。

 雨、雪は1年間に陸地へ111兆トン、海に385兆トンの計496兆トン降るという。地表や植物などから71兆トン、海から425兆トンが蒸発し計496兆トンが空へ帰るのでプラス・マイナス0。地球上の水は見事なバランスを保ち循環している。

 想像し難い数字を並べると、地球上には約14億立方キロメートルの水がある。97%以上が海水で淡水は2・5%ほど。淡水のうち70%を氷河が占め、地中深く閉じ込められた地下水が29・2%。残り0・8%が、人類が使える水の量。地球上の水全体のわずか0・01〜0・02%という。

 蒸発した水は上空で冷やされ雲の粒(しずく)になり、雨や雪で地球上に落ちる。いろんな出入りを繰り返し最後は海へたどり着く。水の循環である。

 ■不気味な外資の買収■

 水管理をめぐる日本の行政は縦割りの典型と批判が強い。河川と下水道は国土交通省、水源地は林野庁、農業用水は農林水産省、上水道が厚生労働省、工業用水は経済産業省とばらばらの管轄は複雑で分かりにくい。

 このため、水の循環を断たずに守るという視点の欠落を指摘されてきた。基本法は内閣に水循環政策本部を置き、基本計画を策定する。関係省庁を横断した実効的な総合策を望みたい。

 立法目的の一つが潜行する外資による水源地の買収である。地下水の奪取を懸念する自治体は多い。民法で土地の所有権は「その上下に及ぶ」とされ、地下水は所有者に帰属するからである。2006年から12年までに計68件、800ヘクタールの森林が外資に渡った(林野庁集計)。買収の実態は不明で気味が悪い。

 ■良質の水いつまでも■

 自治体側は国に「地下水は公のもの」と法制化するよう求めてきた。基本法は「国民共有の貴重な財産、公共性が高い」と強調はするが、地下水が「公共のもの」とは明記せず自治体には不満な内容だ。将来のトラブル回避へ水源地の民有地一帯を買い上げる自治体もある。国は支援を検討すべきだろう。地下水保全の立法化も水循環の視点から規制の根拠を明示したい。

 河川の流域ごとに水の循環を管理する体制も重要な課題だ。温暖化の影響もあって集中豪雨が頻繁になり、今後も増えると予想されている。雨水の貯水も含めダムだけに頼らない治水を流域全体で議論するきっかけに基本法を生かすことだ。

 福井豪雨から10年の8月に、「雨水ネットワーク会議」全国大会が福井で開かれる。自然保護や水質改善に取り組む民間団体も挙げ、あらためて水の循環に目を向けたい。全ての人がいつまでも良質の水を享受できるために。
(大塚潤三)

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