社説:河野談話の検証 これで論争に終止符を

毎日新聞 2014年06月22日 02時35分

 政府は、慰安婦問題で旧日本軍の関与を認めた1993年の河野洋平官房長官談話について、作成過程を検証した報告書を公表した。談話の焦点である「強制性」の認識を巡って、日韓両政府が緊密な文言調整をしていたことが明らかになった。

 談話の正当性を巡る論争は一区切りにして、歴史家や研究者に任せよう。政治は慰安婦問題の解決に真正面から取り組まなければならない。

 検証は、2月に国会で元慰安婦への政府の聞き取り調査の信ぴょう性に疑義が示されたのを契機に始まった。安倍晋三首相はもともと談話に批判的だ。当初は、談話見直しにつなげる意図があったのではないか。

 だが日韓関係改善を迫る米国の意向もあり、首相は3月に談話継承を表明せざるを得なかった。その結果、談話は継承するが検証もするという、わかりにくい対応になった。

 検証結果からは、日本が「強制連行は確認できない」という立場を維持したまま、韓国の意見を踏まえて強制性の表現を工夫する様子が伝わってくる。朝鮮半島での慰安婦募集の際の強制性については「甘言、強圧等、総じて本人たちの意思に反して行われた」との表現で決着した。

 また、日本が民間の寄付金をもとに補償した「アジア女性基金」の経緯も検証し、韓国政府が一時は基金を評価したことを明らかにした。

 韓国政府は「談話の信頼性を毀損(きそん)する」と反発し、日本国内の一部保守派からは「談話の信頼性は崩れた」と見直しを求める声が出ている。

 談話が問題解決を目指した政治的文書の性格を帯びていたのは確かだ。事前調整があったのは、韓国が受け入れ可能な内容でなければ意味がないと日本も考えたからだろう。そのことで談話の信頼性や正当性が損なわれたと考えるのは誤りだ。

 検証チーム座長の但木敬一元検事総長は「日本は絶対に認められない事実は認めていない。韓国も立場は譲っていない」と語っている。むしろ当時の日韓の担当者が、慰安婦問題の解決に向けぎりぎり譲れる範囲で歩み寄った姿勢を評価したい。過去をこれ以上、掘り返しても互いの信頼が損なわれるだけだ。

 菅義偉官房長官が談話継承を改めて強調したのは当然だ。米国務省のサキ報道官は「米国は河野談話を見直さないとした菅長官の声明に留意している」とその姿勢を支持した。

 韓国側にも配慮を求めたい。過剰な表現で一方的な批判をするのは控えてほしい。こうした言動への日本国民の不快感が、談話見直しへの一定の支持につながっているからだ。

 過去を冷静に見つめ、未来に生かす発想を互いに今一度思い起こそう。検証をその契機にしたい。

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