March 13, 2014
コロンビア大学のラモント・ドハティー地球研究所とウェストバージニア大学の研究チームによる樹木年輪調査で、名もなき遊牧民族だったモンゴルの騎馬戦士たちがなぜ、800年の昔に流星のごとくアジア全土を駆け巡り、その行くところ全てを征服することができたのか解明されるかもしれない。普段は寒冷で乾燥した大草原地帯に、15年間にわたる豊富な雨と温暖な気候がもたらされていたのだ。これほど長期にわたる雨は、モンゴルがそれまで経験したことがなく、それ以降も例のない、この時期だけに限定された気象現象だった。
モンゴル中央に位置するハンガイ山脈に生育するシベリア松(Siberian pine、学名Pinus sibirica)はごつごつと節くれだち、曲がりくねった幹を持つ。研究チームはその年輪を調査し、紀元900年から現代に至るまで、その土地のきわめて正確な気候状態を年代記にまとめ上げた。その結果は3月10日付け「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌オンライン版に発表され、モンゴルの急速な台頭の理由に関して、新たな解釈を提示している。
これまで、モンゴル拡大の始まりは、代々居住してきた険しい岩山での厳しい生活環境・・・
モンゴル中央に位置するハンガイ山脈に生育するシベリア松(Siberian pine、学名Pinus sibirica)はごつごつと節くれだち、曲がりくねった幹を持つ。研究チームはその年輪を調査し、紀元900年から現代に至るまで、その土地のきわめて正確な気候状態を年代記にまとめ上げた。その結果は3月10日付け「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌オンライン版に発表され、モンゴルの急速な台頭の理由に関して、新たな解釈を提示している。
これまで、モンゴル拡大の始まりは、代々居住してきた険しい岩山での厳しい生活環境から何とかして逃れるためであったと考えられてきたが、ラモント・ドハティーの研究結果からは、正反対の背景が見えてくる。1211〜1225年の間は、ちょうどチンギス・ハーンとモンゴル帝国の台頭に重なっており、その時期中央モンゴルでは、少なくとも過去1100年かそれ以上の間経験したことのない長期間の好気候に恵まれていた。
「新たに分かったことで特に注目すべきは、15年間連続でこの土地に平均以上の湿潤な気候がもたらされていたという点だ」と、ラモント・ドハティー地球研究所の樹木年輪研究者で、今回の研究を率いたニール・ピーダーセン(Neil Pedersen)氏は述べている。
◆草が増えれば馬も増え、軍事力増強
まれに見る好気候が長期間続いたことで、草が豊富に育ち、家畜の群れや戦闘馬も著しく増加し、モンゴルの軍事力の基礎を築き上げた。それと全く対照的なのは、1180〜1190年代にこの土地を襲った未曾有の長期干ばつで、それが内乱や分裂を引き起こしていた。
温暖な気候と時期を同じくして、チンギス・ハーンという力強い指導者が権力の座に着き、民族統一に動き出したことは、モンゴルにとって幸運だった。
「極端な干ばつから極端な湿潤への移行は、気候変動が人間の活動に影響を与えていることを強く示唆している」と、モーガンタウンにあるウェストバージニア大学の樹木年輪研究者であり、今回の研究の共著者であるエイミー・ヘッスル(Amy Hessl)氏は述べている。「それだけが原因とはいえないが、カリスマ的指導者が混乱の中から現れ、軍隊を作り上げ、権力を集中させるために理想的な状態を作り出したと考えられる。乾燥した土地にいつも以上の降水があれば、いつも以上の植物成長があり、それは文字通り馬力の増強につながる。チンギス・ハーンはその波にうまく乗ることができたのだろう」。
こうして波に乗ったチンギス・ハーンは1227年の死まで、自国の民族を率いて、最終的には朝鮮、中国、ロシア、中東、東ヨーロッパ、ペルシャ、インド、東南アジアまでも覆う一大帝国を築き上げた。その後数世紀をかけてモンゴル帝国は解体していくが、チンギス・ハーンの直系の子孫の一部は、1920年代まで中央アジアの山間の地域を支配していた。
◆現代のモンゴル侵攻
ラモント・ドハティー研究チームのまとめた気候年代表を見ると、21世紀初頭は、1180〜1190年代の大干ばつをさらに上回る、過去数百年の中でも最悪の干ばつと猛暑を記録している。この気候変動が、現代のモンゴル侵攻にも一役買っているとも考えられる。
厳しい気候に加えてモンゴルのポスト共産主義社会の急激な変化により、乾燥した草原地帯から首都ウランバートルへ、大規模な民族移動が起こっているのだ。現在、モンゴルの300万強の人口のうち半分ほどがウランバートルに居住している。
PHOTOGRAPH BY KEVIN KRAJICK/THE EARTH INSTITUTE, COLUMBIA UNIVERSITY