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水循環基本法

2014年5月9日
流域で管理する体制を示せ

 「水の世紀」とも呼ばれ、水をめぐる紛争が懸念される21世紀。河川水や地下水も含めた水の循環を流域で維持し、回復するための施策を推進する水循環基本法が議員立法によって今国会で成立した。7月までに施行される予定だ。

 河川と下水道が国土交通省、水源地が林野庁、農業用水が農林水産省、上水道が厚生労働省、工業用水が経済産業省など水をめぐる行政は縦割りが指摘されて久しい。基本法は内閣に水循環政策本部を置き、循環基本計画を策定するとしている。

■「公共性」では不十分■

 都市では雨水は川に早く流すことを主眼に置いてきた。雨水をためて利用するのは自治体や事業者任せだった。今までの行政は、水をどう守るのかの視点が欠けていたと指摘できる。

 だが基本法だけでは不十分だ。課題が多く残っている。一つは、外国資本によって水源地の買収が進み、地下水が奪われるのではと懸念する自治体が増えていることだ。林野庁の集計では、北海道などで2006年から12年までで計68件、800ヘクタールの森林を外国資本が取得している。日本人名義での購入もあり、実態はよく分かっていない。

 北海道など多くの自治体が、水源地の売買前に地下水の採取も含めどう開発するのかをチェックする事前届出制度を導入する条例を作成している。本県では外国資本による水源地の買収は確認されていないが、今年2月定例県議会で県水源地域保全条例案を可決。また小林市や高原町では、新たな井戸の設置を許可制とする水源保全条例を制定している。

 基本法では、基本理念として「水が国民共有の貴重な財産であり、公共性の高いものである」と水の公共性は強調したものの、地下水が「公共のもの」とは明記しなかった。自治体にとって不十分な内容だ。

■環境改善考える場に■

 基本法に基づき地下水を保全する法律をつくる場合は、この点を考慮し水循環の視点から過度のくみ上げを規制できる根拠を明快に示すよう求めたい。

 もう一つの課題は、河川の流域ごとに水循環を管理する体制の在り方だ。基本法は「総合的かつ一体的な管理を行うため、必要な体制の整備を図る」と述べている。

 体制については、流域が一つの都道府県内にあれば、関係自治体が協力しやすい。しかし、利根川や淀川のような大河川は複数の都道府県が関係するだけに難しい。国の出先機関も含めてどのような体制にして権限を与えるのか。具体的な設計図を示すべきだ。

 地球温暖化に伴って集中豪雨の回数が増えると予想される。雨水をためて使うことも含め、ダムだけに頼らない治水の在り方を流域で議論するきっかけにしてほしい。自然保護や水質改善に取り組む民間団体も入れ流域全体の環境改善を議論する場にも使うべきだ。

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