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世界に、「水」ビジネスで貢献を! 100の行動64 国土交通8

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 「水は世界で最も価値がある資源だ」

 映画「007」第22作「慰めの報酬(2008年)」で、ジェームス・ボンドと対決する秘密組織の幹部が語った言葉だ。

 映画では、秘密組織が南米ボリビアを舞台に水資源の独占による世界支配を目論む。世界支配のキーは、石油でも金でもなく、水だ。映画「007慰めの報酬」の放映は6年前。現代の世界の課題を先取りした内容と言えよう。 今や世界では水資源の争奪戦が繰り広げられている。急速に発展を遂げる中国では、湖の消失、汚染が相次ぎ、過去50年で約1000か所の湖が消失している。年間20もの湖が枯渇している計算だ。かつて「千湖之省」と称された湖北省では、現存する湖の面積は2439平方キロメートルと1950年代と比べてわずか34%の面積にまで減少している。

 ロシアでは、1960年代までは世界4位、琵琶湖の100倍の面積を誇ったアラル海が消えかけている。灌漑用水に大量の水を使用したため水量が減り続け、9割以上が干上がってしまっているのだ。

 日本も他人ごとではない。水資源を求める中国資本を中心に外資による日本の森林買収が急増しているのだ。林野庁によると、平成24年一年間で18ヘクタールも増えている。未確認情報ではあるが過去7年での外資による森林買収は801ヘクタールと急増していると試算されている。世界の水需給が逼迫していく中、日本の緑あふれる山を買い、水源地を確保しようとする動きが活発化しているのかもしれない(一方、買収された森林から実際に水をとりだした実績は無い。水を採取し運搬するには膨大な投資が必要となるので、どこまで水源確保が目的かは特定できない点もある)。

 日本人は長らく、空気と水と安全はタダだと思ってきたが、今や水は世界で最も価値のある資源であり、大きなビジネスの対象なのだ。水資源事業への投資は世界的潮流となり、世界の大手水関連企業の過去20年間の株価は約30倍になっている。

 日本では、ここ数年、超党派の議員連盟などによって、国内の水資源の保全を図るための「水循環基本法」制定に向けた動きが浮き沈みしてきたが、本年3月27日、ようやく水循環基本法が成立した。水資源の乱開発を防ぐため、政府に必要な法整備を求めるなどの内容だ。水と水を生み出す環境は国家的資源であり、今後世界の水獲得競争は激しさを増していく。日本も国策として「水」に取り組む必要がある。

水資源の確保のためにも日本の林業の復活を!

 増大する世界の飲料水需要によって、安全な水への需要はどんどん高くなっている。日本の水は世界でも屈指の安全さとおいしさを誇るが、実は日本の水資源は決して豊かであるわけではなく、1人当たり換算の資源量では世界平均の約2分の1に過ぎない。

 このため、水源地とその後背森林である水源林を押さえておくことは極めて重要だ。森林は、雨水を涵養(かんよう)し、地下水として蓄える。雨水が森林にしみ込む間に、自然の力でろ過され、おいしい水となるのだ。当然ながら、森林がなければ、降った雨水は蓄えられることなく、土砂崩れや洪水を引き起こすこととなる。したがって、森林は水資源の源であり、基幹道路や発電所などと並ぶ国の重要な公共インフラであるという認識を持たなければならない。

 我が国は、国土の67%に当たる2,500万haの森林を維持しており、先進国の中でも高い森林率を誇る森林国である。森林面積のうち約4割に当たる1,000万haは人工林であり、近年、その面積は横ばいで推移している。 しかし、我が国では長引く林業低迷の結果、先に述べたように不当に安い値段で外資に森林が売られたり、植林が放棄されて荒れたまま放置されたりと十分に森林が守られていないのが実態だ。

 日本の森林の約7割を占める民有林は、森林法によって その管理に関する事項が規定されている。森林法では、水源の上流域にあたる森林を水源涵養保安林に指定して保全を図ることになっているが、この水源涵養保安林には、日本の森林の約45%にあたる1,142万ヘクタールが指定されており、あまりに広大であるため、森林法上の他の保安林と比べて規制が緩いといわれる。

 森林法上、保安林の伐採は許可制であり、植林をしないと森林法違反として罰金が課される。保安林以外の普通林でも伐採は届出制で、無届け伐採には罰金が課される制度になっている。しかし、実態は、植林放棄地は全国で1万7000ヘクタールあるにもかかわらず、森林法の処罰事例はほとんどない。植林放棄は資金不足によるものもあるが、届出制度があること自体所有者が知らない事例や、自治体によるチェック機能の無さも指摘される。

 植林放棄の影響は、世界の水獲得競争がさらに激化した数十年後、現出してしまう可能性がある。水資源涵養機能の保持のために、広大すぎる水資源涵養保安林を再定義して明確化するとともに、重要な水資源林に関しては、植林に必要な強いインセンティブを与えるべきだ。

 一番良い方法は、植林に経済的価値を見いだせる日本の林業の復活だ。ドイツでは成功しているので、日本で復活できない理由は無い。春先になると戦後に植林した杉による花粉症で悩んでいる人が多い。杉を伐採し、花粉症にならない新たな品種に植え変えることもできよう。林業や機械の近代化、人手不足等の課題はあるが、起業家精神を持った人・企業を、政府は積極的に後押ししても良いと思う。

水資源の輸出規制・地下水利用規制の創設を!

 森林法では民有林の売買に関する規制条項はなく、 所有者は自分の林地を自由に売買することが可能だ。その上、地下水の揚水に関するルール整備が不十分なため、法律上は、所有者は所有する森林の地下にある地下水を自由にくみ上げることができることになってしまっている。

 日本は水道水源のうち約3割を地下水に依存しているといわれるが、地下水の揚水に関しては、工業揚水法などで一部規制が設けられているものの、生活用水や農業用水の地下水の揚水は基本的に土地の所有者の自由になっている。地下水が涵養され、更新される平均期間は、1400年といわれる。今後水資源の獲得競争が激しくなる中で、森林の売買も自由で地下水の揚水も自由という野方図な水資源管理は改める必要がある。

 法整備が不十分のため、現在は企業などが自治体と協力して自主規制によって、水資源の管理をしている事例がある。たとえば、山梨県北杜市白州町は日本有数の原水提供地で、サントリーのウィスキーやコカ・コーラ系の白州ヘルス飲料(株)など大手5社の地下水取水口がある。各メーカーは自社取得の敷地で地下水を汲み上げているが、大量の取水は付近の地下水の枯渇や地盤沈下を誘発してしまうため、同地では、自主規制によって地元自治体と各社との申し合わせと地下水位の観察がなされている。

 こういった自主規制の事例を参考としつつ、地下水の利用に関して取得制限や公表義務等を行う法規制を整備すべきだ。

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