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先日のダクネス短編と同じく、これもそのうち、サクッと削除されます。
五部
日頃の感謝なめぐみん短編
 めぐみんとゆんゆんが、ウチの庭で座禅を組み、二人して何かをぶつぶつと呟いていた。
 昼飯を食べた後から、ずっとこの調子だ。

 二人のそんな様子を、俺は一人の幼女と共に見物していた。

「……おにいちゃん。わたしのおねえちゃんは、何をしているんですか?」
「あれはね、食後にああして呟いて、太らない様に自己催眠を掛けているんだよ。近くに寄って聞いてごらん? きっと、太りませんように太りませんようにとぶつぶつ呟いているよ。……みかん食べるか?」

 両親がしばらく留守のため、ウチに昼飯を食べに来たこめっこに、俺は籠に入ったみかんを差し出す。

「食べる。……ご飯を食べた後じゃない時とか、寝る前とかにも、あれをやっている時があるんです」
「それはね、寝る前にああして呟いて、自分の心に言い聞かせているんだよ。寝て起きたら成長している。寝て起きたら成長している、って。あの位の年頃になると、成長は頭打ちになるからね。ああして、脳内にもう一人の自分とかを作って、慰めてもらってるんだよ。……ジュース飲むか?」
「飲む。……おねえちゃんもゆんゆんも、太らない様に大きくなりたいのかー」

 めぐみんとゆんゆんが、突然立ち上がり駆け寄って来た。
「妹に勝手な事を吹き込むのは止めて下さい! 信じたらどうするんですか!」
「私、私、太ってませんし! ちょっとずつですけど、一応まだ背も伸びてますし!」





 話を聞くと、どうも魔法の詠唱の練習をしていたらしい。





「まほーふはいにとっへ、魔法のえいひょうの早口れんひゅうは基本なのれふ」
「おねーちゃん、わたしのみかんー! わたしのみかんー!!」

 こめっこが腹に抱いていたみかんの籠を取り上げ、めぐみんがその内の一つをほお張りながら教えてくれた。

「んぐっ……。こめっこ、みかんは一つにしておくのです。でないと、晩ごはんが食べられなくなりますよ」
「おねーちゃんは横暴だ! わたしがもらったのに! わたしがもらったのに!」
 こめっこにまとわりつかれながら、めぐみんがみかん籠をゆんゆんにパスした。
「えっ? あっ!」
 籠を渡されたゆんゆんにこめっこがまとわりつくが、立っているゆんゆんの高さは、こめっこが背伸びしても籠を取り返す事が出来る高さではない。

 ひとしきりゆんゆんにまとわりついた後、こめっこが大声で。
「ゆんゆんがみかん盗ったー! みかん盗ったー!」
「ああっ! ちっ、違うの! こめっこちゃん、別に盗った訳じゃあ……! ねえめぐみん、どうしよう! どうしたらいいの!?」
「妹の為にもみかんは死守して下さい。この子は際限なく食べるので、夕飯までずっと食べ続けます。そして、お腹が一杯な状態で今晩のご馳走を見て、食べたいのに食べれず、泣き出す事が安易に予想できます。友達なら、絶対に渡さないでくださいね」
「!?」

 理不尽な頼みを託されたゆんゆんは、泣きそうになりながらも籠を高く上げ、こめっこの説得を始めだす。
 めぐみんは、そんな様子を眺めながら、庭の芝生にあぐらをかいている俺の隣に座り込んだ。

「もう魔法の詠唱の練習は良いのか?」
「妹に余計な事を吹き込んで私達の修行を邪魔しておいて、抜け抜けと言いますか。今日はこのまま休みます。天気もいいし、たまには昼寝でもしましょうか」

 言いながら、めぐみんは目を細めて伸びをしながら、隣で気持良さそうに寝転んだ。

「……みかん食う?」
「……一切れください」
 俺が1つだけ取っておいたみかんを剥いていると、目ざとく見つけたこめっこが、こちらに駆け寄ってきた。

「わたしにもください」
「全部あげよう」

「カズマ!? あなたはどうして、そんなにウチの妹に甘いんですか!?」
 めぐみんがガバッと起き上がる頃には、既にみかんはこめっこの手の中に収まっていた。
 こめっこは、俺が剥いていたみかんを幸せそうに頬張ると、俺の隣に座ってくる。

「おにいちゃんは物知りだと聞きました。ゆんゆんをやっつけられる魔法を教えてください」
「こ、こめっこちゃん!」

 ゆんゆんが籠を抱いたまま涙目になって嘆く中、めぐみんが釘を差してきた。

「言っておきますが、初級魔法も教えないでくださいね? この子はかなりの才能がありますし、もう既に、冒険者カードも貰っています。親がカードを隠していますが、それだっていつ見つけ出すか分かりませんし、教え込めばいきなり中級魔法ぐらいは使える様になってしまうかも知れません。カードを手にして魔法のスペルを覚えていれば、この子はそれで魔法が使えてしまいます。……良いですか? どれだけ甘えられても絶対に教えてはいけませんよ?」
「大丈夫だよ、俺だってバカじゃない。子供に魔法を教える危険性は理解してるよ」

 めぐみんに、心配するなと笑い掛けると、こめっこがくいくいと服の袖を引っ張ってきた。
 そして、今にも泣き出しそうな悲しげな表情で。
「……魔法……」
「初級がいいか? 中級がいいか? ごめんな、お兄ちゃんまだ上級は覚えていないんだ。次会う時までに、覚えてくるからな。おお、そうだ! テレポートを……」
「カズマ! ダメですよ! ダメですってば!」

 姉の目が光っているのでしょうがない。
 なら…………。
 うむ、あれなら。

「よし。それじゃあ、お兄ちゃんの国でとても有名な大魔導師の必殺魔法を教えてやろう」
「ほんとう!?」
「カズマ! だ、ダメですってば!」
 目を輝かせるこめっこと、俺をガクガクと揺さぶってくるめぐみん。
 そのめぐみんに、大丈夫だと手で合図し。

 俺はその場に立ち上がり、ゆっくりと詠唱を開始した。

「黄昏れよりも暗きもの……血の流れよりも赤きもの……時の流れに埋もれし……偉大な汝の名において…………」
「「「!?」」」

 俺が唱え始めたあの有名な詠唱に、三人の紅魔族が途端に興味を示した。

「カズマ、その魔法はなんですか!? 私の知らない魔法です!」
「おにいちゃん、もう一回! もう一回!」
 めぐみんとこめっこが激しく興味を示す中、籠を抱えたままのゆんゆんですら、耳をそば立てて近づいて来る。
 効果はばつぐんのようだ!

「これはな、俺の国で有名な女魔導師が、得意としていた魔法なんだ。凄い爆発を引き起こし、ドラゴンをも屠る必殺の魔法なんだよ」
 こめっこに教えてやると、目を輝かせて何度も詠唱を繰り返す。
 それを見ながらめぐみんが。

「ほう……。爆発を引き起こし、ドラゴンをも屠る魔法……。女魔導師という所と良い、私に似た魔導師ですね」
「違うよ。向こうは実力も伴うし、世界的にも有名な大魔導師だぞ? もし似てると言うのなら、お前の方がパチもんなんだ」
「パチもん!? パパパ、パチもん!」

 何やらショックを受けて固まっためぐみんに向けて、こめっこが手を突き出し、覚えたての魔法の詠唱を行っていた。
 ゆんゆんが籠を抱えてウロウロする中、めぐみんの目に光が戻る。

「良いでしょう! この私の実力を、今からその目に見せてやります! 三人とも、街の外まで来るのです!」
「たそがれよりもくらきもの……ちのながれよりもあかきもの……」


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 街から離れた草原には、中型の草食モンスターが多く生息している。
 カエルがあまり居ないこの季節は、この草原地帯でのレベル上げが基本とされていた。
 辺りには同業者と覚しき人達が、モンスターを追い掛け回している。

 そこかしこを闊歩する、牛と山羊を足して小さくした様なモンスター達。
 それらを見て、こめっこが大騒ぎした。

「おねえちゃん! おねえちゃん!! 晩ごはんがたくさん歩いてるよ!」
「こめっこ、落ち着きなさい。今日の晩ご飯はアレよりも美味しいご飯です。なので、アレは今日の所は経験値の足しにします」
「もったいない! もったいない!!」

 騒ぐこめっこを尻目に、めぐみんがゆんゆんに目で合図した。
 合図されたゆんゆんは、未だに律儀にみかん籠を抱えている。

「……? どうしたのめぐみん? 目をシパシパさせて。目がかゆいの?」
「違いますよ! 先に、前座のあなたの魔法を見せてやって下さいと言っているのです!」
「ぜ、前座!?」
 前座呼ばわりされたゆんゆんは、みかん籠を持ったまま泣きそうな顔をした。
 俺がゆんゆんから籠を受け取ると、ゆんゆんはしょぼくれながらもその辺のモンスターに対して向き直る。
 しかし、当然と言うか何と言うか、肩を落としたままで、やる気は当然感じられない。
 そんなゆんゆんに、めぐみんが発破を掛ける。

「ゆんゆん、これが終わったら、屋敷で晩ごはんを僭ってあげます。なので、後の私が霞むぐらいの、凄いのを一発見せてください!」
「!? ば、晩ごはん!? い、いいの? 私がその、お家の晩ごはんに呼ばれちゃっても……」

 途端にオロオロしだしたゆんゆんに、めぐみんが。

「構いません! 今晩のメニューは豪華ですよ! それに量もたっぷり用意してあります。期待していてくださいね?」
「献立は何でもいいんだけど……。晩ごはん……。友達の家で一緒に晩ごはんかぁ……」

 不憫な独り言をぶつぶつ言い出したゆんゆんは、バッとマントを翻した。
 そして、近場に居た草食型のモンスターに向けて腰のワンドを取り出し突きつける。

 食欲旺盛で、畑の作物も雑草も何もかも、生えている物は根こそぎ食い荒らすために、モンスター扱いされた動物だ。
 現在も草をモリモリ食べ続けるそのモンスターは、つぶらな瞳で、対峙するゆんゆんをじっと見た。

「…………ねえめぐみん、もっと凶暴なモンスターがいる所でやらない?」
「やりません。まったく、とんだ甘ちゃんですね! 見てくれは可愛くても、アレは立派な人類の敵なのです! さあカズマ! そして、先ほどから私に謎の魔法を掛け続けているこめっこ! 2人とも、我が力を見るがいい! そして、誰が世界最強なのかを、その目に焼き付けるが良いです!」

「最強!? おねえちゃんが、世界最強なの!?」

「そうです! 我が名はめぐみん! 世界最強のアークウィザードにして、爆裂魔法を極めし者! さあ、こめっこ! よく見ていなさい!」

 めぐみんが杖を振り上げ詠唱を始めた。
 それをキラキラと輝く目で見て、こめっこが地面に屈み込む。
 ポケットから大事そうに何かを取り出す。
 おやつでも取っておいたのかと思ったが、良く見ると、それはチョークだった。
 こめっこは、姉の勇姿を見ようともせず、一心不乱に地面に何かを書いている。
 ひょっとして、姉の魔法を覚えるために詠唱でも書き写しているのだろうか?

 魔法を教えるなと言った本人が何をしてるんだ。
 まあ、流石に爆裂魔法は無理だと思うが……。

「さあ、我が奥義、見るがいい! 『エクスプロージョン』――!」


 めぐみんの放った爆裂魔法が、数頭のモンスターがたむろしていた真ん中に突き刺さった。
 閃光と爆風、そして轟音と共に、爆心地となった地面に巨大なクレーターが出来上がる。
 それを見て、めぐみんが満足気にどや顔で鼻を鳴らした。

 最近、爆裂魔法を見る目が肥えてきた俺ですらも、今の魔法の出来には文句の付けようもない。
 めぐみんは、振り返って満足気に微笑むと。

「さあ、これで……私……を…………。パチもんだと…………は…………」

 胸を張って勝ち誇ってくるかと思えば、笑顔を固まらせたまま、言葉尻を萎ませた。
 見れば、ゆんゆんも妙な表情でため息を吐いている。

「……バニルさん、なんでこんな所に生えてきたんですか?」

 ゆんゆんとめぐみんの視線の先には、落書きみたいな魔法陣の上で固まるバニルが居た。

「……なぜこんな所にいるのかは、我輩の方こそ聞きたいのだが……。……やや! そこな幼女よ、また我輩を召喚したのか! 主よ、仕事中は気安くポンポン喚ぶものではないと、アレほど……!」

 …………まさかとは思うが、こめっこがこいつを召喚したのか。

 店のエプロンを付けたバニルが屈んで、こめっこに目線を合わせてこんこんと説教する中。

「いけにえの、みかんです」

 こめっこが、隠し持っていたらしいみかんを、物欲しそうにじっと見てから。
 それを、バニルにそっと手渡した。

「わがつかいま、バニルにめいず。おねえちゃんが最強らしいので、このいけにえでおねえちゃんをやっつけてください。そうしたら、あるじの私が最強になれます」
「こめっこ、お姉ちゃんと話をしましょう! まずは、このみかんでも食べませんか!?」
別作品、仮面悪魔の方を読まないと分からないオチですいません……

明日は女神の短編で。


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