藤原紀香が「秘密保全法」への危機感 ブログでの勇気ある発言をたたえたい
水島宏明 | 法政大学教授・元日本テレビ「NNNドキュメント」ディレクター
安倍政権が制定を意図する「秘密保全法」。これには、報道各社や日弁連などから反対の声が上がっている。
原発の汚染水が毎日、海に垂れ流されている状態だとしても、首相が「(福島第一原発の汚染水は)0.3平方キロメートルの港湾内に完全にブロックされている」などと平気でウソをつくのが政府というものだ。
だから、政府自身が何が「秘密」かを決めるという「秘密保全法案」には反対だ。
報道機関が報道できる範囲が狭まり、ますます権力側のやりたい放題になってしまう。
マスコミ各社もこぞって反対しているが、残念ながら国民の危機感や、問題への関心は高いとはいえないのが実態だ。
「法律のことなんかよく分からないや」
というのが多く国民の感想だろう。
そんななかで、タレントの藤原紀香さんが自身のブログで、政府が進める「秘密保全法」への危機感を表明した。
http://www.norika.ne.jp/cgi-bin/spdiary-j.cgi?id=7&file=201309
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とても分かりやすい言葉で、自分の考えをきっちり書いている。
藤原さんの言う通りで、「国家機密」がどこまでなのか曖昧なのだ。
安倍首相の「汚染水は完全にブロックされている」じゃないけれど、ウソをつくのが習い性である国家権力。
その政府の判断で「これは秘密だからバラした人は処罰する」「報道した人も処罰する」ということになるとどうなるか想像してみてほしい。
国民は「真実」を知らされなくなってしまう。
政府に批判的な報道は許されなくなってしまう。
もし「実は安倍首相の言ったことは東電関係者の認識とは違っていて、汚染水は港湾の外にも流れ出ている」と官僚がバラすと処罰される。
報道した記者も処罰される。
繰り返すが、権力を持つ側は自分たちに都合の悪いことについては平気で事実をねじ曲げて発表する。
それは私自身も記者生活で嫌というほど経験してきた。
安倍政権に限ったことではない。
国家や地方自治体など、およそ「権力」という存在はウソをつく。
権力にかかわる政治家、あるいは、官僚たち、さらには国家に準じる機関、たとえば、電力関係者・・・。
それぞれ大きなウソもあれば、小さなウソもある。
原発などの原子力関係施設の震災などへの備えの弱さの隠蔽。
原発などの事故や点検ミスの過小評価。
教育現場における不祥事。いじめの隠蔽。
健康に害を与える農薬の危険性の隠蔽。
自衛隊の不祥事の隠蔽。
警察の不祥事の隠蔽。
北朝鮮外交をめぐる外務省の裏交渉の隠蔽。
生活保護の現場での違法な運用の数々の隠蔽。
国道トンネルの安全点検の不備の隠蔽。
重大な事故が起きた後での「結論先にありき」の事故調査委員会の筋書きの隠蔽。
不正請求を繰り返す医療機関への甘い助言の隠蔽。
違法な働かせ方をするブラック企業への取り組みの甘さ。
自らの組織内でのセクハラ、パワハラの実態の隠蔽。
などなど・・・本当にキリがない。
記者だった頃に取材した問題でも数えきれないほどある。
政治家も官僚も。
中央でも地方でも。
平気でウソをつく。
嫌というほど経験してきた。
だから、「秘密保全法」などというものは信用ができずに反対だ。
それを藤原さんのブログは噛み砕いて、とても心に響く表現で問題のありかを伝えている。
(以下、藤原紀香さんのブログより)
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藤原さんのようなタレントが政治的な態度を表明することは日本ではこれまでタブー視されてきた。
何かその種の発言をすると、とたんにテレビなどからいなくなってしまう。
最近では俳優・山本太郎さんが福島第一原発事故の後で、鮮明な反原発運動に参加するようになり、テレビなどの仕事を「干された」ことは記憶に新しい。
山本さんはその後、立候補して参議院議員になったが、タレントとして活動することはできなくなってしまった。
一方、海外ではどうか。
人気タレントが政治的発言をすることは当然のように行われている。
有名なのは、英国のロックグループ「U2」のボノだろう。主にアフリカなど途上国の貧困救済のための活動をしている。
英国がイラク戦争に参加した際に、当時のブレア首相を痛烈に非難した。
そういえば、藤原紀香さんもボノと交流があり、カンボジアなどへの国際的な支援を訴えていたことがあるので、そうした国際性が今回の行動に影響しているのかもしれない。
米国でも俳優のマット・ディモンが、NSA(米国家安全保障局)が個人情報を収集している事実の暴露を受けてオバマ大統領批判にまわったことが話題になっている。
欧米ではこうした有名人の行動が国民に与える影響は少なくない。むしろ一種の義務として賞賛されている印象だ。
日本では人気タレントが政治的な問題について意見を言うのはまだごく少数派だが、藤原さんのブログ発言はとても勇気ある行動だと思う。
藤原さんには「第二の山本太郎」にはならず、女優・タレントとしての仕事も続けながら、市民のひとりとして発信してほしいと願う。
それにはマスコミの側も、色眼鏡でみないで、そういうことは海外ではごく普通のことなのだと受け止めてもらいたい。
(以下、藤原紀香さんのブログより)
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藤原さんのブログのすごいところは、政府のパブリックコメントの募集がわずかしか期間がない点を指摘し、有名人としての発信力を生かして、パブコメに書き込むことを求めている点だ。
パブリックコメントは、意見が分かれるような問題について、「国民の声」を募集して、法案などを通す時にそれを「参考」にするものだが、事実上は行政が「国民にも意見を求めましたよ」というアリバイとして使われているのが実態だ。
パブコメの募集自体、あまり周知されずに「ひっそりと」行われることも多く、藤原さんが指摘するように、意見を言えるのは「わずか数日間」でしかない。
実際には、そんな形で「国民の声を聞きましたよ」などと言われてもほとんどの人は知らないし、そうやって「秘密保全法」の法制化が進むこと自体が民主主義の危機だと言ってよい。
藤原さんの言うように、賛成でも反対でも国民の声をまずちゃんと届けて、聞いてもらう、というのが肝心なのだ。
今回、僕は藤原さんのブログについて、フェイスブックで話題にした人がいたので偶然知った。
有名人が何か目立つことをすると「人気とり」だの「話題づくり」だのと批判する人もいるだろう。
でも、文章というものは正直で、彼女の文章からは率直な人柄や普通の人としての実感から来る危機意識がじわじわと伝わってくる。
日本でも芸能人がもっと政治的な問題、おかしいと思ったことについて、どんどん発信して良いと思う。
目立たないブログという形ながら、しっかりと態度を表明した藤原紀香さん。
そのささやかな行動に拍手を送りたい。