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秘密保護法案  「知る権利」担保できぬ

 安倍晋三政権が、秋の臨時国会に提出する特定秘密保護法案に、「知る権利」や「報道の自由」を明記する方針という。
 しかし、いくら条文に文言が書かれても、権利が担保されるわけではない。問題が多く、国民の権利侵害につながりかねない法案には賛成できない。
 「知る権利」とは、政府が管理する情報を国民が知る権利のことだ。
 憲法上の規定はないが、民主主義の根幹である「表現の自由」(21条)を裏打ちする権利とされる。正確な表現活動のためには、メディアを含む国民の請求に応えて、国が情報を開示するのが大原則だからだ。
 しかし政府は、国家安全保障会議(NSC)の年内発足に向け、情報をこれまで以上に囲い込もうとしているようにみえる。
 法案では、防衛、外交、安全脅威活動、テロの4分野で、特に秘密にすべき情報を大臣ら行政機関の長が「特定秘密」に指定する。
 安全保障上の機密保持が必要な場合があることは理解できる。
 問題は「秘密」の範囲が広く、定義もあいまいで、本来公表すべき情報まで政府の裁量で隠される可能性があることだ。例えば原発の情報は「テロ防止」の名目で、憲法9条に反する行為も「防衛」の名目で隠されかねない。
 報道による権力監視だけでなく市民活動や調査を通して国民が政治を正すことも困難になる。5年という指定期間は更新でき、歴史的な検証が阻まれる恐れもある。
 最高刑は「懲役10年」と重い。漏えいは故意と過失が同列に扱われ、取材行為が「そそのかし」と見なされれば処罰対象になる。
 法案には「拡張解釈して基本的人権を不当に侵害してはならない」との一文はあるが、政府が「拡大解釈ではない」と突っぱねないとは限らない。秘密指定が妥当なのかを客観的にチェックしたり、政府の裁量権の乱用に対し、国会や裁判所、国民が歯止めをかける仕組みも想定されていない。
 今月、一般市民から意見を求めるパブリックコメントが実施された。だが、募集は15日間と短く、政府が国民の声に真剣に耳を傾ける姿勢はみえない。
 安倍首相は国会で時間をかけて審議するというが、国民の権利にかかわる重要法案が十分知られていない現状で、法制化を急ぐこと自体が問題だ。
 機密の保持は、守秘義務がある国家公務員法など現行の枠組みで情報管理すればよい。はびこる隠ぺい体質を改善し、政府が情報公開の度合いを高めることこそ緊要だ。法律の必要性を含め、入り口から議論をやり直すべきだ。

[京都新聞 2013年09月20日掲載]

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