「それで二階堂の気が治まるんだったら、俺は何をされたって構わない」

もう自分が愚かでしかたなかった、きっと俺が身体を差し出した所で二階堂は喜ばないのに。
でもどうせだったら、一生消えない傷でも付けてくれた方がいいかもしれない。
そうすれば俺は二階堂に愛して貰えた事を忘れないで済む…例え相手が忘れてしまったとしても。
悲観的になり過ぎているのかもしれないが、結果だけを言えば俺が二階堂を振る事になるんだ。
きっと誰もそんな事考えなかっただろう、逆だったらまだしも。
時には同情されるくらい二階堂は俺の扱いが雑だったから…その反面優しい面も一杯あったけれど。
色んな事が走馬灯の様に思い出されて、別に永遠の別れでもないのに込み上げてくるものを抑えられず。
でも今泣いてしまえば怪訝に思われてしまうから必死に堪えていると、頬に何かが当たった気がして。

「、に…か‥?」

ゆっくりと目を開けて驚いた、だって二階堂が泣いていたから。
表情を歪める事もなくただ涙を零すだけの姿に俺は言葉が出て来ず、ただ見つめる事しか出来なくて。
どうして泣いているんだろうか…客観的にそう思ってしまった。

「っ…どうして、別れなきゃいけないんだよ…」

震える声で問われても答える事なんて出来ない、だって散々理由は説明したから。
納得出来ないって言われてもして貰うしかない、俺達が進める道が今はもうそれしか残されていないのだから。

「こんなにお前のこと、好きなのに…」

歪む表情を隠すみたいに抱き締められてどうしていいのか分からず、俺はされるがままになるしか無かった。
二階堂が俺の前で酷く感情を露にするのは嫉妬した時くらいで、こんな風に涙を見せられるのはプライベートでは略無かった事。
それくらい追い詰められていたのかもしれない、そうさせてしまったのは間違いなく俺だけど。
こんな時になって愛されていたんだと思うと虚しくて堪らなかったけれど、俺は自分の意志を尊重するしか無かった。

「…だから、だよ」

直ぐ傍で揺れている黒髪を撫でるとゆっくりと身体を起こされて、濡れた頬を指先で拭ってやる。
二階堂がよく俺にしてくれた事、まさか自分がするなんて思いもしなかったけれど顔を引き寄せて目元に口付けた。
言動が矛盾しているから驚いた様な顔をされても仕方ないのだが、苦笑いするしか無かった。

「今は良くてもこの関係にはいつか終わりがくる…。でも友達として、メンバーとしてだったら…これからもずっと隣で笑っていられるじゃん」

先を見据えてはいけない、誰も永遠にこの関係が続くなんて思っていないから。
お互い子供なりにそれは分かっていたはずで、ただ決して口に出したりはしなかった。
友達と恋人なんて紙一重、実際は違うんだろうがそうでも思わなければもう自我を保っていられなくなっていて。
全部を分かって欲しいとは思わない、直ぐに納得してくれなくてもいい。
だから今だけは俺の言葉に頷いて欲しい…そんな身勝手な事を思いながら俺は笑顔を向けるしかなくて。

「こんな恋愛辛いだけなんだよ、お互いにさ。だから、もう…」

結局そこから先は言わせて貰えなかった、二階堂によって唇を塞がれてしまったから。
ちゃんと笑えていたかは定かではないし、正直どんなに辛くても一緒に居たかった。
だが隣で笑う事さえ出来なくなると思えば、恋人関係を失くすくらいは容易い事…なんて。
そんな事これっぽちも思ってなかったけれど…もうこうするしか俺には道が残されていなかったんだ。







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