北山くんは俺の気持ちなんて見透かしていたのかもしれない、だからこそ聞けたんだ。
それが俺の本心じゃないと、分かっていたから。

「二階堂の事は愛してる、その気持ちに嘘はないよ。でも別れたいって思ってるのは、本当だから」

にっこりと笑って言い放つと北山くんは一瞬眉を寄せて、俺の事を睨み付けるみたいに見つめるから目を逸らさずに耐えた。
今押し負けたら余計に分が悪くなる、見透かされていたとしても強気でいる事しか俺には出来なかった。
だって、嘘なんだから。
別れたいなんて微塵も思ってない、本当は。
抱き締めてキスして欲しいって、今だって思ってる。
でもそれは許されない…俺達の未来がグレーな今、それを黒に染める訳にはいかないから。
もし明るい未来が待っているのだとしたら余計に駄目、一瞬にして暗闇にしかねない。
そうなれば今まで以上に一目に晒される事が増える、二人で会うのさえ今まで気を遣わなければならなくなるし。
もし今回みたいな事になったらお終い…あの時どうして事務所の言う事を効かなかったんだって絶対に悔いる。
それに別に永遠の別れでも無ければ離れ離れになる訳でもない、これからも隣で笑っていられるんだ。
もうそれだけで十分だろう、ただ付き合う前の関係に戻るだけなのだから。

「だからさ、もう友達に戻ろうよ」

北山くんから視線を逸らして二階堂に笑い掛ける、勿論笑顔じゃなくて引き攣り笑い。
笑って言えたら良かったんだろうが、それだと怪しまれるだろうから敢えて悲痛な笑みは隠さなかった。
それをどーゆう意味で捉えるかは相手次第だが、俺の本音さえ伝わらなければ何でも良かったから。

「…嫌だ。俺は、認めない」

俺から目を逸らして二階堂はそう言い放った、だから見せ付けるみたいにして溜息を一つ吐き出した。
頑なに拒まれる事を喜んでいる場合じゃないのに…内心は凄く嬉しかったんだ。
だからこそもう見切りを付けようと思ったのだが、今別れた方が愛されたままだから。
少しの間は隣にいるのが辛いかもしれないが、そんなの時がいつか忘れさせてくれるはず。
元は普通の友達だったんだから、ただ触れ合う事をしなくなるだけの事…それだけの事だ。

「あのねニカ、嫌とかそうゆー問題じゃあ‥」
「だってそうだろっ?!何で好きなのに別れる必要があるんだよっ、なぁっ」
「‥にか」
「なんだよっ?!」

完全に頭にきているのか俺の言葉には耳を傾けてはくれず、藤ヶ谷の呼び掛けにさえ敵意剥き出し。
藤ヶ谷は思った事をストレートに言ってしまうタイプなので、今までずっと黙ったままだった。
気遣ってくれていたのか、ただ何を言っていいのか分からなかっただけなのかは、俺には分からないけど。

「少しは落ち着けよ、ガキじゃねーんだからさ」
「…どーせ俺はガキだよ」
「捻くれてんじゃねーよ、ちょっとは健永の気持ち考えてやれって。それだけコイツが、」
「んなの、言われなくても俺だって分かってんだよっ!」

舌打ちして顔を顰める二階堂に、畳み掛ける様に話す藤ヶ谷くんは妙に大人びた様に見えた。
実際俺達よりずっと大人なのだが、いつも一緒にバカをやっている所為かそんな印象は余り無くて。
ただそれが良い影響なのかどうかはもう定かではなかった、今の二階堂には何を言っても無理な気がして。
でも引っ張っても俺の決心が鈍るだけ、もう今話を終わらせなければ駄目だ。
そう思い再び口を開こうとした矢先だった、北山くんが動き出したのは。







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