北山の言葉に千賀は愚か俺でさえも動揺を隠す事は出来なかった、まさか気付かれていたなんて…。
適当に当てずっぽう言っている様には思えなかった、何か確信めいたものがあるが故の発言のような、そんな印象で。
だからってその事実を肯定する事なんて簡単には出来ない、それ以前に引いたりしないのだろうか。
今回の事は俺でさえよく概要が掴めていない…ただ一方的に別れを切り出されて。
一応認めた事にはなっているがそんなの建前、本当の事を聞きだすまでは終われるはずがない。

「なに、いってんの…二人とも。そんなわけ、」
「隠してるつもりかもしんないけどさ、俺達は欺けないって言うか…分かんだよね、雰囲気でさ」
「お前等が気付いてないだけで、メンバー皆感付いてるから」

思考が別の方向へと行ってしまっていた俺の変わりに千賀が否定すると、それを見越したように藤ヶ谷が口を挟む。
もしその言葉通り皆が知っているとすれば、俺達が今までしてきた気遣いなんてほんの些細なものでしかなかったと言う事だ。
寧ろ気付いていて普通に接してくれていたのだとしたら、その事に感謝すべきなのだろうか。
もしかしたら部外者にもバレていたのかもしれないと思うと、不謹慎なのは分かっていたが笑えてしまった。
隠しても無駄なのだったら仕方ない、それにもう別れたのだから別に言ってもいいだろうとまるで他人事だった。

「ぇ、…に、か?」
「何がそんなに可笑しいんだよ、一体」

声を上げて笑い出した俺に三者三様の顔をされて、だがその中でも何を考えているか分からなかったのは北山だけ。
千賀は見るからに心配そうな顔をしていて、藤ヶ谷は眉を寄せて少し機嫌が悪いような印象だった。
ただ一人北山だけが俺の考えを見抜いているような、そんな瞳で俺の事を見つめていた。
もし悟られていたとしても別に構わない、だって俺は本当に何も知らないのだから。

「いや、今まで必死に隠してきたのにさ…バレてたのかと思うと馬鹿みたいだったなぁって」
「ちょっ、ニカ!なに、」
「別にいいじゃん、もう俺達別れたんだからさ。話したって構わないだろ?」
「っ…、それ、は‥」

まだ隠そうとする千賀に正論をぶつけてみる、だってもう隠さなければならない様な関係ではないのだ、表面上は。
第一別れを望んだのは千賀の方なのに、どうしてそんな傷付いたような顔をするのだろうか。
振られたのは俺の方で、好きじゃなくなったとか何とか言われて一方的に捨てられたのに。
そんな一日で態度を急変させられてった信じられるはずがない、それともそんな一瞬で冷めるくらいの愛だったのか。
だったら仕方ないかもしれない…なんて、俺がほんの少しでも物分かりの良い奴だったら良かったんだろうが。
残念ながら違っていたので展開は思わぬ方向へといってしまった、千賀にとってはさぞ予想外だっただろう。

「…別れた、って?」
「あぁ、千賀に振られたんだ、俺。最近ぎくしゃくしてたのはその所為だよ」
「、…まじかよ」
「嘘言って何になんだよ、こんな事冗談で言えるか」

北山に眉を寄せて問われたので聞かれていない事まで付け加えて返す、藤ヶ谷も驚いていたが。
俺は、全くもって嘘は言っていない。
だが言い方が不味かったみたいで二人の表情は険しいものへと変わった、勘ぐる様な視線が好きな奴なんてきっといない。
俺だって顔を歪めそうになったが平静を何とか装って、千賀を視界に入れると誰からも顔を背けるかの様に俯いていた。
別れるなんて絶対に許さないが、理由によってはそうせざるを得ない場合だってあるかもしれない。
だがあれが千賀の本心かと問われると如何せん納得出来なくて、せっかくだから逆手に取ってやろうと思ったんだ。
この二人だったら千賀の本心を聞きだせるかもしれないと思ったから、無理だったら強行手段に出るまで。
ちゃんとした理由が分かるまでは、お急かれ早かれ追及はしなければならないのだから。
俺の気持ちが冷めない限りは。







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