福島原発事故の“核心”を見つめ直す・3 /米専門家ガンダーセンの危機感

高野 孟 | 『インサイダー』編集長/『ザ・ジャーナル』主幹

福島第一原発の4号機の燃料プールが、実は想像を絶する大爆発起こす寸前まで行っていたのだという話を、昨年7月に荒井聡衆議院議員(民主党原発事故収束対策プロジェクト座長)から聞いて、私はジャーナリストの直感で、日米両政府中枢や東京電力など直接当事者だけが知っていたその空恐ろしい事実を核心に据えない限り、本当のところ3・11直後の福島をめぐって何が起きていたのかは全く見えなくなるのではないか、と疑った。それで、4号機プールに何が起きようとしていたのか、そしてそれは結果的になぜ起きずに済んだのか、さらに起きずに済んだことをいいことに政府も東電もマスコミもそれに余り積極的に触れたがらないでいるようなのはなぜなのか、探究を始めたのである。

すぐに目に着いたのは、アーニー・ガンダーセン『福島第一原発ーー真相と展望』(集英社新書、2012年2月刊)の記述だった。彼は、米国で数多くの原子炉の設計、建設、運用、廃炉に携わったベテラン原子力技術者で、原子力業界団体の役員を辞めてからは奥さんと2人で「フェアウィンズ」という原子力はじめエネルギー問題の調査研究と教育啓蒙のための個人会社を作って内外で発言を続けている。本書は、訳者の岡崎玲子が11年10月に彼らに対して行ったロング・インタビューを元に1冊に編んだもので、事故の実相を知る上で大いに参考になる。

★ガンダーセン『福島第一原発ーー真相と展望』:

http://store.shopping.yahoo.co.jp/hmv/4949063.html

★フェアウィンズ・アソシエイツ:http://fairewinds.com/

彼は、各号機の状況を分析した本書の第2章で「一触即発の4号機燃料プール」について、要旨次のように述べている(P.70~78)。

▼3号機の爆発はたしかに凄絶だったが、一番の懸念材料は4号機であり続けてきた。NRC(米原子力規制委員会)が日本政府の勧告よりも広い80キロまでの避難を提言した理由でもあった。

▼4号機プールにあった炉心のうちの1つは定期点検のために11月に原子炉から取り出されたばかりで、まだ4カ月しか冷やされておらず、何メガワットもの熱を発していた。そもそもマーク1型の使用済み核燃料プールは遮蔽されておらず、4号機は“格納されていない[裸の]炉心”を冷却する機能を失っていた。

▼NRCは使用済み核燃料プールが乾ききり、発火することを非常に心配していた。あまりにも熱くなって金属が燃える現象で、これは水では消火できない。そのような状態になれば、水をかければ事態は悪化する。水から発生した酸素が[燃料を被覆している]ジルコニウムを酸化させるうえに、水素が発生して爆発する最悪の事態となる。[原発運転の]10~15年分の核燃料が大気中で燃えるという世にも恐ろしい状況だ。

▼4号機の建屋は構造が弱体化し、傾いている。事故後に東電はプールの下に支柱を並べて補強したが、それでも不安定には変わりがない。大きな地震に襲われた場合に倒壊する可能性が、4つの中では最も高い。耐震性を高めるために打つ手はあまりなく、再び震度7が来ないことを祈るだけだ。東京の友人には4号機が崩れれば即座に逃げるよう助言した。

▼これは科学にとって未知の世界。取り出して間もない、完全に近い炉心が入った使用済み核燃料プールで起きる火災を消し止める方法など、誰も研究すらしたことがない。大気圏で行われた歴代の核実験で放出された量を合わせたほどの放射性セシウムが、4号機のプールに眠っている。4号機の使用済み核燃料プールは、今でも日本列島を物理的に分断する力を秘めている……。

彼は立場上、米NRCがなぜ4号機プールの大爆発をそれほど恐れたのか、その根拠となる判断材料を熟知していたに違いない。1~3号機のメルトダウンは、それだけで十分すぎるほど深刻であったけれども、それ以上に、もし4号機プールの冷却水が失われれば、裸の燃料棒が連鎖爆発を起こし、さらに核燃料を被覆しているジルコニウムが発火して水をかけることも出来ない状態となり、過去に大気圏で行われた核実験で放出された全量に等しいほどの放射性物質が吐き出される。日本列島分断どころではない、全世界が長い年月にわたって汚染に苦しまなければならないほどの大惨事に至る。しかも、ボロボロになった4号機の建屋の中空にあるプールは、事故後に支柱を入れて補強したものの、同じ規模の地震が再び襲えば間違いなく倒壊して燃料棒は投げ出される。ということは、事故後も今も、そして今年12月に始まる予定の燃料棒取り出し作業が終わるまでは、その危険は続いているのである。

まさに、祈るしかない状態だ。私は実際、福島地方を大型台風が縦断するとか、大雪が降るとか、また福島県沖で地震が発生したとか耳にするたびに、北のほうに向かって「4号機プールが落ちませんように」とお祈りをしている。▲

高野 孟

『インサイダー』編集長/『ザ・ジャーナル』主幹

1944年東京生まれ、1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒業。1975年からフリー・ジャーナリストになると同時に情報誌『インサイダー』の創刊に参加、80年に(株)インサイダーを設立し、代表兼編集長に。2008年にはブログサイト『THE JOURNAL』を創設。著書に『滅びゆくアメリカ帝国』(にんげん出版、2006年)、共編『ジャーナリスティックな地図』(帝国書院、08年)ほか多数。

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