自分が忙しくしていると組織をダメにしてしまう
————今日はハロウィーンの仮装をして皆さん仕事をしている、と聞いてきましたが、想像以上でびっくりしています(笑)。なぜこんなことを。
駒崎 以前、みんなで働き方を「カイゼン」した結果、ものすごく生産性が高まったんです。そのかわり、けっこう殺伐としちゃって。みんな集中して働くんですが、物音一つしない職場になっちゃった。とても効率はいいんだけど楽しくない、テンションが低い、みたいな。
働くって機械のメタファーじゃダメで、笑い合いおもしろくし合いながら、でも仕事は真剣にする。そんなふうに、心の領域に入っていかないと本当の生産性は達成できない、と思ったんです。
それで保育事業の会社でもあるし、いろんなイベントをやりはじめました。ハロウィーンはその一環です。最初はライトな取り組みだったんですが、そのうちみんな本気を出してヘビーになってきた(笑)。
————駒崎さんは33歳で、スタッフも若い方が多いですが、20〜30代の働き方やキャリアアップについての考え方は、どう変わってきたと感じますか。
駒崎 未来の不確かさが前面に出てきて「大企業に入れば安心だよね」という人は昔より減った気がします。その一方で「ベンチャービジネスのほうが力つくよね」という解釈があったり。大学生の間で、就職先のベスト&ブライテスト(最良で賢明な選択)とされているのは起業すること、次がコンサルタント会社や投資銀行、3番手がいわゆるエスタブリッシュメントの大企業。こんな感じじゃないでしょうか。
普通のベンチャービジネスと、僕たちのようなソーシャルベンチャー(社会的起業)の境も曖昧になってきました。最近のベンチャーの若手経営者には、「目指せ! IPO(株式公開)」みたいなノリではなく、「世の中のためになりたい」「働きがいのある職場にしたい」といったことを言う人も増えています。僕がITベンチャーをやっていた10年くらい前に比べると、軸がバラけて「どぎつさ」が薄くなっている。それだけ価値観が多様化したなと感じます。
————著書『働き方革命』(ちくま文庫)の中で、ワーカホリックだったご自身が働き方を変えるプロセスを克明に振り返っていますね。
駒崎 自分が忙しくしていることで組織をダメにしてしまう。それが如実にわかってきたんです。朝から晩まで私生活を犠牲にしてがむしゃらに働くことで組織は前に進む、と固く信じていたのに、それをすると組織の雰囲気やコミュニケーションが阻害されることに気づいて、これは合理的じゃないな、と。
そこで、なぜ忙しくしているのか、よくよく考えてみると「ベンチャー経営者は忙しくて当たり前」という、なんら合理性のない「思い込みのヘッドギア」がはまっていたんです。そこである日、パッと夕方6時に帰ってみた。
————いきなりトップが6時に帰りはじめたら、みなさん「え!?」と‥‥‥。
駒崎 なりますよね。実際にそうでした。でも、帰ってみたら、何も不都合はなかった(笑)。べつに僕がいなくてもメールで済む話だったりするし。
カイゼンその1:効率化を図る
帰る時間を決める
————では具体的にどんな「働き方のカイゼン」をしたのですか。
駒崎 まず帰る時間を必ず6時と決めました。すると9時から仕事を始めて休憩を除くと7時間。ミーティングが三つ入るから1.5×3で4.5時間。作業時間が2.5時間しかないのなら、その間に絶対しなければいけない仕事は何か、と分割していきました。優先順位をつけてから仕事にとりかかるのではなく、帰る時間のゴールを定めておけば、おのずと「優先順位化」されるわけです。
————それまでも仕事の優先順位はつけなかったわけではないですよね。
駒崎 いちおうやっていたつもりでした。でも、夜遅くまで働けると緩むんでしょうね。夕方6時からノってくるみたいな。当時は「めっちゃ仕事してる!」と思っていましたけれど、いま振り返ると、たいした働き方をしてませんでした。
会議のルール化
————会議はどうやって効率化しましたか。
駒崎 1時間半を越さない。議題にないものは議論しない。議事録はプロジェクターで映し出しながらその場で取る。決定事項をタスク化して期限を切る。そういったルールを徹底して慣習化しました。
メールの決まりをつくる
————メール処理を迅速化する工夫もしたとか。
駒崎 すべてのメールをコード化しました。メールの先頭に【要FB(フィードバック)】【1126迄】といった「してほしいこと」と「期限日」のコードを付けて、パッと見た瞬間、何をいつまでにすればいいのかわかるようにしたんです。長くて要領を得ないメールや、上司あてだと遠慮して何をしてほしいのかわからないメールがあるじゃないですか。それらが一掃されて、メールチェックの時間が劇的に早くなりました。返信しなくていいメールが明確化されるだけでもずいぶん違いますよ。
インタビュー後編はこちらから
「働きがいのある会社」にするために僕が実施した3つの「カイゼン」(下)