知的基盤を奪われる武雄市民 - 井上一夫

佐賀新聞社

2012年12月26日 18:48

「50年後に楽しみを得たければ木を植えよ、100年後に楽しみを得たければ人を育てよ」1970年代の始め旧武雄市3代目市長本山昌太郎と収入役石井義彦(後に5代目市長)は、武雄市文化施設群構想を発表した。日本最初の大砲を鋳造し日本近代化の先陣を執った武雄領主、鍋島茂義侯の顕彰(※)、その屋敷跡の再生とその周辺に歴史・文化・教育施設を配置する壮大な群計画であった。※けんしょう、功績や善行などを広く世間に知らしめること

茂義侯の屋敷跡には大小ホール・集会施設・公民館・青少年ホームからなる武雄市文化会館を建設した。その後、競輪事業の売り上げ減や地方自治体財政困窮化の中で、日本を代表する武雄の蘭学資料を収蔵する資料館と図書館の建築は、その文化会館の建設から遅れること24年・2000年10月、ようやくオープンに漕ぎ着けたのである。 97年、当時の石井市長は基本計画書の中で「図書館・歴史資料館は、建物の合併だけでなく機能も一つに組み合わせることで、相乗効果をあげる施設であります。図書館司書・歴史資料館学芸員が協力して様々な普及活動、交流活動を展開し、生涯学習の拠点として、市民一人ひとりが気軽に訪れ、学び、楽しみくつろぎ、集まって、市民同士が交流し、地域の問題を考え、知恵を出し合い、地域の文化を生み育て創造する場を提供したいと考えています。」と述べている。

 この図書館・歴史資料館の設計は、館・会館類の設計で国内トップクラスのS総合計画が担当し、佐賀県快適建築書の特別賞を受賞している。この事務所の基本理念には、「建築はもともと万人のものであり作者の個性は控えめに、風土と市民の演ずる舞台の引き立て役であるべき、市民、社会の求めるものを徹底的に理解し、デザインを洗練させていく、市民との対話コミュニケーションの深さこそが建築、環境を生む原動力」と書かれている。まさに、この理念を体現しているのが、私たちの図書館・歴史資料館の建築である。私は、この建築が好きである。哲学者・梅原猛をして「神の山」といわせた御船山を借景に、高さを押さえて目立たないように静かに佇む、その謙虚さが大好きである。

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御船山を前に静かに佇む、武雄市民の図書館・歴史資料館

 エントランスを入るとすぐ左が歴史資料館エリアで、常設展示の蘭学館があり展示物保護のために自然光を排し照明を落としているが、その暗さが先人の世界へ誘ってくれているように感じる。その隣に企画展示室があり、蘭学館の常設展示と連携し武雄蘭学や中世資料などの企画展シリーズ、さらに絵画グループや陶芸家など市民グループの発表展示に使われ、その横のメディアホールは、映像による資料の観賞や会議などに使われていた。蘭学館・企画展示室・メディアホール、この3室の連携なくして歴史資料館の活動展開は限定的にならざるを得ない。今回、蘭学館はDVD・CDのレンタルと販売コーナーに変えられてしまうのである。

 図書館エリアは、武雄句日(秋祭り)に行われる「流鏑馬」の的をデザインしたトップライトの下にパソコンでの図書検索サークルがあり、開館時間前でもこの検索は可能である。開架書架の高さは多くが1,5㍍の高さで1階に配置、車椅子やベビーカーでも十分に移動閲覧可能であった。自然採光は全て北側で、一部南側に小さなスリット(隙間)が、天井面の暗さをカバーしている。読書コーナーは光量が安定して得られる北側に、手前から「読み聞かせの部屋」と幼児トイレから始まり、西側に向かって一番奥の畳敷きで座卓のある高齢者に配慮したコーナーまでつながっていた。今回、この図書館部分は蔦屋書店とスタバコーヒー店に占拠され、図書館は奥に押しやられ2階に追い上げられてしまっている。その書架も開架式といいながら、高さは天井まであり閲覧者が自分で取りだす事はできない。2階の書架はキャットウォーク(点検通路)でアプローチしなければならず、地震時にはこの蔵書は1階フロアに一気に崩落し、人的被害が出る可能性が強いと思っている。

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1階は蔦屋書店とスタバコーヒー店、2階に追い上げられた武雄図書館

 少し長くなったが、時間軸で武雄市図書館・歴史資料館の履歴と施設内容について辿ってみた。今回、このように土地の履歴、今までの政策経過、図書館・歴史資料館のあり方、歴史資料の評価、景観形成、建築評価、施設を次代に継承する責任、等などの知的議論は全く行われていないのである。

 まちづくりは、人づくりである。「教育は100年の大計」と70年代から始められた武雄の人づくりPJ。40年過ぎた今、トップの恣意的政策(思いつき政策)が、暴走しながら武雄市民の知的基盤を崩壊に向かわせているのである。(文中敬称略)

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