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PC遠隔操作で冤罪の危険も 増えるサイバー犯罪

 無差別殺人予告などのメールを送ったなどとして逮捕された大阪と三重の男性2人のパソコンが、遠隔操作型ウイルスに感染し、無関係の可能性が高まって釈放された事件は、サイバー犯罪捜査の難しさを改めて浮き彫りにした。2人に対する「冤罪(えんざい)」の恐れがあり、ずさんな捜査を批判する声も相次いだ。

 「できる範囲の捜査は尽くした。パソコン内のすべてのファイルをくまなく調べ終わるまで事件化できなければ、問題も起きる」。大阪府警の捜査幹部は苦渋の表情で話した。

 一方、三重県警の幹部は「大阪府警との連携がなければ起訴していたかもしれない」と強調したが、「捜査は継続する。しかし、事件とは無関係の可能性もある」とも付け加えた。

 独自にサイバー犯罪の知識を持つ捜査員を育成してきた京都府警は2004年、ファイル共有ソフト「ウィニー」を巡る著作権法違反ほう助事件を摘発したことで注目を浴びた。

 ところが、この事件で起訴されたウィニー開発者の元東京大助手は昨年12月、最高裁で無罪が確定。府警の捜査員は「複雑な手段の出現で、さらに捜査は困難になるだろう」と打ち明けた。

 2人の男性が冤罪だとすれば、“真犯人”はどうやって見つけられるのか。

 ネットの安全対策に詳しい専門家らによると、ウイルスが削除されていたとしても、不自然な形で通信記録が途絶えるなど、何らかの手がかりが残っている可能性がある。一方で、海外から不正操作が行われた場合は、複数のサーバーを経由しており解析が困難となる恐れもある。

 専門家の1人は「犯人はパソコン内の日本語データを読める人物だったのではないか。国内での犯行なら特定も可能だ。同様の犯罪を抑制するためにも、捜査当局には真犯人を見つけてもらいたい」と訴えた。

 町村泰貴・北海道大教授(サイバー法)の話「(インターネット上の住所にあたる)IPアドレスが一致しても、犯行に使われたパソコンが特定できたに過ぎず、誰がやったかを突き止めたことにはならない。いきなり逮捕されるようでは、市民はおちおちネットも使えない。警察側がきちんと調べれば手がかりはつかめたはず。ずさんな捜査と言われても仕方がない」

 園田寿・甲南大法科大学院教授(刑法)の話「任意捜査ではパソコン内のハードディスク(記憶装置)や通信記録が消される恐れもあり、逮捕はやむを得なかった。ただ、新種のウイルスで発見が難しかったとはいえ、起訴までに捜査を尽くすべきだった。IPアドレスに頼った手法が通じなくなったもので、サイバー犯罪捜査は技術的に難しい局面に入った」

サイバー犯罪検挙10年で7倍

 匿名性が高く不特定多数に被害をもたらすサイバー犯罪。国内では、1970年代に初めて被害が確認されて以来、年々増加傾向にある。サイバー犯罪関連で全国の都道府県警に寄せられた被害相談は昨年だけで8万件余。一方、昨年の検挙件数は全国で5741件で、10年前の7倍に達している。

 70〜80年代はクレジットカードの偽造や、銀行のオンラインシステムを悪用し、内部関係者が架空名義口座に不正入金するなど、単純な手口が多かった。

 90年代以降は、他人のID・パスワードを無断で使う「なりすまし行為」や、ネット上で個人情報をだまし取る「フィッシング」などが横行するように。

 警察庁は2004年に専門部署を設け、都道府県警への捜査手法の指導に力を入れる一方、海外捜査機関との連携も強化してきた。

2012年10月8日  読売新聞)
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