2012-07-12

アニメ制作会社を辞めました

役職は制作進行でした。

辞めた会社は、規模的には業界の十指に入る会社のはずです。

辞めた理由を、あえて悪い点ばかり選んで書きますが、大きな理由はひとつに集約されています

とにかくあらゆる面でお金がない

金回りが悪い、という言い回しがしっくりくる業界です。

中小規模の制作会社自転車操業が基本でしょう。

大手の制作会社も一般的な企業と比べれば、動いているお金中小企業並です。

社員給料が少ないのは当然です。わたしの1年目の年収は200万円ちょっとでした。

基本給が勤続年数に比例して上がっていき、年収も300万円少々まで上がってはいきましたが、3年目からはほぼ変わらず、季節ボーナス決算賞与の兼ね合いで年収自体は少しずつ下がっていました。

制作現場がフル稼働している場合制作進行の労働時間は最低でも12〜14時間(待機時間込み)で、話数が佳境に入ったり掛け持ちをすると、帰宅睡眠のためのまとまった時間が取れなくなります

給与面ではまったく割の合わない仕事です。

そして、社会保険など全て無し(完備している会社もあるらしい)という待遇であり、会社の方針として所属している人間を手厚く保護する気がないようです。

従業員は入れ替わるものだと経営陣は思っているのでしょう。

その理由としては、業務形態による離職率の高さ、そのためのリスク回避、といったところでしょうか。

スタジオは、自社ビルなどではなくマンションの1フロアでした。

机や床は私物で溢れ、雑然としていました。

そもそも正社員がいません。制作部の人間は皆、契約社員です。

実質的には業務委託契なのではないでしょうか。

会社契約して馬車馬になってよ。

管理職役員待遇はよく知りません。

制作デスク以降、役職がつくと手当てがあるようです。

スタジオ内の同じフロアに席があって作業をしているアニメーター演出家、仕上げさん(色を塗る人)などは、そもそも社員ではありません。

作業場所を間借りしているフリーランスです。

彼らの給料1話いくら、もしくはカットや枚数単価での出来高制です。

が、中には「監督料」とか「拘束費」という名目会社から固定給が支払われている人も一部います

美術撮影編集会社などのセクションはそれを専門とした会社があって、そちらに発注することが多いです。

作画会社所属する社員アニメーターもいますが、基本的にはフリーか、会社所属する場合もそれに近い待遇を強いられるため、駆け出しの動画マンの年収が100万円を切るなどという状況は珍しくありません。

ともかく、お金がないことによる精神的な貧しさが蔓延しています

心に余裕が無い人たちが多く、会社組織の上の方の人間からしてそのような状態のため、負の連鎖トップダウンでそのまま下りてきます

事実として、精神疾患を患っている人もいます

割合として多いか少ないかはわかりませんが、これほど身近に感じたことはありません。

作業者の「アニメが好き」「良いものをつくりたい」の気持ちと、幅はそれぞれでも責任感に支えられて、アニメは作られていると言って良いと思います

尊敬できる人がほとんどいない

完成し、放送や上映がされたアニメ作品には、美しさしかありません。

制作に関わったことがある人以外で、アニメをみて作品の制作過程想像する人がどのくらいいるでしょうか。

悲しいですが悪い意味で敷居が低い業界です。

志の低い人間ゴロゴロます

子供と話している気分になる人たちがたくさんいます

下層は、よどみながら広がっています

何も考えずに仕事をしていてもぎりぎり生活していけるレベルです。

上層は、会社なら詰まっていてへし合い、足の引っ張り合いが起きています

クリエーターには、「努力経験に裏打ちされた実力か天賦の才」が必要で、クリエーターにも制作にも、運とチャンスと体力がないと上っていけない、上れても生き残れない印象があります

続けてさえいればどうにかなる、ということはまずありません。

ひどく乱暴であることを承知で書くと、アニメばっかり見て育ってきたようなコミュニケーション不全の人が多くいます

男女問わずホームレスと見まごうかのような格好の人たちがいて、異臭を放っていたりします。

挨拶をしない(できない?)。

ゴミ箱がいっぱいならその上に重ねてゴミを置く。

スタジオにいるのに仕事をしない。

不明な点があっても確認しないでそのままにする。

メイクやおしゃれって何?と顔に書いてあるような、男性キャラクター談義に花を咲かせている女性たちを見ていると、ひたすら哀しくなります

40代を過ぎて、客観的に見て明らかに質やスピードが落ちているのに、全盛期と変わらず仕事ができていると思って、対価を要求してモメている人を見ると、泣きたくなります

アニメ制作花形アニメーターだとわたしは思っています

絵が描かれなければ、制作は全く進みません。

から待つしかありません。

それが作業者の自己満足による時間の使い方や、ただの怠惰であってもです。

現場は非常にルーズ雰囲気です。

放送や納品といった最終的な締め切りはあるものの、多くの作業者たちにとっては、それ以前に設けられている関所的な締め切りを突破したところで、ただちに実害はありません。

放送までのすべての制作責任は、制作部にあるからです。

アニメーターがあらかじめ提示された作業量をこなせなければ、そのぶんお金がもらえないだけです。

こなせなかった分は、その人ではない誰かが作業するだけです。(制作が人員確保、作業手配をする。負担増。いわゆる撒き直し)

連絡がつかないことなど日常茶飯事。

もちろん評判は落ちていくでしょうが慢性的な人員不足により、ある程度の実力があればそれなりに仕事が途切れません。

眠くなったら寝て、来たいときスタジオに来て、出たい時に電話に出る。

アニメコンビニがあれば生きていける、そういったものに関わっているだけで満足。そんな人たちにとっては居心地が良い業界であると思います

そういう人たちがいるから、日々アニメが放送されているのもまた事実です。

けどわたしは、そういう人たちのそばにいるのがたまらなく苦痛でした。

他人との関わりが薄くて、自分がどう見られているか考えない。

特化した技術があれば、他のすべてが欠落していても、存在理由になる。

そういう人に自分はなれないし、なりたいと思わないし、尊敬もできませんでした。

夢を見ているだけじゃ、生活はできるけど、幸せにはなれない。そう思いました。

予算と単価が上がればスケジュールにもゆとりが生まれて、余裕を持って制作ができるのでしょうか。

(一応書いておきますと、話が通じる人はいるし、プロ意識を感じる人もいます。声も出なくなるような素晴らしい上がりをバンバン出す人もいます。ただ、そうでない人たちがほとんどです。)

わたしもオタクのつもりでしたが、寝食を忘れるほどアニメが好きなわけじゃないし、現実恋人と触れ合っている方が楽しくて気持ちがいいことを知っている、普通人間だとわかりました。

自分のほうがおかしいのかと思うことも多々ありました。

結婚式なんかで久しぶりに会う同級生と話しても、いい年して誰もアニメなんか見ていない。

わたしが制作進行をしていたアニメなんか、毎週どころか、見たことあるって言ってくれた人についぞ出会ったことがありません。

これから

アニメって超面白い映像表現の中で究極の形態だ!

お金が欲しいわけじゃない!アニメと共に生き、アニメと共に死ぬんだ!経験が積めてお金ももらえるなんて最高じゃないか

と考えて入社しました。

アニメの商売は、DVDなりグッズなりを売っていくのがスタンダードです。

から、当然買ってくれるお客さんに向けて制作されています

だけど、制作者の意志は、制作者の数だけあります。少なくともわたしは自分のためにアニメを作っていました。

自分が考えて、アイディアを盛り込んで、少しでも面白くしようと努力してかけずり回って頭を下げて、誰が観ても面白くて、その結果自分の満足のいくものをつくるのが目的でした。

商業アニメ制作は、大集団による分業作業です。機械的に流れ作業を進めます

発注側は、末端の作業者の顔など見ることもありません。

渡される絵コンテアニメ設計図であり、8割の完成形が示されています

どうしようもない絵コンテもあります

絵コンテが上がらなくて時間を食い潰してしまい、敗戦スケジュールの話数を担当することも多々あります

わたしの想いが、フィルムにどのくらい反映されたでしょうか。

自分担当した話数を見れば、苦労した瞬間が、大変だったカットが、嫌なやつの顔が今でも手に取るように思い出せます

でもそれを、誰かが見て気付くのでしょうか。

アニメ作画崩壊回などと呼ばれ、DVDも売れず、誰の記憶にも残らない話数を担当してしまったのでしょうか。

自分という人間が必ずしも必要ではなく、一定レベルで作品のクオリティが維持できる話数完成の達成感も、いつしか得られなくなってしまいました。

そう思うと、この仕事を続けて行こう、前に進んで行こうとは、どうしても思えなくなってしましました。

身に付いたのは車の運転技術くらい。資格も何もない現状。

でも、アニメ制作会社新卒で入っていなかったら、絶対に後悔していた。

入って良かった。辞めて良かった。

さて、これからどう生きていこうかな。

想いをアニメに乗せるのは、制作を続けているみんなに任せるとして。

まだ想うところがある限り、わたしも前には進んでいける気がする。

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    そんなに酷い環境なのに 生み出される製品の質は年々上がっている不思議。 いったいどういう仕組みになってるの…。