アメリカ国防総省は、沖縄県の普天間基地に新型輸送機オスプレイを配備すると正式に日本政府に伝えました。オスプレイは今年に入ってから2件の墜落事故が相次ぎ、住民の間に安全への不安が広がっています。しかし、オスプレイはすでに船でアメリカ本土を出港していて、今月中に日本に到着する予定です。
配備先となる普天間基地は、16年前に合意された全面返還の実現には程遠く、
そのことが地元の反発をさらに強め、日米関係を揺るがす事態も懸念されています。
今夜はオスプレイの配備が日米同盟にどのような影響をもたらすのかについて考えます。

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(オスプレイVTR)
オスプレイは、ヘリコプターと固定翼のプロペラ機を融合してできた航空機です。
ヘリコプターのように垂直に離着陸し、固定翼のように高速で水平飛行します。

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海兵隊のMV22オスプレイは、導入から40年以上がたつヘリコプターのCH46に代わって配備されます。
オスプレイが太平洋地域に配備されるのは初めてで、その行動半径はCH46の7倍以上にもなると言われています。これまでは、海兵隊を船に乗せて作戦エリアに近づき、そこからヘリコプターで上陸作戦をしなければなりませんでしたが、オスプレイなら直接、朝鮮半島や台湾海峡などに展開して、すぐさま作戦行動を開始できるというのです。強襲揚陸艦と組み合わせれば、作戦が可能な範囲はさらに広がります。
アメリカは、アジア重視の新たな戦略上、オスプレイを欠かすことのできない戦力と位置づけていて、日本の安全保障にとっても大きなプラスになるとしています。

先週、オスプレイの普天間基地配備がアメリカ軍から日本政府に正式に伝えられたとき、私はちょうど、この問題の取材のため沖縄を訪れていました。
アメリカ側の主張とは対照的に、沖縄では配備に対する激しい反発が起きました。
(普天間基地空撮VTR)
普天間基地はそもそも、16年前に日米両政府によって全面返還が合意され、2005年には名護市辺野古への移設が決まっていました。ところが、現実には、移設は暗礁に乗り上げ、住民は、負担が軽減されるどころか、逆に負担が増していると受け止めています。
基地の近くに住む住民たちは「オスプレイが来れば毎日おびえながら暮らすことになってしまう。騒音や事故の危険と隣り合わせの生活はもういやです」と口々に訴えていました。

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また、沖縄県の仲井真知事は、配備計画の説明に訪れた森本防衛大臣に対して
「配備後に事故が起きれば、地元はすべての基地の即時閉鎖に動かざるを得ない」と、強い調子で配備への反対を表明しました。
沖縄では今、日米両政府が想像している以上に、大きな憤りや国への不信感が渦巻いているように思います。その背景には、返還されるはずだった普天間基地が、オスプレイの配備によってむしろ重要性を増し、基地が固定化されてしまうのではないかという強い懸念があるのです。
 
▼地元が配備に強く反発するオスプレイとはどのような航空機なのでしょうか、確認しておきましょう。

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オスプレイは、プロペラがついたエンジン部分の角度を変えることで3つのモードで飛行します。
離着陸の時の「ヘリコプターモード」。
水平で高速飛行する「固定翼モード」。
そして、回転翼の角度が切り替わる中間の状態を「転換モード」と呼びます。
この「転換モード」のままでも飛行する点が、オスプレイの大きな特徴です。
 
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アメリカがこの技術の開発に乗り出したのは、およそ30年も前のことです。
初飛行が行われた1991年から2000年までの10年間に4件の重大事故が起き、あわせて30人が死亡。安全性に対する大きな疑問の声があがりました。
 
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その後改良が加えられ、部隊への配備が本格化してから海兵隊のオスプレイについてはしばらく死亡事故は起きていませんでしたが、今年4月になって、モロッコでの軍事演習中に墜落事故が起き、2人が死亡しました。
さらに先月13日には、アメリカ・フロリダ州で空軍所属の特殊部隊用のオスプレイが墜落し、5人がけがをしました。原因調査の最終報告はまだ出ていませんが、2件の墜落は「転換モード」での飛行中に起きたことはわかっています。
ではオスプレイが現場の部隊に配備されて以来、実際にどれくらいの頻度で事故が起きているのでしょうか。
 
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死者が出るなどの重大事故の発生率は、沖縄に配備される海兵隊のオスプレイの場合、飛行時間10万時間あたり、1.93件です。およそ10年間で2件程度の重大事故が起きた計算です。海兵隊全体の平均よりは低いものの、現在配備されているCH46の倍近くになっています。
一方、空軍所属のオスプレイは、事故率が13.47件と非常に高くなっています。
特殊部隊用で運用の仕方が違うとはいうものの、基本設計は同じであり、安全性への懸念が増す要因になっています。
専門家の中には「改良が行われているとしても、転換モードや垂直に着陸する際の安定性が課題であることに変わりはなく、アメリカ軍は作戦能力の向上を優先し、ある程度のリスクを覚悟の上で運用をしているのではないか」と指摘する人もいます。
 
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実はこのオスプレイは、配備された後、日本国内の各地でも飛行を行うことになっています。月に2、3回程度、静岡県のキャンプ富士などでの訓練に参加するほか、東北や四国、九州など、日本の各地で低空飛行を含む飛行訓練が計画されています。これに対して和歌山県などからすでに反発の声があがっています。
 
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安全性に対する地元の不安が払しょくされないまま、12機のオスプレイをのせた船が、すでにアメリカを出港しました。
今月下旬に、山口県の岩国基地に陸揚げされる予定です。
そして、アメリカ軍は、10月から、普天間基地での本格運用を始める計画です。
アメリカは、日本に配慮して
「ことし起きた2件の墜落事故の調査が終わり、安全性が再確認されるまでは、一切の飛行は行わない」と発表しました。
その一方で、「これまでに機体に設計上の問題は見つかっていない」とも強調していて、配備そのものをやめるつもりはありません。
しかし、墜落事故の原因をめぐるアメリカ軍のこれまでの主張には、気がかりな点があります。それは、機体の設計上は問題がなく人為的ミスが原因だとの見方を示すことで、オスプレイの安全性をアピールしようとしている点です。
航空機の安全というものは、機体の性能だけで決まるものではありません。
十分な整備や、事故を回避する乗組員の能力など、すべてが一体となって初めて安全は実現される筈です。
住民にしてみれば、機体の欠陥であろうが人為的なミスであろうが、墜落してしまえば同じこと。機体の健全性を、アメリカ軍がことさらアピールしていることに違和感を禁じえません。
日米の取り決めでは、アメリカ軍の装備に重大な変更がある場合、事前協議が行われることになっていますが、政府は、航空機の機種の変更は、その対象にはならず、拒否したり意見したりする立場にはないとしています。しかし、「10月から本格運用という当初の配備計画」を堅持することが、本当に同盟の利益につながるのか。そうした腹を割った議論も日米間には必要なのではないでしょうか。
沖縄では、オスプレイ配備に反対する県民大会が開かれることが決まりました。安全性に対する不安が十分に解消されないまま配備が行われることになれば、地元の反発はいっそう強まり、日米関係が再びぎくしゃくした状況に陥る可能性もあります。朝鮮半島情勢や中国の軍事的台頭など日本周辺の情勢をみれば、同盟関係が揺らぐことは、日米双方にとって決して望ましいことではありません。
日米両政府には、そうした強い危機感を共有して問題の対応にあたってほしいと思います。
 
(津屋 尚 解説委員)