2012-02-21 17:45:20

消費税10%でGDP2.5%低下、雇用100万人以上減少-大企業に有利、低所得者と中小企業を直撃

テーマ:経済・財政・税制の問題

 ※労働総研が発表した消費税増税による経済と雇用への影響試算を紹介します。


 【消費税増税・試算】
 消費税10%で、GDP2.5%低下、雇用100万人以上減少
 ――大企業に有利、低所得者と中小企業を直撃


        2012年2月20日 労働総研(労働運動総合研究所)


 野田民主党政権は、「社会保障と税の一体改革」を、「際限なく先送りできるテーマではない。改革に不退転の決意で臨む」として、消費税を現行の5%から10%に引き上げようとしている。しかし、我々が試算したところ、消費税5%の引上げによって、GDP(国内総生産)が2.5%低下し、100万人以上の雇用が失われ、税収も、10兆円余の増収の一方で 2兆円以上の減収が生じる。また、産業・部門別にみると、ダメージが大きいのは、食料・飲料・たばこ、農林漁業、個人サービス業など、中小企業や個人営業が多く、力の弱い部門であり、経団連等で消費税増税を主張している重工業、機械金属など大企業部門はダメージが小さい。


 東日本大震災、国際的な金融危機、それに加えての異常な「超円高」、それを契機とする大企業の海外移転、産業「空洞化」の進行――こうした局面のもとで、いま、求められているのは、全力を挙げた震災復興ならびに労働者・国民の生活向上を通じて、内需主導の力強い経済成長を目指すことである。それに逆行する消費税の増税は、日本経済の再生の道を閉ざし、日本経済を“奈落の底”に突き落とす結果になりかねない。


 1 本質的に不公平、弱い者いじめの消費税


 (1)企業は1円も負担せず、消費者が100%負担する税制

すくらむ-21-1


 ▲第1図は、消費税が理論通りに課税され、国庫に納付された場合の取引図である。ただし、簡略化のため、①輸出入はない、②原材料は付加価値100%である(天然資源と人力のみで生産される)、③消費税率は例外なく5%であり、脱税や益税はないものとしている。


 消費税とは、「生産及び流通のそれぞれの段階で、商品や製品などが販売される都度その販売価格に上乗せされてかかるが、最終的に税を負担するのは消費者」であり、納付税額は「課税期間ごとに売上げに対する税額から、仕入れに含まれる税額と保税地域からの引き取りに係る税額との合計額を差し引いて計算」される税である。(国税庁ホームページ「消費税の仕組み」より。)


 第1図で説明すると、まず、原材料部門Aは売り上げ 200の 5%=10を納税する。次に、製造部門Bは、課税前売り上げの 5%=20からAが納入した税額 10を差し引いて 10を納税する。次に、商業部門Cは、課税前販売額 500の 5%=25からAおよびBが納入した 20を差し引いて 5を納税する。最後に消費者は、その製品が作られるまでに納税された消費税 25をまとめて負担し、 525で購入する。


 原材料~商業の各部門は、当然のことながら消費税分だけ価格を引き上げて販売するから、消費者の代わりに納税するだけで、消費税を1円も負担しない。ただし、力の弱い下請け企業や小売店などで、もし、消費税相当分の値上げができなければ、自らの利益を減らして納税することになる。


 なお、A、B、Cの納税額は、[売上高-仕入高=付加価値額]の5%でもあるから、消費税は付加価値に対する税ともいわれるが、西欧諸国で一般的な「付加価値税」とは、必ずしも一致しない。


 (2)大企業は価格転嫁の上、値引き強要と輸出還付金で不当な利益


 力の強い大企業は、消費税を1円も負担しないだけではなく、実は、下請け・外注企業に対する代金の値下げ強要や輸出還付金によって利益を得ているのである。


 製造業を例に▲第2図で説明すると、もし、生産の50%=100を下請け企業に外注して、製品の50%=250を輸出していたとする。その場合、仕入れ額は原材料費に外注費を加えた300であり、販売額は、それに付加価値200を加えた500であるから、製造業Bの消費税の納税額は、500×0.05=25から、原材料部門および外注先で納税された消費税15を差し引いた10になる。


 ところが、もし、外注先が下請け企業で力が弱く、Bの圧力によって消費税分を上乗せできなかったとしたら、外注先は自らの利益を削って消費税を納税することになる。その場合、親企業Bが売上高の5%=25から差し引くことが出来る納税額は、原材料に含まれる10のみのはずだが、外注先は5%を上乗せできなかったものの納税はしているので、それを含む15を差し引くことが可能である。日本共産党の佐々木憲昭衆議院議員が「大企業は消費税を自分で負担せずに下請けへ押し付け、還元金だけを受け取っている」と政府を追及したところ、当時の与謝野馨内閣府特命担当大臣は「消費税分だけまけるというのはいかにもお行儀の悪い話……下請にいろいろなことのしわ寄せをしているという典型的な例である」と回答している。(Wikipedia「消費税」より)


 次に、輸出は、国内に負担者がいない、輸出先国に消費税があれば二重課税になるという理由で非課税になっているが、生産・販売された商品が国内に売られるのか輸出されるのかは、必ずしも始めから分かっているわけではないので、一旦納税したあとで輸出相当分を戻す(還付)という方法がとられている。その結果、輸出比率の高い大企業では、納税額を上回る還付が、しばしば行われているのである。


 中野合同税理士事務所所長(元静岡大学教授)湖東京至氏の試算によると、2010年分の還付金は、トヨタ自動車 2246億円、ソニー1116億円、日産自動車987億円、東芝753億円など上位10社で8700億円もあり、全企業では3兆3762億円(政府予算)にもなる。その結果、トヨタ自動車がある愛知・豊田税務署など全国の九つの税務署では、還付金が納税額を上回り、納税期に消費税を戻すのが大仕事になっている。(「全国商工新聞」第 3003号)


すくらむ-21-2



 ▲第2図の例では、製造部門は、納税額10に対して輸出還付金12.5と、還付金が納税額を上回っている。不当な利益であり、その分は値引きして消費者の負担を減らすべきであるが、必ずしもそうなっていない。


 さらに、ここには書いていないが、企業が設備投資を行った場合、その全額が当年の仕入として扱われ、設備投資財の生産者が納付した消費税を、納税額から差し引くことができる。われわれ国民が家を建てた場合には、しっかりと消費税を取られるのに……である。それは、消費税は、あくまで消費を対象にした税金であり、消費者からは無慈悲に取り立てるが、企業には一切の負担をかけないという、税の基本的な性格による。


 (3)消費税は、低所得者ほど負担が大きい


すくらむ-21-0


 消費税は、収入の多寡に関係なく消費するモノやサービスに一律に課税される税である。一般に、低所得者は収入のほとんどを衣食住等の消費にまわさなければならないが、高額所得者は、貯蓄、税、社会保険料などが大きく、消費にまわる割合が低いので、消費税の影 響は低所得者ほど大きくなるのである。


 総務省統計局の「2010年家計調査」により、年収入十分位別の実収入に対する消費支出の割合をみると、年収270万円未満は69.3%、270~354万円は70.7%に対して、年収1031万円以上は52.5%、849~1031万円は55.8%と、低所得者層の方が約15%も課税対象の支出が多い。


 このように、消費税は、貧乏人ほど負担が大きく、金持ちほど負担が軽い最悪の逆累進課税であり、格差と貧困をさらに押し広げるものである。


 (4)消費税は、非正規雇用を増大させる


 消費税の納付額は、前述したように「課税期間ごとに売上げに対する税額から、仕入れに含まれる税額を差し引いて計算」されるが、それは、付加価値額(売上高 -仕入高)を対象にした税であるともいえる。これを人件費について考えると、給与や厚生経費は「付加価値」の一部であるから納税の対象になるが、派遣は「派遣サービスの購入」、請負は「役務の提供」という経費なので、仕入控除の対象になる。つまり、正社員を減らし、派遣や請負などの非正規労働者を活用して、派遣会社や請負会社から「役務の提供を受けた」という形にすれば、人件費が納税の対象から仕入控除の対象に変わるのである。しかも、現行消費税法では、「(派遣会社等)設立 2年間は売上高いかんにかかわらず、免税される」規定があるため、設立と閉鎖を繰り返せば、派遣会社等も消費税を逃れることができる。このように、消費税は、非正規雇用を増大させる仕組みとしても機能しているのである。


 2 消費税引き上げの経済への影響


 本稿では、消費税の5%から10%への増税が日本経済にどのような影響を及ぼすことになるかを、総務省から公表されている最新の「産業連関表」を利用して、定量的に明らかにしたい。なお、計算の前提として、次の2つの仮定をおいている。


 ① 消費税は、第1図で示したように、理論通りに実施されるものとする。つまり、益税や脱税等はなく、どの段階においてもスムーズに価格転嫁される。


 ② 消費税によって税収が増えるが、政府支出は増えないものとする。なぜなら、消費税を社会福祉に使うといっても、668兆円もの公債残高(2011年度末)がある中では、浮いた社会福祉費は借金返済にまわるだけで、政府消費が増えるはずはないからである。


 すくらむ-21-1h


 試算の結果は、▲第1表のとおりである。消費税の5%から10%への増税は、家計消費需要を13兆9180億円(2010年の家計消費支出 278兆3510億円の5%)減少させる効果を持つ。それによって国内生産額が21兆2643億円、付加価値額が12兆2046億円減少し、GDPは2.53%減少することになる。その結果、労働量が、就業者ベースで157.5万人分、雇用者ベースでは114.9万人分失われることになる。それにともない、国・地方合わせて税収が2兆1660億円減少する。


 (1)どの分野が消費税増税の影響を大きく受けるか


 いうまでもなく、生産活動は、需要があってはじめて行われるが、産業連関表を利用することにより、各産業(ここでは「部門」)の生産活動は、どのような需要に基づいて行われているのか(各産業・部門の生産は、どのような需要にどれだけ誘発されているか=各産業・部門の生産活動は、どのような需要にどれだけ依存しているか)を計測することが出来る。


 総務省から公表されている「平成17年(2005年)産業連関表」によると、「食料・飲料・たばこ」部門、「農林漁業部門」、「個人サービス」部門および「金融・保険・不動産」部門は、生産活動の70%以上を家計消費に依存しており、消費税増税の影響を大きくに受ける部門である。続いて、「エネルギー」部門、「商業」部門、「情報産業」部門も家計消費への依存度が高く、50%以上を依存している。


 一方、「機械機器及び金属製品」部門と「工業用原料(重工業)」部門は、輸出への依存度が高く、消費税増税の影響は小さい。「公務」部門、「医療・保健」部門、「教育研究」部門は、政府消費への依存度が大きく、財政が改善しないと厳しい。「土木建設」部門は、設備投資に対する依存度が高い。なお、輸出への依存度が高い「機械機器及び金属製品」部門と「工業用原料(重工業)」部門は、TPPの恩恵を大きく受ける。

すくらむ-21-4



すくらむ-21-f


 (2)大企業への影響は小さく、中小企業が大打撃を受ける



すくらむ-21-3h


 その結果、消費税の影響といっても、産業・部門によって、その影響度が大きく異なる。▲第2表は、影響の大きい順に産業・部門を並べたものであるが、「食料・飲料・たばこ」、「農林漁業」、「個人サービス」、「金融・保険・不動産」の順に影響が大きく、これらの産業・部門では、国内生産の 3.5~4.4%が減少する。それに「エネルギー」、「商業」、「情報産業」、「運輸」が続き、概して中小企業や個人営業が多い産業・部門の国内生産減少率が大きい。


 それに対して、大企業の多い「機械機器および金属製品」、「工業用原料(重工業)」と、「土木建設」、「公務」および「医療、保健」は影響が小さい。


 (3)従業者ベースで157万人、雇用者ベースで115万人分の仕事が失われる


 生産(売上)が減少すれば、雇用も減少することになる。産業連関表の雇用係数(国内生産額百万円あたり従業者および雇用者数)を利用して雇用者の増減をみると、従業者ベースで157.5万人、雇用者ベースで114.9万人分の労働量が失われる(従業者:雇用者+個人業主+家族従業者、雇用者:有給役員+雇用者〈常用+臨時・日雇〉)。なお、ここで「労働量」と言っているのは、産業連関表の労働投入量が人数ではなくマン・アワーで表されており、出稼ぎや第2の仕事がある場合には、両方でカウントされること、および、部分的ではあるが、労働時間の短縮あるいは残業の拡大によって、労働量の減少と失業が直結せずに雇用が維持される可能性があるからである。


 結果を見ると、国内生産の減少に比例して労働量が減少するから、当然のことながら、減少率では「食料・飲料・たばこ」、「農林漁業」、「個人サービス」、「金融・保険・不動産」の順に減少が大きい。人数では、従業員の多い「商業」と「個人サービス業」が断然大きく、雇用者ベースでみて、この2部門で 55.9万人と、全体の 48.7%を占める。他方、装置産業である「工業用原料(軽工業)」、「工業用原料(重工業)」および「エネルギー」部門の減少はそれぞれ0.7~1.4万人とわずかである。


 なお、就業者と雇用者の差が大きいのは、「農林漁業」、「商業」および「個人サービス」であり、これらの産業・部門は、個人経営や家族従業員が多いことによる。


すくらむ-21-3h



 3 “失われた30年”へ続く道
    ――日本政府は景気回復が嫌なのか?


すくらむ-21-g


 ▲1989年に消費税が導入された時、それまでの4~8%の経済成長率が2%未満に落ち込んだ。97年に消費税が3%から5%に増税された時にも、ようやく「阪神淡路大震災」を乗り越えて景気回復の兆しを見せていた日本経済の腰を折り、“失われた20年”を決定づける深刻な景気後退を招いた。当時、日本経済に関する論文を多数書いている2008年ノーベル経済学賞受賞者、プリンストン大学のポール・クルーグマン教授は、「なぜ、景気が上昇しようとすると増税や社会保障の切り下げを行うのか、日本政府は景気の回復が嫌なのか」とコラムに書いた。いま、リーマン・ショックを契機とする世界金融危機がまだ続き、東日本大震災からの復興も緒に就いたばかりというのに、なぜ消費税増税なのか、到底理解できないのである。


 民主党政権は、一方で、財界の要請に応えて法人税の引き下げを行おうとしているが、不況が長引いているのも企業の海外移転が進んでいるのも法人税のせいではない。この20年間に、法人税(国税)は43.3%から30.0%に13.3%も下がっているにもかかわらず、景気は回復しないし、大企業の海外進出が加速している。しかも、日本以外の国も法人税の引き下げを計画し、国際的な法人税引き下げ合戦となっている。それが主要国での財政危機の一因となっているのは周知のとおりである。


 “失われた20年”の最大の原因は、賃金の低下、個人消費の停滞による需要不足である。2000年から2010年までの10年間に、パートを含む事業所規模5人以上の労働者の現金給与総額は、10.7%も低下し、勤労者世帯の消費支出が6.9%も減少した。それが、


 需要不足→生産減少+物価低下→雇用減+賃金低下→需要不足


 という悪循環、デフレ・スパイラルを引き起こしているのである。


 いま実施すべきは、この悪循環を断ち切る政策である。賃金の引き上げは労使交渉に任せるべきだとしても、政府のやるべきことはたくさんある。政府が決める賃金である最低賃金を速やかに時給1000円以上に引き上げるべきである。違法な「サービス残業」を厳しく取り締まり、さらに労働時間を西欧並みに短縮するべきである。同一労働・同一賃金の原則を法制化し、パートや派遣労働者などの非正規雇用者の低賃金を抜本的に改善すべきである。「労働者派遣法」を、財界ではなく労働組合の要望に沿って直ちに抜本改正すべきである。


 あの自民党麻生首相でさえ経団連へ行き、収益の改善を賃金に反映させるよう要請したというのに、野田政権は、消費税引き上げの露払いとして国家公務員賃金の引き下げを決定し、福島原発の事故にからんで電力労働者に賃下げを強要しようとしている。前者は、基本的人権である労働基本権が奪われている労働者に対し、合意もなしに賃下げを行おうとする憲法違反の行為であり、後者を含めた労働者の賃下げが実施されるなら、広範な労働者の賃金に波及し、低賃金化を加速することは間違いない。


 日本経済の健全な発展のためには、アメリカ流の投機、「カジノ経済」を抑制し、働く者が報われるようにする必要がある。異常なカネ余りが投機や円安の大きな原因であり、世界各国と協調して投機の抑制を行うべきである。また、海外投資より国内投資を有利にするような政策を考えるべきである。


 次に、大企業に、2000年度の297兆円から2010年度の461兆円へ、10年間に164兆円、1.5倍以上も増大した内部留保を還元させるべきである。バブル崩壊からリーマン・ショックへと続く苦しい時に、政府の援助を受けた銀行の債権放棄に救われたのだから、今度は、大企業が国の借金を引き受けて債権放棄すべきであるが、引き受けた国債の利払いを10年程度遠慮するだけでも財政に対する大きな貢献となるはずである。


 消費税については、増税を撤回するだけではなく、東日本大震災の犠牲者に対して、住宅はもちろん家具や電化製品の購入、食料や衣類など当面の生活に必要な物資の購入について、まず、現在の5%を無税とすべきである。具体的には、購入した財・サービスに含まれる消費税分を還付することになるが、大企業に対する輸出分の還付が出来てこれができないはずはない。

                                     以上

コメント

[コメントをする]

1 ■無題

納税者カード(社会保障カード)
で所得を把握して、還付すればいい。
ただ、個人情報がクラッキングされる恐れもある。

2 ■デフレ

フリーターブームというか 将来どうなる若者達
ボーナス 退職金も 死語になるのだろうか
東日本大震災から 消費税増税

コメント投稿

一緒にプレゼントも贈ろう!

トラックバック

この記事のトラックバック Ping-URL :

http://trb.ameba.jp/servlet/TBInterface/kokkoippan/11171417418/fdbc174e

Amebaおすすめキーワード