東京の下町で印刷会社を経営しています。会社の目の前が自宅で、おとん、おかん、僕の3人暮らしなんですけど、家を出た兄も姉も、みんな同じ駅の近くに住んでいる。仲がすごくいいんです。僕自身も、両親に反発したり、けんかしたりしたことがない。おとんを殴るとか、絶対あり得ないですね。
原因は多分おかんだと思います。僕が小6くらいの時にくも膜下出血で倒れて。そのときの後遺症で、記憶が5分しか続かない。家族の顔や昔の大ニュースは覚えているけど、さっき何食べたかは忘れてしまう。もともと足も悪くて。でも明るくてよく笑うおかんです。だから家族みんなでおかんを助けなきゃっていう気持ちでまとまった。
おとんもおかんが疲れているときには料理します。本人は「遊び半分で作っている」って顔してやりますけど、いたわってるんだなと。日曜におかんとゆったり買い物に行く姿を見ると、ああやっぱり二人でいるのがいいんだなって思いますね。
僕が俳優であることに対しては「何でお前なんかが」と言い続けています。僕、家でめっちゃリラックスしていて片付けとかしないから、だらしない姿と仕事中の僕が結びつかないみたい。舞台も見に来ない。
でも話はします。夜中にパンツいっちょで男二人、ぼそぼそと。僕から話を振ると「社長はストレスたまる」とか「責任を負わなきゃいけない」とか話をします。僕も仕事の話をする。
帰宅したとき、ぐったりと寝てる姿を見ると、疲れてるのかなと思います。そういうときはおとんから習った整体をしてあげます。祖父が亡くなったとき、自分の父親が年取って弱っていくのってどんな気持ちなんだろうと考えたことがあるんですが、それをいま、ゆっくりと経験しているのかもしれない。
おとんはたまに「一人暮らししないのか」と聞いてくるけど、首とかもんであげて気持ちよさそうに寝入る様子を見ていると、近くにいた方がいいのかなって思います。本人はどう思っているか、わからないですけどね。(聞き手・岩本美帆)
むらい・りょうた 俳優。2007年、ドラマ「風魔の小次郎」主演、09年「仮面ライダーディケイド」など。テレビ「戦国鍋TV」、舞台「醒めながら見る夢」に出演中。23歳。