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認定NPO法人ワンデーポート 

はじめに


「ギャンブル依存症」についての私たちの考え方 
 ご訪問いただきありがとうございます。近年、いわゆるギャンブル依存症という言葉が知られるようになり、のめり込みに対する社会的な関心も高くなっています。また、依存からの回復には「ミーティング」が有効であることが知られ、ギャンブラーズ・アノニマス(Gamblers Anonymous以下GA)に行くことが効果があることも知れてきました。
 ワンデーポートは2000年からギャンブルに問題がある人の回復支援に取り組んでいますが、当初はいま社会で考えられているように「病気」であることやGAに行くことですべての人が回復できると考えていました。ところが、たくさんの利用者を受け入れていくなかで、相手の話を聞くことが苦手な人や、ミーティングは理解できていても、自立した途端に崩れてしまう人が一定数いるということがわかってきました。
 それから2年、3年経過した2005年頃に私たちは発達障害の概念を知ったことで、その考え方を改めなければなりませんでした。
 発達障害やその傾向がある人は、言語でのやりとりが苦手です。また、相手の気持ちを想像することにも課題があります。そうした人たちがただミーティングを重ねても変化できないのは、ある意味で当然のことなのです。つまり、それまでのワンデーポートでうまくいかないのは、その人たちの責任ではなく、ワンデーポートの考え方やプログラム自体に問題があったわけです。
 さらに、私たちは経験を積み重ねるなかで、ギャンブルに問題がある人は、発達障害だけではなく、自立や社会参加など様々な背景を有している人が多く、ミーティングが有効に働かなことが少なくないこともわかってきました。また、ミーティングが有効に作用する人に対しても、ミーティングにプラスし、就労支援や必要な助言を行なうことも必要であることもわかってきたのです。
 そして、いま私たちは、闇雲に「ギャンブル依存症は病気である」とか、病院やミーティングで解決できると単純に考えるのではなく、年齢や性別そして、ギャンブルにハマる前の1人ひとりの特性や生活課題を見ていくことが不可欠だと考えるようになりました。Mさんのような方との出会いを重ねることで、その人に必要な支援は何なのか常に意識するようなりました。


「共依存」という見方では助からない人はたくさんいる
  たとえば、大学入学後に家族が世話を焼いている人がいるとします。大学中退してから、家族が仕事先を決め、その傍らでギャンブルに耽溺しています。「依存症」の考え方をすれば、共依存で、家族が甘やかすから息子さんは自立できないということになります。このような方がワンデーポートを利用するときは、以前でしたら「お母さんは共依存です、お母さんが変わらないと駄目なのです。お母さんも病気ですよ」と言っていました。ところが、2004年ぐらいに発達障害の概念を知ってから、この考え方に疑問を持つようになりました。発達障害の視点を入れると、家族はそうせざるを得なかったのではないかということが見えてくるからです。反対に家族が支えていたから、失敗をしながらも本人はここまで来られたのではないかと考えられるわけです。
  家族がワンデーポートに相談してきたときには、以前は「お母さんが手を掛けすぎ」というように思っていましたが、発達障害を知ってからは、お母さんも大変だったのだろうなと思えるようになりました。
  もちろん、共依存という概念でとらえたほうがいいご家族もいます。家族が手をかけすぎていたから自立を妨げていると考えられるケースもあります。同じような現象が起きていたとしても、その現象の背景をしっかり見ていかないと、支援なのか共依存なのかを判断することはできません。当初は発達障害の有無でどちらかが決まるとイメージしていました。しかし、多くの人たちとの出会いの中で、「支援」か「共依存(世話の焼きすぎ)」なのかというのは、依存症か発達障害かで決まるわけではなく、年齢や社会経験、その人の置かれている状況も加味して考えるべきだと思っています。
  ワンデーポートの経験ではギャンブルに問題がある人への支援は、「病気」や「共依存」とひとくくりにするのではなく、一人ひとり、一つひとつの事象について、個別に扱うべきだと考えています。

金銭管理が必要な人もいれば、そうでない人もいる
  このように、ギャンブルの問題についての解決方法は、一人ひとり答えは違うと考えるべきだと思っています。たとえば、金銭管理について言うと、あるギャンブラーは家族が金銭管理をする必要があり、ほかのあるギャンブラーはまったく金銭管理が必要ではないということもあるわけです。
  家族の相互援助グループは「みんな同じ依存症」という前提で勧められる傾向にあり、家族同士の間でも間違った「提案」がなされていることもあるようです。

  Aさんはグループのスポンサーに、「金銭管理はやってはいけない」と言われ、息子さんの金銭管理をやめました。息子さんはその後ギャンブルをやって、借金が膨れ上がりましたが、破綻寸前になり、母親の勧めていたGAに参加し、回復の道を歩んだそうです。Aさんは、スポンサーの提案は12ステップの考え方は絶対だと思いました。そして、グループにつながる人には「神にゆだね手を放すこと」「金銭管理はしないこと」を強く勧めました。Cさんははじめてグループに参加したときに、Aさんから「病気」だから借金の尻拭いや金銭管理は一切やってはいけないと言われました。
  Cさんは生まれつき不器用な息子が心配でなりませんでしたが、その通りにしました。Cさんの息子さんは所持金を使い果たすと、万引きをしてしまい、警察に捕まりました。CさんはAさんに相談したところ、「どん底までいかなければ気がつかない。今の状態は回復には必要です。チャンスかもしれない」と言われました。CさんはAさんの言うことを信じたそうです。
ところが、それから2年が経過しましたが、Cさんの息子さんの状況は改善されていません。改善されないばかりか、万引きを繰り返したCさんの息子さんは刑務所に服役しているそうです。

 ギャンブルにハマるのは依存症という病気と一律にとらえることで、こういう悲劇が起きてしまうのです。AさんとCさんの息子さんは、現象としては、「ギャンブル依存」という共通の問題がありましたが、成り立ちが違っています。Aさんの息子さんは、ギャンブルの問題が生じる前に仕事をして経済的にも自立しており、Cさんの息子さんは、アルバイトを継続するのも3か月がやっとで、引きこもりがちの生活をしていたそうです。
AさんはCさんに間違ったアドバイスをしているのはあきらかです。私はこうした間違いが起きないように、「病気」と言われている現象が、人によりその成り立ちの違うことに目を向けてもらいたいと思っています。

病気と考えないほうがいい理由
  ギャンブルにハマることを病気とすることについての疑問点を述べます。まず、相互援助グループのGAで病気であると強調されていることについてです。彼らが言う病気とは、スピリチュアルの病、つまり生き方や価値観の病という意味であり、医療機関において治療行為で治す疾患という意味で考えられているわけではありません。それが、安易に病気と考えないほうがよい理由の一つです。
 違う視点で、もう一つ。精神科医が診断の基準にしているアメリカ精神医学会のDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)や、サウスオークス・ギャンブリング・スクリーン(SOGS)などには、病的賭博についての診断基準が記されています。この基準は、競馬やカジノなのに耽溺している人を対象にしています。欧米諸国の文化を基準にした産物です。日本で問題となっているのはゲーム性の強いパチンコであり、国際的な診断基準にあてはめ病気だとすること自体にはかなり無理があると思うのです。さらにわが国の医療機関では、病気としながらも「底をつかなくては駄目、本人の自覚次第です」と言われてしまいます。こうしたあきらかな矛盾が存在し、「GAに行きなさい」で「治療」が終わるだけですから、病気として扱うデメリットも大きいと思っています。
  さらに別角度から考えてみます。ギャンブルの問題がある人に対しても「本人が病気であると認める」ことが重要だと言われています。たしかに、「病気」という言葉が免罪符になり、考え方や生き方を変えようと思う人もいます。しかし、当事者の多くは、「病気」という言葉を否定的にとらえますから、介入の妨げになります。ご家族の皆様がご本人に「あなたは、依存症という病気かもしれない」と言ったら多くの人はその時点で耳をふさいでしまうでしょう。私たちは「病気」ととらえなくても(病気ととらえないほうが)解決できると考えていますので、問題がある人に「病気ですよ」とは言っていません。
  また、病気という言葉は、使い方や状況、個人により「ビョーキ」「疾患」「障害」「困難」など幅広い意味を持っています。使った人と受け止める人との間に齟齬が生じる可能性もあるのです。
  あらゆる角度から考えても(一義的な)「病気」と考えることでのデメリットはあると思います。「病気」や「依存症」とひとくくりにして考えるよりも、きめ細かな配慮や支援が必要な問題と考えればこそ、「問題」としてとらえたほうが良いと思うのです。

「ギャンブル依存症は病気」から一歩進んだ理解を
  一昔前まではギャンブルにハマるのは、意志の弱い、破綻者と見なされていました。近年、「ギャンブル依存症は病気」という考え方が社会の中で広がってきたことで、ギャンブルの問題に悩む、本人や家族にとって救いになりました。自己責任というところから解放されたわけですから、「病気」と考えることは大きな一歩だったのは間違いのない事実です。
  しかし、「病気」というところで、多くの人は立ち止まってしまっているのが現状だと思います。
 ワンデーポートでは、あらゆる角度からこのギャンブルの問題を考えています。ギャンブル依存症は病気という考え方からを掘り下げ、常に新しいプログラム提供できるよう日々努力しています。いままでの考え方で、状況が変化しない方、これからギャンブルの問題に向き合う方は、是非私たちの考え方を知ってもらいたいと思っています。お気軽にお問い合わせいただければ幸いです。

ワンデーポートのミッションステートメント(支援の指針)

1. 1人ひとりの尊厳を守り、その人らしく生きるためのプログラムを考え提供します。

2. ギャンブルにハマる原因はアディクションのみならず、発達障害や精神疾患などほかの原因もあると考えます。

3. ギャンブルで問題を起こす背景は様々であり、ひとくくりに「依存症」ととらえることはしません。

4. ギャンブルに起因する問題解決のためには、人間と人間が出会い、信頼感や一体感を獲得することが不可欠だと
   考えます。

5. 関係機関など、地域のネットワークを最大限活用します。

6.ギャンブルは社会的行為であり、社会の変化とともに、利用者も変化すると考えます。そのため、援助方針や提供
  されるプログラムは、時代に合わせ変化するべきものと考えます。


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