『人民の星』 5532号1面

G20・APEC首脳会議 通らぬ米国の主張

 一一月にはいり主要二〇カ国地域首脳会議(G20サミット、一一〜一二日、ソウル)、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議(一三〜一四日、横浜)とあいついで国際会議がひらかれ、またそのあいまに各国首脳会談が活発におこなわれた。〇八年恐慌からの回復過程にありながら、主要国の過剰生産危機、金融危機は依然深刻である。こうしたなかオバマ政府は総額九〇〇〇億jにのぼる量的金融緩和政策を発表し、各国にたいして「通貨戦争」をしかけた。しかし多くの国がこれらの国際会議をつうじても反発をつよめており、アメリカ帝国主義とこれに従属する日本売国独占資本の衰退がいちだんとめだった。
 当面のアメリカ帝国主義のねらいは、量的緩和政策によって同盟国をふくむ各国にアメリカ経済の危機の犠牲転嫁をすすめること、なかでも最大の輸出国となっている中国を標的にして、対中包囲網をつくり、対中戦争準備をすすめることにある。しかし、事態はアメリカの思うようにはならなかった。

米中激突、オバマ屈す
 一三日のAPEC関連行事である「APEC CEOサミット」で演説をおこなった米大統領オバマは「今後はどの国も米国への輸出が繁栄への道だと思うべきでない」とのべ、米国は今後五年間で輸出を倍増させる「国家輸出戦略」をすすめていることをあきらかにした。オバマは「輸出が一〇億jふえるごとに米国では五〇〇〇人分の雇用がささえられる」とうそぶいた。
 量的金融緩和(ドルたれ流し)は、危機におちいった米国金融資本の救済をはかるだけでなく、ドル安を各国におしつけることでアメリカの輸出に有利な条件をつくろうというもので「国家輸出戦略」にそったものである。しかし現実は、アメリカ製造業の衰退はいちじるしく、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)などを締結させて、政治的に各国に輸入を強要する以外に輸出倍増などできるものではない。

黒字制限の目標を掲げたが
 G20首脳会議にさきがけて一〇月下旬にひらかれたG20財務相・中央銀行総裁会議では、アメリカは「韓国」をまきこんで、二〇一五年までに各国は経常収支の赤字と黒字を国内総生産(GDP)の四%以内におさめるという数値目標を提案した。
 アメリカは「自由貿易」などといいながら実際には政治力をもって中国の輸出を制限し、元の切上げをもとめている。元が切上げとなれば、そのぶん中国がもっているドル資産は消滅し、対中輸出も有利になるからである。
 こうしたアメリカの攻撃にたいして、中国は全人代常務委員長や首相をアジア諸国やヨーロッパに訪問させ、潤沢な資金力をつかって援助や商談をまとめるなどの外交を展開し「味方」をつくっていった。
 米中激突のなかでG20がひらかれたが、アメリカの中国包囲策は、中国をはじめ各国の反発にあってうけいれられなかった。中国に輸出削減をもとめるまえに、通貨不安をまねき、バブル経済の再燃を各国にもたらす危険性のあるドルたれ流しをなんとかしろというのが大方の政府の態度であった。オバマ政府は「通貨戦争」「経済戦争」をしかけたが、思うようにはいかなかった。
 アメリカの「経済戦争」のいまひとつの柱はアメリカ主導下での「貿易の自由化」であり、とりわけTPPを利用してAPECにたいする経済的支配をつよめようとしている。一四日にまとめたAPEC首脳宣言「横浜ビジョン」は、地域経済統合としてアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の実現をうたった。

アジア自由貿易圏巡り争奪
 これは、@東南アジア諸国連合(ASEAN)を軸に日本、中国、「韓国」がくわわる「ASEAN+3」、Aさらにこれにオーストラリア、ニュージーランド、インドをくわえた「ASEAN+6」とBTPPを基礎にしたものの三通りが例示され、地域経済統合をめぐってはげしい米中対立がくりひろげられていることを暴露した。
 ASEANを軸にした統合にはアメリカがはいっておらず、アメリカとしてはTPPを軸にした統合をすすめる以外に、はいりこむ余地がないのである。にわかにTPPがさわがれた根拠の一つがここにある。
 TPPは、アメリカの従属国であるオーストラリア、ニュージーランド、ペルー、チリの四カ国が締結している全面的な自由貿易協定で、これにアメリカ、シンガポール、ブルネイ、ベトナム、マレーシアが参加表明している。アメリカはTPPに日本をひきずりこむことで、日本の富を根こそぎ収奪してしまうだけでなく、中国の主導権をうばってアジア太平洋地域の経済統合をなしとげ、再興をはかろうとしているのである。
 一四日には、TPPに参加表明している九カ国が横浜市内で会合をおこなったが、これに日本から菅もオブザーバーとして参加した。ここでオバマは、来年一一月にハワイでひらくAPEC首脳会議までに交渉妥結をめざすとしており、当然、菅政府にたいしてもこれまでに参加体制をつくれと要求したことはまちがいない。
 だが、普天間基地移設と同様、TPPにたいしても農漁民を先頭にして反対運動が急速にもりあがっており、米日反動派の思うようにはいかないだろう。