福島市障害者支援センター(NPO)で働いています。以前反原発の運動をしていたこともあり、地震後すぐに家族と共に、一旦遠くに避難しました。原発事故の時どういう事が起こるかの予想も付いていたし、今はインターネットである程度の情報を手に入れられるので。でもその後、政府や東電が、どうも事故を小さく見せようとしていることに気づき、本当ならば助かる命がこのままでは見捨てられるという危機感が生まれました。それまで周りの人だけに危険を知らせていましたが、もっと社会に働きかけないといけないと思い、行動に移しました。具体的には3月19日、山下俊一氏が福島県内で安全プロパガンダをはじめたときです。福島県に、全ての小中学校、幼稚園等、1600カ所の空間線量測定を要請したのもこの時です。ただ彼らは計りっぱなしで集計も評価もしなかった。福島県学校施設の実に76パーセントが0.6μSV/hという、放射線管理区域と同じ状態でした。そこで一度子供達を疎開させ、その上で除染をして欲しいという進言書を福島県、および福島県の全ての市町村に提出し、自分たちは”フクロウの会”のHPにアップしました。そこでの反響が非常に大きかったので、5月1日正式に発足しました。
福島原子力発電所の今の状態を少し教えて下さい。
政府や東電が発表している今現在での情報では、Step 1冷却、Step 2出来るだけ放射能の放出を抑えるのうち1はほぼ完了とのことです。でも、中にも入れないので本当のところは誰にも分からないはず。出されている情報も不十分で、皆非常に困惑しています。今でも時々蒸気が上がっているのも非常に気になりますし。4号機も傾いたままだし、余震も心配だから、収束までにはまだまだ時間がかかるはずなのでは。
今までの政府の避難手順に関して、どう思われますか?
事故が起きて、はじめの数日間、20km圏内の人たちを避難させたことは、いろいろ問題はあるだろうが、ああするしかなかったのだと思います。問題はその後、放射性物質が大量に放出がされたのに、それに対する予測や発表がなかったことでした。以前SPEEDIという高価な機械を導入したにもかかわらず、それが生かされませんでした。3月13日、浪江町津島というとことでは333μSV/hという値が原子力研究所のモニタリングでは出ていたのです。測定時、住民は傍らにいたのに、避難の注意も何もありませんでした。次の日には文科省のHPに掲載されていましたが、彼らの神経は一体どうなっているのかと思います。しかもその間、例の山下氏は福島で安全キャンペーンをはじめました。その後1ヶ月たってからやっと、計画的避難区域ということになり、避難が始まりました。また3月半ばには、海沿いではなく、中通りと呼ばれる内陸部に、雪や雨によって深刻な汚染がもたらされました。しかし基準値を20倍も上げて、何もしていないのです。このままではますます被害が広がると不安です。細野豪志原発担当大臣は、20-30km圏内の屋内待機の人たちを、彼らの帰りたい、という声のためにそれを解除しようとしています。それは危険です。悲しいけれど本当のことを言ってあげないといけないのです。もう二度と住めないと。でないとそれは、まるで戦争に行った大切な人の死を知らないで居るのと同じことなのです。
政府はそのほかに、どんな対策を示しましたか?(住人のための弁護士、土地の除染、例えば長袖を着ること、子供外で遊ばせない、等)
20km圏内に関しては、子供が外で遊ばないように、長袖を着るよう等の指示はありましたし、また福島県全域にあまり外に出ないようにとの指示はありました。
政府はどんな理由で、避難対策をやめさせようとしていますか?
原発震災を小さく見せかけて、まだ推進していきたい。補償金をなるべく少なくして、パニックをさけたい。(しかに逆に彼らこそが、エリートパニック、だったのではないでしょうか?)
原発事故の後、政府は放射能基準値を引き上げました。今はどれくらい浴びていいことになっているのか。またどうして政府は基準値を上げたのでしょうか?
年間被爆限度量20mSV (ICRPによる)平常値は1mSV、他にも食品等の基準値も上げています。理由は同上および、除染等の作業を増やさないため。
福島の人たちはこの対策にどう反応されていますか?
最初は訳の分からない恐怖感の中にいました。もともと1年に一度避難訓練がされていましたが、それは10キロ圏内の話でした。ですからもっと遠くの私たちは、なんとなく人ごとだと思っていました。
実際には自分たちにも降りかかって来て、具体的な恐怖が襲ってきました。政府の大丈夫、を信じたかったのです。一部の知識のある人たちはすぐ遠くに避難しましたが、最初はまわりの人に全く理解されませんでした。福島の人たちは、もともとお人好しですが、今回は怒っています。怒るべきだと思っています。自分たちが変わらなければと。
組織に属していない人たちが、お母さん達を中心に自然とこの危機に気づいたことは特徴的でした。
あなたは山下俊一氏の解任要求のため、署名運動をされています。それはなぜですか?
そもそもただの1アドバイザーに過ぎない山下氏ではあったが、実際には知事以上の権限を持っていました。多くの人に安全デマを流し、被爆させた罪は重い。現在は福島県立医科大学副学長に就任しており、多くの医師が自由に発言できない状況になっています。実際、誰が彼を起用したのかどうかも不明なのです。表向きは佐藤雄平知事、ということになってはいるが、とてもそうは思えません。彼にそこまでの力はないでしょう。
県民署名は4000-5000、全国は数万人集まっています。
山下氏は、多くの人の非難を浴び、福島に来て1ヶ月半後には、もう一般の講演は出来なくなりました。
東電と政府の情報政策に関して、どう判断されますか?
被害を小さく見せようとすることについては、見事なほど情報統制をしたと思います。実際に記者にも聞いたことだが、どれだけ記事を書いても、不安をあおる内容だとなると、一切掲載されなかったそうです。また意図的に原発関連のニュース、東電の記者会見を夜中に流していたことも特徴的です。
ただ、インターネットの普及により、全てはコントロール出来なかったと言えるのではないでしょうか。また一部の勇気ある芸能人(有名人)も、大きな役割を果たしてくれたと思っています。
今までに政府や東電から補償金の支払いはありましたか?
人に対する避難区域(20kmおよび特別避難区域)への、仮払いは始まりました。 もので言うと基準値越えの食品など、営業できなくなった企業などに対しても。しかしそれにまつわるいろいろないやな話も聞いています。
あなたの運動に関して、国内・外からの支援はありましたか?またどんなことでしょうか?
国内:市民団体からのたくさんの支援がありました。主に寄付、受け入れ、避難先の企画等。これがなければ、5万人の自主避難は実現できなかったと思っています。海外:寄付、日本の政府に抗議してくれていることはとてもうれしく思っています。個人的に、特にうれしかったのは、ドイツの市民デモが実に早く行われ、規模が非常に大きかったことです。
今回ばかりはおとなしい福島県民も怒っています。でもそれが暴動のような、自暴自棄なことにならなかったのは、国内外からの支援があったから。東電や政府を見ると、見捨てられたような気分になりますが。
ドイツは、あなたの運動に関して具体的にどんなことが出来るでしょうか?
寄付を含め、引き続きお願いできることは非常にうれしい。なぜならまだまだ長くかかるからです。また今回こちらに来ても強く思いましたが、ドイツ人がどうやって脱原発に進んでいけたのか、それを示して欲しい。そのプロセスを学びたい。日本人は自己決定をしていかないといけない。そのためにも日本に来てもらって、日本人が必要なことを教えて欲しいと思います。日本の原発は今多くが定期検査で止まっています。このまま行けば2012年には全てが実質的に止まることになります。しかし多くの政治家達は、再び動かそうとしているのです。
政府や東電にどうして欲しいですか?
まずは事故を収束させて欲しい。ただし労働者を守ること。政府には、(菅さんへの望みをのぞいては)期待していない。まっとうな国にするために、国民が一から建て直させなければいけない。本当の意味での民主主義を実現させる。ドイツが緑の党を作ったように、自分たちももっと自主的に動かないといけない。
菅さんはいろいろ言われているが、浜岡を停めたし、脱原発を表明しました。あとはどうか子供達を助けて欲しい。
東電についてとにかく大事なことは、一度破綻させること。法律で守らせず、全ての資産を出させ、支払わせること。そもそも自分たちの過失なのに、どうして国が、国民が払わなければいけないのか大いに疑問。
プランや最終的な目標について教えて下さい。
福島だから、傷害があるからと言うことで差別を受けてもそこから逃げず、立ち向かえるような人間を作っていきたいです。これをきっかけに、もっといい方向にいくために、教育を含め一人一人が変わっていかなければいけないと強く思っています。
ドイツ語記事 http://www.heise.de/tp/artikel/35/35398/1.html