「これで全てが変わる。この俺の運命、カカロットの運命……そして!」
「…………」
「貴様の運命も!!」
今、一つの星の存亡を賭けてたった一人の男が強大にして絶大な力を持つ存在に最後の戦いを挑んでいた。
右手にありったけの力を集め、男は目の前の敵を睨み付ける。
対するその敵は指先に小さな光を宿すだけ。
椅子に座り、その堂々たる態度は玉座に佇む王そのもの。
宇宙の帝王、それが彼の者のもう一つの名である。
「これで、最後だぁぁぁぁぁっ!!」
男はありったけの力を集めた……渾身の、魂を込めた一撃を放った。
男の放った光は一筋の矢となって宇宙の帝王を討たんと突き進む。
しかし。
「はぁぁぁぁっ!」
王は愉快に叫ぶと指先の光を巨大化させ、男の放った光を呑み込んでしまう。
「な、何っ!?」
渾身の、文字通り全ての力を出し切っての一撃が全く通用していない事実に男が目を見開くと。
王は巨大化させた光の玉を手を前に倒す事でそれを操り。
「っ!!」
王の放った光の玉は周囲の部下諸とも捲き込み、男を包み込んでいく。
そして、極限にまで膨れ上がった玉は、そのまま星へとぶつかる。
呑み込まれ、星と共に消え行く男。
だが、その顔は絶望に染まってはいなかった。
何故なら、男の目には既に別の光景が映っていたからだ。
そう遠くない未来、自分の血を引いた者が全てを背負い、あの怪物――フリーザに挑む光景が。
「カカロットよぉぉぉっ!!」
光に呑み込まれながら、男は自分の息子の名を叫ぶのを最期に、故郷の星と共に宇宙の塵となった。
――EG737年。
この日を境に、全てが始まるのだった。
――白い。
上も下も、右も左も、全てが白に統一された場所。
否、それは何もない空間。
世界という概念、生命という息吹き、死という孤独、その全てが存在しない。
白という闇、ただそれだけが支配する空間。
しかし。
「漸く始まったか」
真っ白に染まった世界に一つの異物が何の前触れもなく現れた。
「また……始まる。破壊という輪廻が、創造という因果が――」
それは人なのか、それとも幻なのか、何もない世界にある筈のない“ソレ”は呟きと共に上を見上げる。
「一体幾度繰り返せば、この悲劇の螺旋から抜け出せるのだろうか……」
悲しげに、儚げに、ソレは嘆きの言葉を漏らす。
「さぁ、続きを始めよう」
高らかに、ソレは宣言する。
大きく両手を広げるソレは、まるでオーケストラの指揮者の如く大らかに。
そして、その動作と共にソレの背後に一枚の巨大な扉が現れる。
そして二枚、三枚と数を増やし、扉はいつしかソレを囲み無数となり、白の空間を埋め尽くした。
「あり得る筈のない、交わる事のなかった物語を……それこそが」
―我ら“カノム”の―
“悲願”なのだから
「はぁ、明日が憂鬱だなぁ〜」
「何やネギ、お前明日の本選楽しみやないんかい?」
「そりゃそうだよ、明日は下手したら自分の生徒と戦わなくちゃならなくなるんだよ?」
大会の予選も終わり、トーナメント表を確認したネギ達は明日の本選に備えてエヴァンジェリンの別荘で修行しようと、未だに祭りで騒ぎ続けている学園を背後に師匠の自宅へ歩いていた。
小太郎や古菲、楓に高音も同様に修行するつもりなのか、ネギの隣で肩を並べて歩いている。
「まぁ、そう落ち込むなネギ坊主」
「そうアルヨ、幸いあのアーニャというネギ坊主の幼なじみはトーナメントの反対側だから、ネギ坊主と戦うには決勝という事に……」
「ちょ、古菲さん!」
そこまで言い掛けて、古菲はハッとなり口を閉ざすが。
「アーニャ……」
今まで忘れていたものが呼び覚まされ、酷く落ち込むネギ。
地面で項垂れるネギにどうすればいいか分からず、古菲は残りの三人に助けを求めるが。
こういう場合、どうすればいいか分からない二人は面倒事から回避しようと見て見ぬフリで誤魔化そうとしていた。
結局、あの後ネギとアーニャはマトモに会話する事など出来ず。
『良いわねネギ、決勝で必ずアンタをボコボコにしてやるんだから!』
とだけ告げ、さっさと予約していたホテルへ帰っていったのだ。
誤解したままの状態にネギはどうすればいいか分からず、ズルズルと現在まで至る。
「まぁ気にする事はないでござるよネギ坊主。アーニャ殿と和解するには大会で決勝に行けばいいだけでござるよ」
「それが出来れば苦労しませんよ〜」
見兼ねた楓がフォローするも、涙声混じりのネギの返し言葉に言い返せなくなる。
ネギ側の出場選手は高音、楓、更には真名と言った強者達の勢揃い。
しかもその内の殆どがネギの生徒であるため、ネギにとってはやりにくい事この上なかった。
しかも、アーニャ側の選手達も小太郎といった実力者もいる。
そう簡単には……。
「あ……」
そこまで思い出すと、ネギは小太郎の方へ向き直る。
小太郎の対戦相手、それはクウネル=サンダースと名乗る人物。
あの麻帆良超決戦の際には師匠であるエヴァンジェリンと肩を並べられる実力を有する謎の多い男。
最初からいきなり強敵と戦う事となった小太郎にネギは戸惑っていると。
「何やネギ、もしかして俺が負けると思ってるんか?」
「!」
いきなり図星を言われ、激しく動揺するネギ。
そんな彼に小太郎はやれやれと肩を竦める。
「……まぁ、お前が思ってる通り。運悪くかなりの強敵と初っぱなから当たるハメになったのは認める。せやけどな」
「?」
「俺は知っている。奴よりも遥かに強い化け物を」
「っ!!」
小太郎のその一言にネギ達の頭に一人の少年の姿を思い出す。
「俺が望む強さはまだまだ遥か彼方や、この程度で躓く訳にはいかん。絶対明日はアイツに勝って……ネギ!」
「っ!!」
「お前と決勝で戦う」
拳を突き出され、不敵に笑みを浮かべる小太郎にネギもこれまで悩んでいたものが吹き飛び、自然と笑える様になっていた。
「ようし! そうと決まれば早く戻って修行アル!」
「その時は拙者も真剣に当たらせて貰うでござるよ。手を抜いてしまっては失礼でござるからな」
「は、はい! 宜しくお願いします!!」
気合いも入り、意気込みも充分となったネギに一先ず安堵する一同。
ヤル気を取り戻したネギに高音がヤレヤレと軽く溜め息を漏らすと。
(そう言えば、何も決勝に限らず控え室とかで事情を説明すれば……)
そんな事が頭に浮かび、ネギに伝えるかどうか僅かに悩むが。
この空気を壊すかもしれないと、ネギは思い浮かんだ提案をそっと胸の奥へしまいこんだ。
そして、一向はそのままエヴァンジェリンの別荘へ足を踏み入れるが。
「明日菜! しっかりして!」
「明日菜さん!」
「……え?」
ボロ雑巾となって横たわる明日菜に必死に治癒魔法を施す木乃香と、止血剤やら包帯等を別荘の城から持ち出してくるシルヴィや刹那の光景にネギ達は言葉を失った。
「やっぱりダメ! 内臓や内側のダメージを軽減させるのが精一杯や! もっと止血剤と綺麗な包帯と暖かいお湯を!」
「はい!」
血だらけとなり、身動き出来ないでいる明日菜。
全身から流れる血を止めようにも外傷だけではなく、内側の内臓に蓄積されたダメージも無視できない。
しかも、何故か魔法の効果が得られにくい事が木乃香達の焦りを一層加速させる。
しかし、数ヶ月に渡り別荘で医学の勉強をしてきた木乃香は外傷の対応をほぼ完璧にこなし、一番酷いとされる内臓の治癒へ専念する事にし、どうにか危機的状況を打破する事ができた。
やがて全ての治療を済ませた木乃香が、ネギ達が見ている事に気付かず数十分、額から流れる大粒の汗を拭い。
「これで、何とかなった筈や」
「お疲れ様です。お嬢様」
「せっちゃんもシルヴィさんも、本当にありがとうな」
「いえ、私は別に」
さっきまでとは違い、血の通った顔色の良い明日菜が寝息を立てているのを見て、漸くネギ達は我に返った。
「ちょ、ちょちょちょっ!!」
「な、何があったんですか木乃香さん!!」
「あ、ネギ君に皆、来てたんか」
酷く混乱して駆け寄ってくるネギ達に対し、重傷だった明日菜を助けられた事で落ち着きを取り戻した木乃香が笑顔で招き入れた。
「どうして明日菜がこんなにボロボロアルか!?」
「それは……」
「ソイツハオ前達ガ外ニイル間、ズットバージルト修行シテイタンダヨ」
「っ!?」
突然聞こえてきた第三者の声、ネギ達がその声の主の方へ振り返ると。
「感謝シロヨ、死ニカケダッタソイツを此処二連レテ来タノハ俺ナンダカラヨ」
「チャチャゼロさん!?」
手を頭の後ろで組んで、ヘラヘラと笑みを浮かべているチャチャゼロが佇んでいた。
「明日菜さんがバージルさんと修行って……一体どういう」
「ドウモコウモ、ソイツガ自分デ望ンダ事ダ。尤モ、半分強制ダガナ」
ネギの質問にケタケタと笑いながら答えるチャチャゼロ。
「よし、取り敢えずウチが出来る事は全部やった。暫く様子を見るからベッドのある部屋で休ませてやらんとな。せっちゃん、楓、手ぇ貸して」
「御意」
「し、承知した」
「わ、私も何か手伝うアルヨ!」
「それじゃ、く〜ふぇは飲み水と綺麗なタオル持ってきて、明日菜の看病に使いたいから」
「分かったアル!」
止血や応急措置の類いも終わり、一先ず一命を取り止めた明日菜を安静させる為、木乃香は刹那と楓に部屋へ移動する為の人手を借り、城の中へと戻っていく。
城の中へ消えていく木乃香達を後を置い、ネギは様々な疑問にチャチャゼロを問い詰めたくなるが、一先ず呑み込み木乃香達が向かった部屋へと足を進めた。
そして、その場に残されたのは小太郎と高音、チャチャゼロ……。
「そんで、アイツは今何しとるんや?」
「ア?」
「バージルや。何や姿が見えへんけど、まだ修行しとるんか?」
小太郎は辺りを見渡すが、バージルらしき人物の気配は感じられない。
小太郎の何となく発した質問に対し、チャチャゼロはどこか苦笑いに似た表現を浮かべ。
「アァ、アイツナラ……多分」
雪山地帯。
エヴァンジェリンの別荘にて存在する修行場所の一つ。
ヒマラヤを模した高山で時には吹雪が猛威を奮う地帯だが。
「どうした? もう終わりか?」
「……ふ、相変わらずの化け物め」
無数の山々がたった二人の戦闘によって、全て破壊されていた。
辺りにあるのは山だったものの残骸。
幾つもある巨大な岩石の一つに、かの悪の大魔法使い、エヴァンジェリンは磔にされていた。
その体には幾つもの傷痕が刻まれ、その表情には疲労が色濃く表している。
だが、その目は不敵に笑い、自分をここまで追い詰めた張本人を射抜く。
彼女の視線の先には服だけが破けた少年が一人。
「こんなものか? 闇の福音」
その手に集めた光を、身動きの取れないエヴァンジェリンに向かって射ち放った。
〜あとがき〜
今回は漸く物語の中枢に触れるような描写を入れてみました!
……在り来たりな展開ですみません。
駄作者である自分にはこれくらいしか浮かばんのです……。
それはさておき、今年4月に第二次スパロボZが発売されますね!
これは私の妄想ですが、実はリアル系男を主人公に選べばロスカラのライとなるのでは!? と、思っています。
選択肢次第で騎士団入りか軍入りか。
wktkが止まらん!