2011年4月10日(日)「しんぶん赤旗」

出荷できない 補償は…

茨城・笠間の農家窮状


 東日本大震災で、死者22人、家屋の全・半壊や床上浸水、鉄道不通などの被害を受けた茨城県。加えて、収束の見通しがたたない福島原発事故によって、農家の被害が広がっています。県下最強の震度6強を記録した地域の一つ、笠間市を訪ねました。


見通しなし

 「いつ出荷を再開できるのか、補償がどうなるのか、見通しがたたないのがつらい。牛の世話を続けるしかない」―市内に41戸ある酪農家の一人(男性=47)は、ため息をつきます。

 成牛40頭の搾乳は朝7時と午後5時半の2回。3月11日の大震災直後、市内全域が停電、断水しました。

 「乳が張って牛が鳴くけど、搾乳機が使えない。翌日、車のエンジンを利用した簡易真空ポンプで、なんとか乳を搾った」

 電気と水道は3日後に復旧したものの、輸送停滞や紙パック不足で乳業工場が稼働できず、しばらく生乳を出荷できませんでした。

 「22日に久しぶりに出荷でき、ほっとしたら、翌日に出荷停止命令。毎日、800キロ余りの乳を畑に捨てることに、もう何も感じなくなってしまった」

 乳価は1キロ90円、正常に出荷しても、売り上げの6割が餌代や水光熱費、さまざまなローンに消えます。

 家族経営で成牛44頭を飼う女性(51)も、「東海村の臨界事故(1999年)の風評被害を乗り越えたら、また今回の事故。牛を病気にさせないよう管理することで精いっぱいです」と話します。

 県内の酪農家は477戸、生乳の年間生産量は16万6000トン、年間売り上げは170億円。現在、1日約4645万円分の生乳が捨てられている試算になります。茨城県酪農業協同組合連合会の市村章常務理事は、「酪農家は涙を流す思いで、廃棄を続けている。出荷停止の早期解除を願っている」とのべます。

農漁民が被害者

 息子とハウストマトの養液栽培を営む男性(61)。

 停電でハウスの温度調節、窓の開閉機能が停止。発電機も壊れ、家族総出で火鉢やファンヒーターをハウス内に運び込み、暖めました。「停電の間、昼は人力で窓を開け閉めし、夜は火の番。2晩徹夜して、大きいハウスの苗・6000本は守れた。でも、手が回らなかった小さいハウスのミニトマトは、半分の1000本が枯れた」

 男性は、4月下旬〜6月のトマトの出荷の最盛期を前に、「5月には原発のある北東から、冷たい『やませ』が吹く。敬遠され、値がつかない茨城産が、ますます売れなくなる」と心配します。

 ハウスでカボチャを栽培する男性(63)は花つけを控え、「農作業には適期がある。後からの作業はできない。原発の一番の被害者は、農民、漁民だ」と話します。

 出荷停止や風評被害で多数の農家に被害が出ている問題で、JAグループは損害賠償請求のとりまとめ作業をすすめ、無利子融資等による資金提供や購買品の支払期限の延長を決定。茨城県もJAとつなぎ資金を設け、その利子の一部を助成します。

 農民運動茨城県連合会は5日、東京電力茨城支店へ被害農家への損害賠償を要請しました。同連合会の村田深書記長は、「農家は一刻も早い補償を求めている。政府は早期に損害賠償請求等についての連絡会議を設置し、支援を始めるべきだ」と話します。 (川田博子)





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