講談社BOOK倶楽部
講談社創業100周年記念出版「書き下ろし100冊」

  

●最終選考分の作品の講評

「砂の大陸」一田 和樹
  • 展開も小道具もおもしろく、また神と人間の問題をわかりやすく物語で表現できる力は、超一級と言えよう。ただ、枚数制限を考えれば、登場人物を出し過ぎというか、全て書こうとしないでメリハリをつけた方が良かったのではないだろうか。が、そこは修正できるので、一番の問題は、女性読者に向けて書かれていないのではないか、ということ。この小説をその方向に書き直すのか、別作品を書いてもらうのがいいのか、いずれにしても力は一番あると思った期待の人である。(Y)
  • 世界観が分かりずらい。序章のエピソードで中盤も引っ張っていってほしかった。(W)
  • 「ファンタジー」というより「合戦もの」として読んだ。それくらい、臨場感に溢れ、描写がしっかりしている。しかし、その割には、策略や駆け引き、陰謀といった「合戦ものの醍醐味」がまったく描けておらず、平坦なストーリーという印象。そもそも「戦いを起こす背景」も取ってつけたようで説得力が無く、ストーリーに入り込めない。全体を通して構成を見直すことで、ストーリーに山場やどんでん返しを作ることを意識して欲しい。(N)
  • 作者の発想の豊かさを感じた。異民族の能力や特性などの描写から、翻訳SFを読んでいるような気持ちになる。それだけに、作者の視点が、登場人物たちから遠くて高いところにあるような印象で、読者が感情移入して応援したくなる人物や、憧れてしまうヒーローを作らないといけないのでは?(O)
  • すでに自身で構築した世界観があるようで、そこにブレが少ない印象。それとは逆に物語のメインテーマが見えてこなかった。人物の交流が主体、あるいは国取り合戦主体、どちらにしても山場は必要。人物の感情を動かすためのエピソ―ドも随所に欲しい。文章にくせがなく好感が持てる。本当に書きたいものが他にもあれば次作で挑戦してきてほしい。(S)
  • 文章が端正で、世界観も魅力的。古典的なSF作品を読んでいるような印象があった。ただ、ストーリー全体の展開が見えにくく、それぞれのエピソードの伏線がうまく生かしきれていないせいか、なかなか物語世界に引きこまれず…個々の章がおもしろいだけに残念。もうすこしキャラクターが前面に出ると、より読み手の共感も得られるのでは。次作に期待です。(K)
「アイビシーズの紋様」作実
  • 話が進んでいくだけで、展開の妙がない小説。前半の設定説明部分が長く、解決編があっという間に終わってしまうバランスの悪さは致命的だ。たとえばTVドラマなら、15分ごとCM前に視聴者を惹きつける場面を入れて構成するだろう。「起承転結」で15分×4章なら、「起」だけで30分はないだろうとすぐわかるはず。書き上がった小説を冷静に読み、分割し、再構成のコンテを考え、1章ごとの分量を決め、書き直していけば、こうなるわけはない。提出前に必要不可欠な作業である。(Y)
  • 何を中心に話が展開するのかを今一度考えてほしい。起承転結を考えプロットを作ることをおすすめします。(W)
  • すらすらと読み進められる作品だが、ファンタジーとして、ミステリーとして、BLとして、いずれも中途半端なので最終的に印象に残りにくい。作品の方向性、読者層を意識することで、ひとつでも“その色”を強める必要があるのではないか。加えて、登場キャラが多く、混乱した。それぞれの個性をより強く、違いを明確に描くことを意識して欲しい。(N)
  • 青春小説的な部分があって、さわやかな印象。寄宿舎モノ?にありがちかもしれないが、BL的な匂いがするのもいいと思う。過去の話と現在がうまくつながっていなくて、ストーリーが分かりづらいし、設定に無理があるので、もう少し物語を整理してほしい。(O)
  • キャラクターにホワイトハートらしい魅力がある。しかし、それを補う描写が少ない。物語が単調に動いている中盤と最後に一気に展開する点が、今回の作品群に見られる共通したところ。書く前にプロットを作り、どう書くかよりも、始めから最後まで読んで楽しい流れかどうかを客観的に確認しよう。次の作品も期待しています。(S)
  • 思いつきのまま筆を進めてしまったという印象がある作品。何を軸に書いていくかを明確にして、小説全体の構成(章立て)やページ配分を練った上で書きはじめる必要があると思う。ただ、物語の世界観や登場人物たちの関係性などの描写はとても魅力的で深みがあり、思いのほか読後感はよかった。磨きをかけて、次作に臨んでほしいと思います。(K)
「彩逢使〜想い伝えし者〜」矢凪 みあ
  • 最後にセオが捕まるあたりから、ちょっとバタバタした印象を与えるが、展開のうまさもあるし、こまかな表現に光るものもあった。単純に読みやすくおもしろかったわけだが、設定にこだわりすぎという気もした。たとえば「獣人」である必要はあるのだろうか?アニメにでもなったときに猫耳や尻尾のある主人公の方がおもしろくなると考えたのだろうか。もちろん、そういう小説もあるだろう。ただ、この話だと、複雑にするだけで、読者をがっかりさせるだけではないだろうか?(Y)
  • キャラの設定、序盤で読者に理解できるような進め方を考えてほしい(W)
  • この小説の軸ともいえる「サミルとセオの関係」の描写が、まるで足りない。ここをしっかりと描き、二人の関係性に“ハマれない”と読者としてはまったくドキドキもワクワクもせず、ただストーリーがだらだらと進んでいくばかりだ。(N)
  • 文章も滑らかだし、読者へのサービスに溢れた、いい物語だったと思う。コメディっぽい、軽いテイストで読みやすかった。ただ、少し詰め込みすぎの印象で、本来のテーマの方が、とってつけたような印象になってしまった。(O)
  • 描きたいものがある、という意思は感じられる。しかし設定がやや立て込みすぎる。主人公が特殊であれば、狙われる緊張感や、父への想いの強さなど設定を生かす説得力がより必要。ただ一番気になるのはメインテーマの仕事が既存作品を彷彿させてしまうところ。同じようなモチーフの作品が存在することを理解し、違いを見せつける意気込みがあるかどうか。(S)
  • 前半、冗長な印象があるものの、登場人物にも躍動感があり、テンポよく読み進められた作品。ただ、じゃっかん既読感があり、設定や展開のオリジナリティにやや欠けた印象。獣人の設定もキャラを意識してのことかもしれないが、あまり効果的ではなかったかも。とはいえ、場面描写などには想像をかき立てるような美しい表現もあり、筆力を感じた。次回に期待します。(K)