東京大学における研究紹介 CEE季刊誌 Newsletter 掲載内容より
石原研究室
石原孟教授、山口敦特任助教
工学系研究科 社会基盤学専攻

建築・土木とエネルギー・環境に関する研究

当研究室は自然エネルギーの高度利用を通じて、地球温暖化 問題の解決と持続可能な社会の実現を目指している。そのために、 発電時に温室ガスを一切排出しない風力発電の技術開発および 導入促進を行っている。具体的には「マルチスケール風況予測」や 「気象予測に基づく風力発電出力の数値予報」などの研究を推進 するとともに、「風力発電設備支持物の構造設計」や「浮体式洋上 風力発電システムの開発」などの研究を行っている。

研究テーマ:マルチスケール風況予測と風力発電出力の数値予報

この研究では、日本のあらゆる地点での風速・風向を高精度に 予測できる3次元風況予測モデルの開発を行っている(図1)。天 気予報技術と局所風況予測技術を融合した新しい予測手法およ び一般化キャノピーモデルを開発することにより、山岳地帯から都 市域までの局所風況を任意解像能で予測し、従来手法に比べ分 解能は数百分の1、誤差は1 /3以下の高精度な予測を可能にし た。この研究成果は東京大学TLOを通じて「高度な風況予測モ デルMASCOT」として実用化され、国内外において幅広い分野 で活用されている。また風の変動に起因する風力発電出力の変化 は、風力発電出力のモニタリングと気象庁数値予報を併用すること により風力発電出力を高精度に予測し、風 力発電の導入拡大に貢献する(図2)。図1、2数分先から1日先までのこの研究成果を応用した 「風力発電量予測」はNEDOの委託事業として採択されている。


研究テーマ: 風力発電設備支持物の構造設計と浮体式洋上風力発電システムの開発

この研究では、様々な構造物の空気力と振動特性を高精度で 評価できる手法を開発し、100CPUを越す並列計算機を利用した 大規模数値流体解析や流体と構造物の連成振動の予測を行って いる。この研究成果は風力発電設備倒壊事故の原因究明やわが 国固有の自然環境に適した構造設計手法の開発に利用され、わ が国初の「風力発電設備支持物構造設計指針」の策定に貢献し ている(図3)。最近では浮体式洋上風力発電システムの開発を行 い、風車・浮体・係留から構成される浮体式洋上風力発電システ ムの非線形連成解析のプログラムを開発し、浮体式洋上風力発電 の実現に貢献している(図4)。また気象解析とGISにより関東沿岸 の洋上風力発電賦存量を明らかにすると共に、浮体式洋上発電を利用した場合に関東沿岸の図3、4 洋上風力により作り出す電気は東京 電力の年間電力販売量とほぼ等しいことを明らかにした。これらの 研究成果が評価され、昨年NEDOの「洋上風況観測実証研究」 に採択されている。

CEE Newsletter No.7(2010.4) 掲載内容