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消費税・考:「15%でも財政悪化」…お蔵入りした試算

鳩山由紀夫首相(左)と菅直人副総理兼財務相(肩書はいずれも当時)=首相官邸で2010年5月、藤井太郎撮影
鳩山由紀夫首相(左)と菅直人副総理兼財務相(肩書はいずれも当時)=首相官邸で2010年5月、藤井太郎撮影

 昨年5月上旬。東京都内のホテルの一室で、鳩山由紀夫首相、菅直人副総理兼財務相、平野博文官房長官(いずれも当時)は、配られたグラフを見つめ「うーん」とうめいたまま、言葉を失った。

 消費税を14年から5年間、(1)毎年1%ずつ10%まで引き上げる(2)2%ずつ15%まで引き上げる--の2ケースを想定し、内閣府が作成した「消費税増税シミュレーション」。医療・介護など現行の社会保障制度維持を前提に、国と地方の借金(長期債務)残高が国内総生産(GDP)比でどうなるかを示した折れ線グラフは、15%のケースでも右上がりに反り返り、財政赤字の膨張が止まらないことを示していた。

 ところが、この試算に衝撃を受けたはずの菅氏は首相就任後、「消費税10%」を唱えた。参院選の公約で10%を提案していた自民党に抱きつくため、「全く足りないと分かりながら腰だめの数字を打ち出した」(政府高官)のだ。政府内で「公表すべきだ」との声もあった「増税シミュレーション」は、お蔵入りになった。

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 89年の消費税導入時、日本の借金残高はGDP比で約60%(約250兆円)と英国の43%、フランスの約40%よりやや悪い程度で、税率を5%に上げた97年も96%だった。財政状況は今よりかなり余裕があり、消費税は「所得税など直接税に偏った税制の是正や、景気対策などの所得減税による税収減の穴埋めに使われてきた」(加藤寛・元政府税制調査会会長)。

 しかし、97年の山一証券破綻などの金融危機を転機に状況は一変。長期の景気後退に、自民党政権は大型財政出動と減税を繰り返し、社会保障費増大も重なって財政赤字の拡大は加速した。10年度末の借金残高はGDP比180%超(約870兆円)と財政危機に陥ったギリシャの130%を大きく上回る。消費税は「財政悪化に歯止めをかける最後の手段」になりつつある。

 「日本が危機になっていないのは、銀行が国債を買い続けている結果、国債価格の急落(金利急騰)が避けられているためだ」。大蔵事務次官経験者はこう話す。だが、米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は今年1月、日本国債をダブルAからダブルAマイナスに格下げし、市場の信頼は崩れつつある。ギリシャは財政危機で長期金利が一時、10%近く跳ね上がった。日本で長期金利が2%上がれば、14年度の国債の返済、利払いに充てる費用は、財務省試算の27.1兆円から35.6兆円に跳ね上がる。峰崎直樹・内閣官房参与は「財政改革が遅れれば、日本はデフォルト(債務不履行)に陥る」と断言する。

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 「長期金利が1%上がれば、大手行全体で保有国債に2兆円超の評価損が生じる」。自民党が国債暴落に備えて発足させた「Xデープロジェクト」(座長・林芳正参院議員)の2月16日の会合で、梅森徹・企画局審議役ら日銀幹部は、こう警告を発した。銀行が経営危機を避けようと国債売却に走れば、国債は暴落し財政は一気に破綻する。巨額財政赤字を放置してきた結果、その毒は日本経済の総身に回り、官民もろとも奈落に突き落とされようとしている。

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 民主党政権が進めている「税と社会保障の一体改革」。社会保障の財源を賄い、財政危機に対応した消費税引き上げには、どのような課題があるのか。政治や世論の動き、経済・財政状況などの観点から検証した。 

毎日新聞 2011年2月20日 2時32分(最終更新 2月20日 16時02分)

 

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