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[26163] 【習作】学園黙示録*僕にできること*
Name: センター◆49eeeab1 ID:2665a539
Date: 2011/02/22 18:05
小説家になろう様で書き始めた作品です。

初めて書いたので、拙い文章でしょうがよろしくお願いします。

更新は早いほうではありませんが、コミックに基づいて頑張ろうと思います。




************************

壊れた世界で、僕はどれだけ生きられるのだろうか。



中学生の時に両親を交通事故でなくした僕は、従姉に育てられた。
従姉と言っても、それほど年が離れている訳でもなく、親が死んだ少し前に社会人になった人だ。

…年、離れてるか。

まぁ、それはいいとして、
引き取ってもらって1年ほどたったある夜、
仕事帰りの従姉を迎えに行きがてら、夕飯の買い物をした帰りに
僕と従姉は暴漢に襲われた。

従姉を助けるために暴漢に立ち向かったが、
それまで武術などしたこともない僕は、あっけなく殴り倒された。
従姉が襲われそうになっている時も、僕は動けずにただ叫ぶだけだった。
その時は目撃していた人の通報でしのいだのだが、僕は従姉を守れなかったのが悔しくて仕方がなかった。

その事件の後入学した藤美学園で、僕は剣道部に入った。
もちろん、ただの剣道だ。っていったら、その道の人に失礼だな。
でも人に対して振るう力ではない。
まぁ、初心者丸出しの僕にはそんな力はないんだけど。

剣道部に入ったのはいいものの、さっき言ったとおり、僕は武術なんて経験は全くない。
だから、入部してからずっと、素振りを続けてきた。

でも、僕以外の初心者も1年の秋をこえると、そこそこ成績は出してるんだよな…
僕はどれだけ練習しても全然成績なんて出なかった。

悔しくて部活が終わった後もずっと居残って練習してた。
時々、意味ないんじゃないかって思ってた。
でもそんなときにいつも居残って練習していた先輩がいた。

それが、そのときはまだ主将じゃなかったけど、後の剣道部主将―――毒島冴子先輩。

先輩は強かった。
全国大会で優勝するほどだ、弱いわけがない。

やはり本当に強い人は努力するんだ。
悩んでいた時間が無駄に感じる。

居残って必死に打ち込みを続ける先輩を横目に見つつ、僕は剣道場の裏で素振りを続けた。

弱い男って思われるのは嫌だしね。って今更か。

剣道部一の弱小部員だもんなぁ…


そんな毎日を過ごしていたんだけど、僕にも友達はいたよ?

まぁ、そんなに明るい性格じゃないって自分で分かっていたから、そんなに多くないけどね。

コータは僕の親友って言ってもいいかもしれない。

オタクだって言われて、いじめられていた訳じゃないけど、みんなから白い目で見られていた。
コータは耐えるようにしていたんだと思う。その気持ちが僕には良く分かった。

僕も部活ではみんなの足を引っ張ってたし、直接には言われてないけど陰口は聞こえたからね。


僕とコータは仲がよかった。

銃の事はよく知らなかったし、共通の趣味があったわけでもなかったけど、一緒にいて楽だった。






――――――もう、そんな日常は二度と戻らない。



[26163] 第1話
Name: センター◆49eeeab1 ID:2665a539
Date: 2011/02/22 18:02
その日は澄み渡るような空だった。

文字どおりの快晴。

所々にある綿雲のような雲は、一瞬だけ太陽の仕事を邪魔する……そんな程度。

今日も昨日までと同じように陽が落ち、夜が来て

朝日が昇り明日が始まる。

きっと世界中の誰もがそう思っていただろう。

しかし、その『日常は』たった1日で壊れた。

―――否、壊された。

<奴ら>によって


************************

学園黙示録*僕にできること*

************************

「はい、これで治療はこれで終わり!えぇっと、君の名前は?」

「神谷 優です。そろそろ覚えてくださいよ…」

僕は呆れながら校医の鞠川先生に言った。

その日、僕は体育の授業で怪我をした。

とはいっても、ただ転んですりむいただけなのだが。

自分のドジさに呆れる。子供かよ…

僕は次の授業が始まるまでに、教室に戻ることができなかった。

というより、授業が面倒くさいと思っていたので、むしろ校医の鞠川先生との会話を楽しんでいた。

奥のベッドで他にも男子生徒が数人眠っているようだ。

「ごめんなさいねぇ。人の名前覚えるの苦手で。」

「はぁ。」

悪びれもせずにこにこ笑いながら言う先生に、ため息をつきそうになる。

……いや、出ていたようだ。

「さて、そろそろ教室に戻った方がいいかもね~?」

「う……。ばれてました?」

「だって、治療終わっても動かないし。」

仕方なく立ち上がって保健室から出ようとしたとき、

『全校生徒・職員に連絡します!

全校生徒・職員に連絡します!

現在、校内で暴力事件が発生中です!

生徒は職員の誘導に従って直ちに避難してください!!

繰り返します!現在校内で暴力事件が発生中で―――ブッ―』

「な…なんなんだ!?」

明らかに≪異常≫だった。

『――キィィン――ぎゃああああああああっ!!』

校内放送で突然聞こえてきた悲鳴に、

僕も鞠川先生も呆然と立ち尽くした。

それでも放送は止まらない。

『あっ!助けてくれっ!止めてくれ!ひぃぃぃぃっ!たすけっ!ひいっ!痛い痛い痛い痛い!!助けてっ!死ぬっ!ぐわぁぁぁぁ!!――――』

それきり音は聞こえなくなった。

間違いない、何かが起こった。

おそらく今のは校内全体に流れているだろう。

教室には何十人もの生徒がいる。

今の放送を聞いたら、全員がパニックになるだろう。

群集心理は怖いものだ。恐怖は簡単に伝染する。

こうやって冷静に考えているのは、現実逃避だな。

そんなことを言いながら、僕は思考を切り替えるために頭を振った。

「鞠川先生!どうやら何か起こったようです。リュックか鞄か何かに、薬をつめてもらえますか?」

「な…なにがあったのよぅ…」

「分かりません…しかし、今の放送を聞く限りでは薬が必要になるでしょう。」

「わ…わかったわ!」

先生が鞄を取りに行ってる間に、僕は寝ていた男子生徒を起こしに行った。

――いや、もう起きていた。

あんだけ叫べば自然と目が覚めるか。

「名前はなんていうんだ?」

「僕はA組石井。こっちは奥田だ」

メガネをかけた男子が答える。
もう一人は何がなんだか分からない様子で呆けていた。

「そうか、僕はB組の神谷だ。外がどうなっているかわからない。迂闊に動くより、ここにいよう。」

「ど…どうなってるんだ!?」

奥田が取り乱して叫ぶ。

「分からない」

僕は首を振りつつ言って、ふと窓から廊下を見た。

―――ありえない。

そこでは女生徒が男子生徒の首に噛みついている。

「嘘だろ!?」

奥田の叫び声に反応してか、その女生徒は保健室に入ってきた。

「ひぃっ!」

その女生徒の腹はぽっかりと開き、そこから腸と思わしきものが垂れていた。

僕たちはそれを見て足が凍り付いたように動けなくなった。

「ぎゃあああああああっ!」

その女生徒に噛みつかれた奥田の悲鳴で我に返り、とっさに横にあった丸椅子で女生徒を殴りつける。

「大丈夫かっ!?」

「あがっ……うぅ……」

奥田に走り寄って声をかけるが、痙攣して目の焦点が合わず、遂にはピクリとも動かなくなった。

「う……嘘だろっ!?」

信じられない。噛まれただけで死ぬなんて……

「おい!まだ入ってくるぞ!!」

石井が入口のドアを指して叫んだ!!

―――くそっ!

「鞠川先生、後ろに下がってくださいっ!」

後ろでわたわたしている先生の前に立ち、僕は丸椅子を構えた。

横には真っ青な顔をした石井が点滴台を持っている。

「どれだけもつか分からんが、やれるだけやるしかない。」

石井は、目を見開き頷いた。

パリーンッ

ガラスが割られ、あの女生徒と同じ様子の生徒たちが入ってくる。

歩みは遅い。それが唯一の救いか。

「ん?」

その中に先ほど女生徒に噛まれた男子生徒がいた。

「まさかっ――「ぐあああっ!!」

先ほど噛まれて死んだ奥田が、起き上がって石井に噛みついていた。

「石田君!!」

「くそっ!」

――そういうことかよっ!

鞠川先生の言葉に突っこむ余裕もなく、僕は椅子で奥田の頭をめいいっぱい叩いた。

余りにも力を込めたため、首から変な方向に曲がっている。

「おいっ!!」

「……ぐうっ……」

「くそっ!!」

僕は丸椅子を振り回し、近づいてくる奴を払っていったが、数が多い。

僕たちは次第に壁に追い詰められていった。

「ひっ!いやっ!!」

――ここまでかっ!

そう思った時、僕たちの目の前にいた生徒が殴られたような音を出して倒れた。

「なんだっ!?」

周りにいた奴らが次々と倒れていく。

その向こうから現れたのは、手に持った木刀から血を滴らせた、我らが剣道部主将、毒島先輩だった。





=後書き=

こんなもので、大丈夫なのかな…

どうも作者です。

うまく書けているのかわかりませんが、とりあえず本編入りました。

こつこつと書いていきますので、よろしくお願いします。




[26163] 第2話
Name: センター◆49eeeab1 ID:2665a539
Date: 2011/02/27 20:07

「主将!」

よかった、奴らになってない。まぁ、この人が負けるなんて想像できないけど。

そんな事を思いながら優は冴子に駆け寄った。

優の顔を見て、驚きと安堵の色を顔に浮かべる。

「君は確か二年の…」

「神谷です。ご無事で何より」

「君の方も大事ないようでよかったよ」

そう言って冴子はふんわり微笑む。

この笑顔で大抵のやつは墜ちるんだよな……

そんな優の気持ちを知らず、冴子は石井の側へ寄っていく。

「私は剣道部主将、毒島冴子だ。二年生、君の名前は?」

そういって石井の前にしゃがみこみ肩に手を置く。

「石井…かず……ゴホッ」

「石井君、よく鞠川先生を守った。君の勇気は私が認めてやる…。噛まれた者がどうなるか知っているな?」

どこか切なさを含んだ顔で、冴子は石井に語りかける。

「親や友達にそんな姿を見せたいか?嫌ならば私が――」

「僕がやります。」

「しかし……」

「彼は、僕と一緒に戦ってくれました。最後まで見届けてやりたい」

そう言って冴子に、貸してくださいと手を差し出す。


「そういうなら…」

優は冴子から譲り受けた木刀を振り上げた。

「石井……ありがとう。君のことは忘れない。」
そして、振り下ろす―――その顔にはなんの表情も映っていなかった。









「……大丈夫か?」

そう冴子に声をかけられるまで、優は石井の遺体から目を逸らせなかった。

「えぇ、大丈夫です」

そう言って無理やり笑顔を作る。

そして、石井の遺体を目に焼き付ける。

恐らく、これから先もこういう事はあるだろう。

こんな異常な状態が、この学園だけで済んでいるはずがない。

街はもう、壊れているのだろう。








「鞠川先生、薬の用意をお願いできますか。この先必要になるでしょう」

冴子は、わたわたしていた静香に頼む。

静香は手に持った救急バッグを持ち上げてニッコリする。

「さっき、神谷君に言われて準備できたわ」

「ほぅ」

感心したように頷き、優を見やる。

優は照れたように頬を掻いていた。

冷静な判断はできるようだな。

剣道部一番の弱小部員と聞いていた冴子は、優に対する評価を改める。

「では、とりあえず学校を抜け出すか。ここだと休める場所も確保できない。」

「そうですね、家族の無事が気になります。しかし、徒歩での脱出ですか?」

「はいっ!私車持ってる」

元気よく手を上げる静香を見て、ため息をつきそうになる。

「あ、でも鍵職員室だ…」

途端にしょぼんとなる静香。

本当にこの人は教師なのだろうか。

時々、子どもと大人が逆転しているような気がする。

「ならば、職員室まで行こう。神谷、これを使え。」

そう言って、冴子は腰に差していた予備の木刀を優に差し出した。

「あ…ありがとうございます」

「躊躇うな。命取りになる。例え知り合いが《奴ら》になっていたとしても、命が惜しいのなら躊躇わないことだ」

優はぎゅっと木刀を握る。

決して軽くはない重さが、優に現実感を与えた。

「はい」

冴子を見据えて、しっかりと頷いた。









誰もいなくなった廊下を、職員室を目指して走る。

時々、ふっと現れる《奴ら》を転がしながら。

「完全に潰そうとするな!転がすだけでいい!」

「はい!!」

《奴ら》の胸の辺りを突き、素早く手元に戻す。

「どうしてやっつけないの?毒島さんなら簡単なのに」

静香はそう言いながら付いて来る。

そこに僕は入っていないんですね……

心の中で苦笑する。

「出くわす度に頭を潰していたら、すぐに囲まれる。一匹ずつだと遅いから潰せるが、囲まれると厄介だ」

喋っている間にも、冴子は《奴ら》を突いて倒す。

「それに腕力も信じられないほど強いです。女生徒の《奴ら》でも、奥田は引き剥がせなかった」

《奴ら》となって死んでいった奥田を思い出して、顔が歪む。

「はぁ、すごいのね……ひゃん!」
静香が足をもつれさせて転んだ。

あんな運動には向かないスカートで走るからだよな…

「やん!なんなのよもぅ!」

「走るには向かないファションだからだ」

そういって冴子はスカートの横を破っていく。

「あぁ!これプラダなのに……」

「ブランドと命どっちが大切なんですか…」

呆れながら優は静香に問いかける。

「…両方!」

「はぁ」

なんか、静香先生と行動始めてから老けた気がする……

そんな二人を尻目に周囲を警戒していた冴子は、断続的に響く音を耳にしていた。

「……職員室か?いこう!!」
走り出す冴子に、慌てて付いていく。


と、その時

「きゃあああああ」

廊下を悲鳴が響いた。



[26163] 第3話
Name: センター◆49eeeab1 ID:2665a539
Date: 2011/03/05 21:29
々現れる《奴ら》を転がしながら、三人は悲鳴の聞こえた方へ走る。

職員室の前まで来たときに、沙耶が《奴ら》に襲われそうになっていた。

「っ……!」

沙耶の横にいるコータが銃のようなものを持っているが、弾切れしているのか、慌てて何かを探している。

―――このままじゃ…!

必死に足を動かすが、間に合わない。

優は最悪の事態を予想した。

ギュイイイイン

「こっのぉ!!死ね死ね死ね死ねぇぇ!!」

沙耶は、恐らく無意識だろう。

手元にあったらしいドリルを、近づいていた《奴ら》の頭に突き刺した。

血の臭いが辺りに充満する。

冴子は、優と反対側の廊下から来た小室と宮本に目配せすると、コータ達に向かって駆け出した。

コータ達との間には、まだ数体の《奴ら》がいる。

「私は右の2体を!神谷は真ん中だ!!」

「分かりました!」

「麗!」

「左を押さえるわ!!」

冴子に続いて三人とも駆け出す。

「やぁ!!」

「うらぁぁぁ!!」

「ふっ!!」

麗も孝も冴子も、《奴ら》の頭を叩き行動を停止させる。

「このっ!」

優も木刀で《奴ら》を突き、よろめいたところで頭を叩くつもりだった。

しかし、血で滑ったのか木刀をすぐに引き戻すことができない。

《奴ら》は木刀を掴み、優の上にのしかかってきた。

「くっ…あぁっ……!!」

―――噛まれる!!

痛みを予想して目を瞑るが、痛みの代わりにバキッという音がした。

恐る恐る目を開けると、冴子の顔がある。

「大丈夫か」

そういって差し出された手を握って、優は立ち上がった。

「ありがとうございます」

申し訳なさそうな顔をする優に、冴子はふっと頬を緩めた。

「気にするな」

そう言ってコータ達の方へ歩いていった。

「鞠川校医は知っているな?私は毒島冴子。3年A組だ」

「小室孝、2年B組」

「去年、全国大会で優勝された毒島さんですよね!私、槍術部の宮本麗です」

「あ…えと、B組の平野コータです」

「あれ、僕する必要ある?」

皆が自己紹介をしているが、優は全員と面識がある。

「やっとけば?」

孝に言われて、優は自己紹介を始めた。

「あ、じゃあ。2年B組、神谷優です。一応剣道部です」

「一応って…」

コータに苦笑される。

「よろしく」

そう言って、冴子はにっこり微笑んだ。

「なにさ。みんなデレデレしちゃって…」

放心上体から抜け出したのか、沙耶が俯きながら寄ってくる。

「何言ってんだよ、高城」

孝が宥めようと近寄るが、沙耶はキッと孝を睨んだ。

「バカにしないでよ!あたしは天才なんだから!!その気になったら誰にも負けないのよ!!」

涙を流しながら叫ぶ沙耶の肩に、冴子が手を置いた。

「もういい。充分だ」

「あ…あぁ……こんなに汚しちゃった…ママに言ってクリーニング出さないと……」

混乱しているのか、沙耶は座り込みながら言った。

冴子はそれを抱きしめる。

「う…うぅ……あぁっ…うわぁぁぁん」

泣きだした沙耶を、冴子はそれが収まるまで背中をなでていた。









一行は職員室に入り、バリケードを作って休憩することにした。

「鞠川先生、車のキィは?」

麗から水の入ったペットボトルを受け取りつつ、孝は静香に尋ねた。

「あ、バックの中に…」

言いつつ鞄を漁る静香だが、優の「全員乗せられるんですか?」という言葉に、「うぅ……コペンです……」と沈黙した。

「部活遠征用のマイクロバスはどうだ?カギ掛けにキィはあるが」

冴子の言葉に、窓から駐車場を見たコータが、バスを発見した。

「車はいいけど、どこに行くの?」

静香の疑問に孝が答える。

「家族の無事を確かめます。近い順にみんなの家を回るとかして、必要なら家族も助けて、そのあとは安全面な場所を探して…」

「見つかるはずよ」

いつの間にか、コンタクトから眼鏡に変わっている沙耶が言った。

「警察や自衛隊だって動いてるはずだから地震の時みたいに避難所とかが…」

「そうだったらいいけど、実際はどうだろう。ここから見る限り、街も混乱している。下手をすれば自衛隊でさえも、手に追えない状況に……宮本、どうした?」

自分の考えを言っていた優は、麗の目がテレビに釘付けなのに気づいた。

「なんなのよ…これ……!」

とっさに、冴子がリモコンを操作して音量を上げる。

そこには地獄絵図といっても過言ではない、悲惨な状況が映し出されていた。

『各地で頻発するこの暴動に対し、政府は緊急対策の検討に入りました』

アナウンサーが話す後ろでは遺体と思わしきものが運ばれている。

『すでに被害は一千万人を超えたとの見方もあり…<パンッ>』
画面の向こうで何かが破裂する音がする。

『発砲です!!ついに警察が発砲を開始しました!状況は分かりませんが……きゃあああああ!!』

画面が揺れて、定まらなくなった。

その向こうでは、運ばれていたはずの遺体が包んでいる布ごと、起きあがっている。

『いやっなにっ!うそっ!た…助けっ…うぁっ!ああああっ!!』

アナウンサーを絶叫を最後に、テレビは暗転し『しばらくお待ちください』のテロップの後、スタジオに戻った。

誰も声が出せない。

沈黙を破ったのは、孝だった。

「暴動だと!?どう考えても暴動じゃないだろ!!」

「パニックを恐れているのよ。」

沙耶が眼鏡を持ち上げる。

「いまさら?」

「いまさらだからこそよ。恐怖は混乱を招き、混乱は秩序を崩壊する。秩序が崩壊したら、どうやって動く死体に立ち向かっていけるというの?」

冴子は黙ってテレビのチャンネルを変えた。

優は難しい顔でテレビを見続ける。

静香でさえも、顔が引きつっていた。

『合衆国政府はホワイトハウスを放棄、洋上の空母へ政府機能を移転。なお、現在の時点でモスクワとは通信途絶』

テレビは爆撃で《奴ら》を吹き飛ばす映像を流した。

『北京は全市が炎上、ロンドンは比較的治安が保たれていますが、パリやローマは略奪が横行……』

そこまでで沙耶はテレビを消した。

「朝ネットをのぞいた時はいつもどおりだったのに……」

コータが青い顔をして言う。

「たった数時間で世界中がこんなになるなんて……だ…大丈夫だよね?すぐに元通りに……」
「なるわけないしー」

「そんな言い方することないだろ!」

「パンデミックなのよ?仕方ないじゃない!」

「パンデミック…」

静香が顔を歪めて呟いた。

「感染爆発の事よ!世界中で同じ病気が大流行してるってこと」

沙耶が説明をしだすと、優が顔を曇らせながら言った。

「なぁ、ここって島国だろ?例え、外国で発生したとしてもこんなに短時間で日本に入ってくるかな。朝にはなんのニュースも無かったし、こんなせいぜい5時間6時間で世界中に蔓延するか?」

意外な所からの的確な考えに、みんながびっくりしたように優を見る。

「そうね…確かにそうかもしれない……《奴ら》に噛まれたら長くても数十分後には死んで、《奴ら》なる。そうなれば、日本に入りこむのは…って事は人為的なもの……?」

考え込んだ沙耶を尻目に、孝は言った。

「今の俺たちにその事を確かめる方法はない。とりあえず、学校を脱出しないか?」

その言葉に全員が頷いた。

「家族の無事を確認した後、どこに逃げ込むかが重要だな。ともかく好き勝手に動いていては生き残れない。」

「チームだ。チームを組むのだ。生き残りを拾っていこう。」

優の言葉に冴子は頷いて言った。

「駐車場からは正面玄関からが一番近い。行くぞ!!」

孝の言葉で、一行は正面玄関へと向かう事になる。





[26163] 第4話
Name: センター◆49eeeab1 ID:2665a539
Date: 2011/03/05 21:29
周囲を警戒する。

職員室までにいた≪奴ら≫はどこかに移動したようで廊下に姿はなかった。

しかし、いつどこから飛び出てくるかわからないため、油断はできない。

「確認しておく。無理に戦う必用はない。避けられるときは避けろ!転がすだけでいい。」

「連中は音にだけは敏感よ!普通のドアなら破るぐらいの腕力があるから、掴まれたら喰われるわ!気をつけて!」

詳しいな……おそらく、試したのだろう。

さすがは天才少女。なんて言ったら怒るんだろうな。

なんてことを考えながら、優は出てきた≪奴ら≫の足を木刀で打ち、転がす。

「きゃあああああ!」

全員で頷き合い、悲鳴の聞こえてきた方へ走る。

階段の踊り場で生徒が数人奴らに襲われそうになっていた。

「くそっ……下がってろ!!」

「卓造……」

女子を守るように男子がバットを構えているが、隅の方においやられている。

パスッ

コータの釘打ちの音を合図に、殴りかかる。

幸いにも、噛まれた生徒はおらず、一緒に行動をともにする。

―――まずいな……

だいぶの大所帯になってきた。

行動する人数が多くなると、その分行動するのに時間がかかる。

そして危険に陥る可能性が高くなる。

しかし、助けてしまった以上見捨てることはできなかった。




とりあえず下駄箱までたどり着いたモノの、玄関前には多数の≪奴ら≫がいた。

「やたらといやがる…」

「見えてないから隠れることなんてないのに」

沙耶が孝にそういうが、それは証明されているわけではない。

「たとえ、高城君の説が正しいとしても、この人数では静かに進むことなどできん。誰かが確かめるしかあるまい……」

迷うことはなかった。

「僕が「俺が行くよ」

優の言葉を遮り、孝が言った。

「私が先に出た方がいいな。」

「いや、毒島先輩はいざというときのために控えていてください。神谷も」

そういわれると、これ以上出て行けなかった。

へたれだな、僕は。

こういう時に行動力を示せない自分が悔しかった。

孝は覚悟を決めた顔をして、出て行く。

足音を立てずに落ちている靴をひろうが、≪奴ら≫は反応を示さない。

そのまま靴を思いっきり遠くへなげつけた。

ガシャン

すぐさま音のした方へ向かいだした≪奴ら≫尻目に、玄関扉を開ける。

そして全員で外へと駆けだした。

ガキィィィン

一番最後を走っていた男子が、持っていた刺叉を扉に思いっきりぶつけてしまった。

甲高い音がそこら中に響き渡る。

「走れ!!」

全員でバスに向かっていくが、優は一人だけすぐに動かなかった。

これでは、学園中の≪奴ら≫来て脱出が極めて難しくなる。

優は別の方向に走り、木刀で窓を叩き割っていった。

幸いその廊下には≪奴ら≫いない。

間を縫って走り再び玄関口にもどって、金属部分を木刀で思いっきりたたいた。

再び甲高い音が鳴って一行に向かっていた≪奴ら≫をこちらに注意を向けることができた。

完全に包囲されてしまう前に抜け出そうとするが、すでに包囲は固まりつつあった。

―――ここまでか。しかし、これであいつらは脱出できるだろ。

ただし、最後まで諦めることはしない。

包囲の薄いところに向かって、なるべく音出さずに走り出す。

と、不意に腕を掴まれた。

≪奴ら≫か!と見るとそこにいたのは冴子だった。

「何をやっている!死にたいのか!!」

そういって、優の左腕をつかみ片手で≪奴ら≫を転がしながら包囲から抜け出した。

先の音で、かなりの≪奴ら≫が引き寄せられていたらしく、抜けられたのが奇跡なほど扉に群がっていた。

腕を掴まれたまま、バスに向かって走る。

バスではコータが窓から釘を打ち、孝と例がドアの前で奴らを倒していた。

「乗れ!!」

少し乱暴にバスに放り込まれる。

「小室君!全員乗った!!」

「先輩も乗ってください!!」

奇跡的に、犠牲者はゼロだった。

「君は……命を大切にしろ。」

そういって、冴子は優に拳骨を落とした。

地味に痛い・・・・・・

孝がドアを閉めようとしたとき、声が聞こえた。

「待ってくれぇっ!!」

校舎の方から、教師と数人の生徒が走ってくる。

「担任の紫藤だ」

「紫藤…」

冴子の言葉に麗の顔色が変わった。

「もう出せるわ!」

「もう少し待ってください!!」

「いくら減ったとはいえ、まだ前にいるの!あんまり集まっちゃうと動かせなくなる!!」

優は木刀をつかみ、飛び出そうとしたが冴子に遮られる。

「君はダメだ!」

「なぜですか!!」

「行ってもどうにもならない」

「っ…!」

冴子の歯に衣着せぬ言い方に、唇を噛む。

「囮にならなれます!」

「そんなに死にたいのか!!」

死にたいわけではない。だが、守られているだけの自分が嫌だった。

冴子からの視線をそらすようにして窓の外を見る。

紫藤と生徒が、こちらに向かってきていた。

――と、紫藤の後ろにいた生徒がこけて紫藤に助けを求めている。

次の瞬間、優は信じられないモノを見た。

―――顔を蹴りつけた!?

しかも笑顔で。背筋が寒くなった。

ここまで優たちはお互いを助け合って逃げてきた。

実際何度も優は助けられている。

不吉な予感がしたが、優にはどうすることもできなかった。

紫藤たちが乗り込んですぐ、バスは発進した。


「もう人間じゃない……もう、人間じゃない!!」

祈るように言いながらバスを発進させる静香をみて、優も同じ気持ちだった。

「校門を抜けます!!」

たった数時間で崩壊へと走ったこの世界で、僕は生き抜くことができるのだろうか…

優の心のなかは、その気持ちでいっぱいだった。



[26163] 第5話
Name: センター◆49eeeab1 ID:2665a539
Date: 2011/03/07 10:29
学園を脱出して数分。

「助かりました。リーダーは毒島さんですか?」

「そんな者はいない。逃げるために協力し合っただけだ」

「それがいけませんねぇ……生き残るためにはリーダーが必要です。目的をはっきりさせ秩序を守らせるリーダーが……」

話が読めてきた。

自分がリーダーになろうというのだ、この男は。

優は顔をゆがめる。

さきほどのすがる生徒を笑顔で蹴りつけた光景が、目の前によみがえる。

こいつは危ない。頭のどこかで警鐘が鳴った。







「だからよぉっ!このまま進んだって危険なだけだってば!!」

金髪の不良らしき生徒が立ち上がって叫ぶ。

「だいたいよぉ!何で俺らまで小室たちに付きあわなけりゃいけないんだ?おまえら勝手に街へ戻るって決めただけじゃんか」

優はすぐにも飛び出したい衝動を抑えた。握った手が震える。

「今からだって遅くない!だいたい俺は―――」

「いい加減にしてよ!!こんなんじゃ運転なんかできない!!」

先に静香がしびれを切らした。

バスを止めて、振り向きざまに叫ぶ。

「っ・・・・・・!」

さすがに静香に反抗することはできないのか、黙り込む。

そして矛先を孝にむけた。

「んだよぉ!何見てんだ!やろうってのか!!」

「ならば君はどうしたいのだ?」

「うっ・・・・・気にいらねぇんだよ!!こいつが気にいらねぇんだ!!なんなんだ偉そうにしやがって!!」

「なにがだよ?俺がいつお前に何か言ったよ?」

あまりにも子供の理由。

我慢の限界だった。

助手席の麗が動くよりも早く、優は木刀で不良のみぞおちを突く。

腐っても剣道部。しかもみぞおちは人体の急所の一つのである。

「ぐぅぇ!・・・・・げほ・・・・・あ゛・・・・・」

床にうずくまった不良に、冷たい視線を浴びせる。

「なら、なぜこのバスに乗ってきた?僕らは家族の無事を確かめるためにバスを出した。後から乗ってきたのはお前だ。もし嫌ならば・・・・・降りればいい」

客観的に聞けば、不良に負けず劣らず自分勝手な言い方だろう。

わかっていてもこれ以上我慢がならなかった。

それは孝たちもわかっているのか、口を出さない。

さらに厳しく不良を見据える。

パチッパチッ

今まで言葉を発しなかった紫藤が拍手をしながら近寄ってくる。

あの時の笑顔を顔に貼り付けながら。

優はその視線のまま紫藤を見た。

「すばらしいチームワークですね。小室君、神谷君!」

麗の顔色も変わる。紫藤を殺すような眼光でにらみつけた。

「しかし、こうして争いが起こるのは私の意見の証明にもなります。だから、リーダーが必要ですよ、我々には!!」

「で、候補者は一人きりってワケ?」

「私は教師ですよ、高城さん。そして、皆さんは学生ですそれだけでも資格の有無ははっきりしています。」

紳士を装うように両腕を広げる。

「どうですか、みなさん?私なら問題が起きないように手を打てますよ」

「・・・・・教師と生徒なんか関係ない。」

呟くような声で優は吐き捨てた。

「おや、なんですか?神谷君。なにか意見でも?」

優を笑顔で見据えるが、目は笑っていない。

「このバスに乗ってくるときに、助けを求める生徒の顔面を蹴り飛ばした。そんなやつに命を預ける気にはならないね。僕は降りる!!」

「神谷!?」

「優!!」

冴子とコータが叫ぶが、振り返らない。

昇降口をあけようとしたが、ロックされていて開かない。

舌打ちをし、先ほどまで麗が座っていた助手席のドアから外に飛び出した。

「まてっ!神谷!」

「行動を共にできないようであれば、仕方ありませんね・・・・・」

わざとらしく額に手を当てる紫藤に、冴子は怒りを覚えた。

「貴様・・・・・!!」

そして冴子もドアから飛び出す。

バスに背を向け、歩き出す優の腕をつかんだ。

「落ち着け!一人で行動しても生き残れるとは思えない!!」

「それでもです。あの場所にいれば、安全というわけではありません。あの紫藤がいれば余計に・・・・・」

「しかし・・・・・っ!」

ぷわぁぁぁん!!

大型のバスが猛スピードでこちらに向かって来ていた。

「何やってんだ!ぶつかる―――」

明らかに様子がおかしかった。

近づいてくるバスの中が見えると、そこは地獄絵図だった。

≪奴ら≫でいっぱいになっていた。

近くに止まっていた自動車に乗り上げ横転するが、勢いを殺せずそのままこちらへ滑り込んできていた。

そして、爆発。

とっさに優は、コンクリートの壁に冴子を押しつけ盾になる。

「かはっ・・・・・!」

壁に叩きつけられ、冴子は肺から息を吐き出した。

横転した大型バスは炎に包まれ、バスと優たちを遮断する。

バスからコータが飛び出して、叫ぶ。

「優!先輩!!無事ですか!?」

「げほ!・・・・・無事だ!!」

肉の焼けるにおいと熱気に咳き込みながらも、優は返した。

「優!警察で・・・・・東署で落ち合おう!!」

「・・・・・あぁ!何時だ!」

「午後5時に!今日が無理なら明日の同じ時間だ!!」

「わかった!コータ!死ぬな・・・・・っ!」

「誰に言ってるの?」

炎に阻まれコータの顔は見えないが、ニヤリとでも笑っているのだろう。

優は後ろに振り向き、息を整えている冴子に手を差し出した。

「すみません・・・・・巻き込んでしまって。怪我はありませんか?」

「大丈夫だ。君こそ怪我はないか?」

「はい」

「・・・・後ろっ!!」

冴子の叫びに振り向きざまに、木刀をなぎ払った。

炎包まれたやつらが飛んでいく。

「焼かれても動けるのかよ・・・・」

「いや、そうじゃないみたいだ」

よく見ると、後ろの火だるまになっている≪奴ら≫は倒れた後動かなくなった。

「体が焼ければ死ぬって事か・・・・」

顎に手を当てて呟く優の肩に、冴子は手を置く。

「何にしても、音を立てすぎた。すぐに≪奴ら≫が来る。早くここから離れよう。」

「そうですね」

そして、考えるのをやめ冴子の方に振り向くと、後ろに≪奴ら≫がいた。

「危ない!!」

冴子を押しのけると同時に、≪奴ら≫に服を掴まれた。

そのまま地面に押し倒される。

「がっ!!」

その≪奴ら≫はヘルメットをしていて、噛もうにも邪魔で噛めないようである。

しかし、容赦なく頭突きをしてきた。

「この・・・・やろぉ!!」

押しのけようとするが、人間の腕力ではあり得ない力で押さえつけてくるため、押しのけることができない。

ガツッッ

鈍い音がして、≪奴ら≫が倒れる。

その後ろには、コンクリートブロックを持った冴子がいた。

「今度は逆だな。無事か?」

そういって手を差し出してきた。

暴れる心臓を抑え、冴子の手をとる。

「ありがとうございます」

「よし、行こう」

「待ってください。あいつ、ヘルメットをしてました。もしかしたら―――」

「バイクか!」

「えぇ」

二人で少し戻った所にバイクが倒れていた。

少し点検してエンジンをかける。問題なく起動した。

「免許・・・・もってるのか?」

「今更免許なんていってられないですよ」

苦笑しながら返す。

「そう・・・・だな」

冴子も微笑みながら返した。

「後ろ、乗ってください。あまり、長居したくないので」

「わかった。安全運転で頼むよ」

二人はその場を抜け出し、街へ向かう。

そして、街は学園以上にの地獄と化していた。

この時点でそれを知るものは、いない。



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