[片山善博][北朝鮮]

『週刊文春』2003年5月1日・8日ゴールデンウィーク特大号
ジャーナリスト上杉隆

 主体(チュチェ)思想塔は平壌中心部を流れる大同江の東岸に立っている。高さ百七十メートル、金日成、正日親子を称える目的で建てられたランドマークだ。最上階の展望台まで一気にエレベーターで昇ると眼下には平壌市内が広がる。

 エレベーターを降りると、金日成、正日親子の肖像画が目に入る。正面の暗い廊下を進み、左側の二つめのドアを開けると、そこが貴賓室だ。部屋の壁にはやはり金親子の肖像画がかけられている。その脇に置かれたテレビからは、主体思想のすばらしさを謳うプロパガンダ映像が流されている。

 私の座ったソファーの前に一冊だけ記帳用のノートが置かれていた。説明では、主体思想への共鳴者がサインしていくという。そのサインの中に、ふと日本語が目に入った。〈鳥取県知事 片山善博 2002年7月31日〉

 鳥取県のホームページの「知事日誌」によれば、この訪問は鳥取県と北朝鮮を結ぶ定期航路の就航、さらにそれに伴う海上貿易が目的だ。しかし片山の訪朝後、北朝鮮は拉致を認め、いまも被害者の家族を帰そうともしない。片山が金政権を支える象徴でもある主体思想塔を訪れるだけならまだしも、そこで記帳して主体思想への“支持”を表明する必要があったのか。