HOTD原作第1話、及びHOTD6巻オマケ漫画に出てきた森田&今村を魔改造して本編再構成。2人の口調が本編と違うのは、他の男キャラ達との区別に困ったから。けど性癖はそのまんまだから安心してくれ。あと、ついでに永を生存させる予定。孝は毒島先輩とらぶらぶちゅっちゅしてればいいよ。有瀬智江は俺の嫁。あと皆忘れがちだけど、ヒサシの本名は井豪永(いごう ひさし)な。漫画本編と見比べながら読むと面白いかも。
* *
全てが終わってしまった日の前夜。僕は夜更かしをした――せいで遅刻をした。担任の小言でおはよう気分は台無し。こうなったらもう、サボらざるを得ない。
屋上に行ってみると、そこには、ゾンビ。その顔の皮膚は破け、骨がのぞいていた。流れた血が固まって顔に張り付いていた。開かれた口の中では、歯が今にも取れそうなくらいグラグラしていた。
二匹いた。一匹はギターを背負っていた。もう一匹は、裸だった。いや、ピンクのブラジャーをつけていた。けれど、眼福な光景じゃない。だってブラに包まれていたのは、凛々しい大胸筋。男の胸。
とりあえず僕は鞄の中に隠していたエアガンを容赦なく放った。
「や、やめろタカシ! オレたち仲間だろ!」
ゾンビの一人が叫ぶ。ブラジャーをつけている方。両手で自分の頭を掴む。スポン、という音と共にグロテスクな顔が取れる。それはマスクだったらしい、下から出てきたのは、茶色のロン毛、今村だった。
「これが無かったら死んでいたなあ」
ギターを盾にしていたゾンビもまた、マスクを外す。森田だった。
今村と森田、そして僕の三人は、いわゆるサボり仲間だった。
「いったい何をしてたんだよ」
「昨日さあ、今村の部屋で、XBOX360のFallout3やってたんだよ」
相変わらず森田は洋ゲーが好きなようだった。
「そしたらゾンビマスクってアイテムが出てきてさあ。あんまりにもステキ過ぎるデザインだったから、2人で自作したんだよ。一晩かかったぜえ」
こんなリアルな代物をそんな短時間で作り上げるとか、お前らはその手の専門学校に行った方がよかったんじゃないのか?
「タカシ、専門学校ってヤツをナメてるな」
今村が言う。
「アイツらはエキスパートなんだ。専門学校生と俺達の作業速度を比べたら、ジェバンニと佐藤大輔くらいの差があるぜ」
たしかにHOTD、また休載したけどさ! ジェバンニならきっと最終回までの脚本を一晩でやってくれるだろうけどさ!
「で、折角ゾンビマスク作ったんだから、何かやろうぜ、ってことで、ゾンビVSくさったしたい(スミス)ごっこしてたんだよ」
てことは何だ、森田。この瓜二つな仮面のどっちかがゾンビで、どっちかがくさったしたいなのか。
「くさったしたい、じゃねえよ。くさったしたい(スミス)だ。家にはまだ、くさったしたい(ロバート)と、くさったしたい(かずや)の仮面もあるんだからよお」
そうかくさったしたいの二匹目、三匹目の名前はロバートとかずやだったのか……
で、どっちがくさったしたい(スミス)をやってたんだよ。
「オレだ」
今村が自分の胸をドン、と叩いた。ついつい、不似合いなブラジャーに目が行ってしまう。こいつなんでこんなもの着けてるんだ。
「おいおいタカシ、そんなに見つめるなよって。恥ずかしいだろ」
体をくねらせないでくれ。上着を着るんだ。そもそもどうしてブラジャーなんかつけてるんだしかもピンク色。
「姉ちゃんにくれ、って言ったらくれたんだよ」
なんで貰えちゃうんだよお前の家どうかしてないか。
「せっかくだから着けてきた。ちょっとやさしい気持ちになれるぜ」
「俺もつけてみようかなあ……」
おちつけ森田。お前は騙されてる。洗脳されてる。
「やっぱり男はやさしさだよ」
その優しさはきっと偽物だ!
「オマエら馬鹿なこといってないてオレの話を聞け」
なんかブラつけた今村に言われるとすごい屈辱的だ。
「何を隠そうこのブラはオレのジーサンから伝わる歴史ある逸品なんだぜ」
その割に新しそうなんだけども。
「当然だろ、今朝、ジーサンがとなりの家のベランダから盗んできたヤツなんだから。それを姉ちゃんがつけてて、最終的に俺の胸に収まったんだ」
「ってことは、数時間前そのブラは、お前の姉ちゃんの脱ぎたてだったってことか……」
悔しがる森田。
「安心しろって。そんなにいいもんじゃねえよ。そもそもうちの姉ちゃん、もとはアニキだったんだぜ」
は?
「去年、性転換して帰ってきたんだよ。アレレ、言ってなかったっけ」
初めて聞いた。
「そりゃスマンかった。で、元アニキの姉ちゃん、やったらオレにベタベタしてくるんだよなあ。女になったのがよっぽど嬉しいらしい。けどオレ、若い女には興味がないんだよな。例えば校医の鞠川静香! あのバクレツボディにやわらか笑顔。医学部卒で研修も終わってるんだから、現役で大学に受かってても三十路前後だ! 決して若くない! だがそれがいい! んでもって卓球部顧問の林京子! 完熟ボディから溢れる30代後半独身の欲求不満オーラ! たまらねえぜ!」
なあ、今村。その林先生なんだけどさ。
「どした? もしかしてオマエと付き合ってたりするのか!? 放課後の体育倉庫でラケットを使った特別授業とかしちゃってたりするのか!」
違うよ。林先生なら、今、ここから見える。校庭にいる。
でもって手島先生に噛みつかれてる。
今村のヤツは、弾かれたように走りだした。屋上を出ていく。
「くそっ! 今日は林先生の巨乳気分を理解するためにブラまで着けてきたってのに! オレの努力はいつも報われない! 畜生! オレも混ぜろ! 噛みつき野外プレイ!」
そんな言葉を残して。
「ところで孝ぃ」
森田が、ぽつりと言った。
「おれ、思うんだ。原作未読、アニメの内容も忘れ気味、ニコニコ動画のアカウントを持っていなくて第一話が見れない読者もいるかも、って。説明セリフ吐くのもアレだし、状況説明、頼んじゃっていいか?」
判った。
……事の始まりは、校舎に何度も体当たりを敢行する不審人物だった。それを生活指導の手島が追い払おうとした。そうしたら噛みつかれたんだ。手島は倒れた。
けれどそのとき不思議なことが起こった! 手島が蘇ったんだ!
そして手島は、林先生の喉元に噛みついた……
「で、林なんだけどよお。さっき噛みつかれた時、喉からバーッて血が出てたよなあ」
ああ、たぶん死んでるよな。
「けど動いてるじゃんか、今」
確かに、林先生は手島先生と一緒に、全身から血を噴き出しながら、ふらふらと校舎に向かって歩いている。
「あれって、ゾンビかなあ」
グールかもしれないよな。
「くさったしたいの可能性もあるよな」
なんて呼んだらいいんだろうな。
「マニアに突っ込まれたら嫌だし、新しい呼び名を考えようぜ」
僕もそう思う。
「奴ら、でいいんじゃないか?」
* *
暢気に命名なんかしてる場合じゃない。それに気づいた時、僕は教室に走っていた。幼馴染の麗を連れて逃げようとしていた。
授業中の教室に踏みこんで、麗の腕を掴んでいた。
「孝、麗をどうするつもりだ!」
永のヤツが僕の行く手を遮る。
僕は永にささやく。
「校門でバイオハザードだ。サイレントヒルかもしれない。とにかくヤバい」
「俺はホラーゲームといえばコープスパーティ派なんだけどな」
その時だった。
プォォォォォォ!!!!
サイレンが鳴った。
「まさかSIRENだなんて!」
悔しがる永。
サイレンの後に流れたのは、校内放送。
『現在、校内で暴力事件が発生中です。生徒は職員の誘導にしたがって直ちに――』
けれど放送は最後まで流されない。けれど代わりに、状況を生々しく伝える情報が発信された。
断末魔。
『助けてくれ! やめてくれ! 痛い! 痛い! 痛い! 助けてっ!』
それが、スタートの合図だった。
狂乱が、始まった。
教室から駆けだす生徒達。押し合いへしあい揉み合いながら、我先にと出口を目指す。あれ今ならどさくさにまぎれて胸揉めるんじゃないんだろうか。しまったあっちに行っておけばよかったかな。
「向こうはあの有様だ。脱出できそうにない」
永は窓から、教室棟の方を指さす。
「俺たちは管理棟から逃げる!」
かくして僕たちはガラガラの廊下を走る。階段目指して。そこに現れた人影。現代国語の脇坂だった。肩から血を垂らしていた。それとあと、額が広くなっていた。
永は叫ぶ。
「あいつはヅラなんだ! 屍人になった時に落としたんだ!」
いま凄い勢いで死人を辱めたよこの人! あと屍人じゃなくて奴らだ!
それが原因だったのか、脇坂ゾンビ……じゃなくて奴ら(ただし脇坂1人)は永めがけて飛びかかってきた。
「うぉぉぉぉ!」
けれど永は、持っていた箒を、思い切り脇坂の心臓に突き刺した!
「心臓を刺した筈なのに……!」
脇坂は動いていた。その腕が永を掴んだ。
僕は脇坂をバットで殴りつけた。麗も箒で脇坂を何度も刺した。けれど脇坂は永に顔を近づけていく。
くわ、と口を開いた。
噛みつかれる! そう思った時だった。
「インセプション!」
それを言うならインターセプトじゃないんだろうか。階段を駆け上がってきた今村が、永と脇坂の間に滑り込み、脇坂に体当たりをかましたのだ。もつれ合って倒れる今村と脇坂。
「うわぁぁぁぁ!」
そして脇坂の歯が、今村の胸に突き立っていた。
「孝、やるんだ!」
永の声に突き動かされるように、僕は脇坂の頭にバットを振り下ろした。
――スイカよりは、柔らかかった。
「大丈夫?」
麗が、倒れている今村に駆け寄ろうとする。
「永を助けてくれて、ありがとう」
けれど永のヤツは、それを手で制した。
「近寄らない方がいい。奴らにかまれた人間は、奴らになる。あっちを見るんだ」
永はまたも窓を指差す。永には指差した先で自分の論を裏付けする光景が繰り広げられる特殊能力があるのだろうか。そこは教室棟の廊下、地獄絵図が繰り広げられていた。逃げ惑う生徒。襲い来る奴ら。奴らに殺された生徒は、奴らの一員となって残りの生者を襲う……
「じゃあ、今村くんも……」
麗が息を呑む。
今村が、ゆらりと身を起こした。
そして言った。
「オレなら無事だ」
ちなみに今村のヤツは、いつの間に着たのか学ランを羽織っていた。決して屋上で見た、ゾンビマスクにブラジャーというトンデモスタイルなんかじゃない。
学ランを脱いだ。
その下には不良の証明赤いTシャツ(略称アカティー)。左胸のところには穴があいていた。ゾンビの歯型だ。
さらにその下には、中2病御用達アイテム、鎖かたびら。やっぱり左胸のあたりは抉れていた。いつのまにこんなもの着こんだんだお前は。
そしてそれを脱いで露わになったのは。
ピンクのブラジャー。今村、まだ外してなかったのか……
「このブラがなかったら、オレも奴らの仲間入りしているところだったぜ」
今村の言うとおりだった。ブラジャーには穴が開いていなかった。表面が少し、破れているだけだった。
「変態……」
さっきまでの態度とは一変、麗はゴミムシでも見るかのような視線を向けていた。永もだ。いや違う。なんかおかしいぞ。永のヤツ、頬を真っ赤に染めて眼を逸らしている。ははあ、永は思ったよりウブなのかもしれない。ブラジャーを見て恥ずかしがるなんて。とするともしかして、麗とは一回もやってないのか……?
一階は既にゾンビで溢れかえっていた。
「屋上の天文台へ行こう、階段を塞げば、立て篭もれる。そこで救助を待つんだ」
僕達は永の考えに従った。一路、天文台へ。そこはまだゾンビに占拠されていなかった。倉庫から机やら何やらを引っ張り出して、階段を封鎖する。
「これで一息つけるな」
永が手すりを背に、座りこむ。俺と麗も腰を下ろした。今村だけは今だ倉庫で何かやっていた。
「ウッ……!」
永が咳き込んだ。苦しそうに、何度も何度も。口に手を当てていた。
そして言った。
「俺は、もう駄目かもしれない……」
麗が叫ぶ。
「ウソ! 永は噛まれてなかったはずなのに! 永は奴らになんかならない! 永は特別なのよ!」
「違うんだ麗」
苦しげに、永は言った。
「さっきから頭に浮かんで離れないんだ……今村の、ブラ姿が……すごく、胸が……ドキドキする……」
え?
「俺……男が好きなのかもしれない……」
「そんな……」
麗は涙ぐんでいた。
「まさか、初めてホテルに行った時、カラオケだけして……何もしなかったのも……あんなに誘ったのに……」
え、何その暴露大会。
「2回目に行ったときは、水槽の中で潜水の練習ばっかりしてたし……」
水槽があるホテルって凄いな。そんなのあるのかよ。
「駅前のもしもしピエロ……」
生々しいから実名を出さないでくれ!
「学生割引で1時間1500円、ロビーで隣のクラスの――」
僕はゾンビという脅威から逃れた。けれど、天文台でそれ以上の脅威が待っていた。好きだった女の子の、ラブホ話……
「孝、後ろだ!」
突然、ここまでのギャグパートをぶっちぎるような勇ましい声で永が叫んだ。
僕は反射的にバットを掴んで立ち上がった。すぐ後ろに、ゾンビ、じゃなくて、奴らが居た。1人だけだったけど。1人でも奴ら。2人なら奴らら? つらら? 考えるのは後だ! 僕は思い切り、バットを振り下ろした。
奴ら(ただし1人)が倒れる。首がもげた。その下からさらに顔が見えた。え?
今村だった。僕はもげた首を見る。ゾンビマスク……
その体は、ピクリとも動かなかった。
――全てが終わってしまった日、僕は友達を手にかけた。
「だがここで罠カード発動! ハイスクールオブザデッドの呼び声!」
ピョコン、と飛び起きる今村。というかリビングデッドの呼び声じゃないんだろうか。もう禁止カードになったけど。遊戯王。
「じゃあサイクロン!」
麗、どうして遊戯王カードなんて持ってるんだ。そしてカードを人に投げるんじゃない! 傷がつくだろ! 昔はサイクロンだってレアカードだったんだ!
「ならばベロクロン!」
それは超獣だ!
「超獣ギガ!」
ややこしいからやめてくれ永! どこから日本史の資料集を取りだしたんだ! わざわざそんなことしなくても、鳥獣戯画が元ネタだってのは判るから! というか永も麗も常識人キャラじゃなかったのかよ! ツッコミは僕だけなのか!?
信じられない。けれど僕は直感している。
僕が慣れ親しんでいた日常は、もう壊れてしまったという事を――
「メガサウルス・ギガ!」
まだ引っ張るのか今村! 確かに、頑張れ! ムサシ!! のカオス変形ぶりは素晴らしかったよ! 才能が迸ってたよな! けれどそんなの今の状況に全然関係ないだろ!
「ねえ、今村くん」
麗がやけに冷静な声で言った。常識人に戻ってくれたんだろうか。
「メガサウルスじゃなくて、メカザウルスじゃない?」
濁音の位置くらいどうでもいいだろ! というかそんな話題についていけるのかよ! 地味に萌えポイントじゃないかゲッターロボが判る女子とか!
ああもう。
一体これからどうしたらいいんだ。
天文台の下では、奴らが唸りながらうろついていた。悩みなんかなさそうで、いいよなあ……奴らを見てると、癒されるよ……