韓国統監官邸の立面図(一部)=韓国・国家記録院の資料から
日本による韓国併合(1910年)を前に、日本が当時の大韓帝国(韓国)に置いた韓国統監の官邸の設計図が見つかった。明治期を代表する建築家辰野金吾の設計で、初代統監の伊藤博文(1841〜1909)が入る予定だったとみられるが、実際には建設されなかった幻の建物だ。
「韓国統監官邸新築図面」。韓国の国家記録院に保存されていたのを谷川竜一・東大助教(アジア近現代建築史)が今年確認した。主に縮尺100分の1で、平面図や立面図など31枚。れんが造りの西洋式の建物で、幅約44メートル、奥行き約35メートルの2階建てだ。
1905年、日本政府は大韓帝国の外交権を奪って保護国にし、伊藤を初代統監に任命した。官邸はその前後に設計されたとみられるが、韓国内の当時の写真や地図には形跡がなく、日本銀行本店(東京都中央区)などを設計した辰野の作品リスト(1915年)にも「不施工」と記されていた。
小川原宏幸・明大非常勤講師(日朝関係史)は「日本は朝鮮民衆を屈服させるために『見せるための建物』を多く建て、近代日本の文明の象徴として誇示した。そうした統治手法の一端を垣間見ることができる」と話す。
韓国ではこれまで、併合時代の建物は「負の遺産」として、取り壊されるケースが多く、1995〜97年には旧朝鮮総督府庁舎も解体された。しかし、その後、学術的な価値が見直され、2000年ごろから旧朝鮮総督府に関連する建築物の図面約2万6千枚の保存や公開を進めている。
谷川助教は「こうした公開が進めば、東アジアの近代史を多角的に議論できる土台となる」と話している。(山田優)