木語

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木語:宇宙人ルーピー=金子秀敏

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 米紙ワシントン・ポストのコラムが「鳩山由紀夫首相はルーピー(loopy)」と評した。その後日談がある。

 筆者アルカメン氏のもとに日本の大学の先生からメールが届き「ルーピー」の意味を問い合わせてきた。日本のメディアは「愚か」「クレージー」などと訳しているが、どちらが正しいかと。

 その回答をアルカメン氏はコラムに書いた。「奇妙に(oddly)現実離れしていること」と定義している。核心は「奇妙な」点にある。知的レベルの「愚か」ではない。まして鳩山首相が「愚直」と理解したのは間違いだ。

 こんな例をあげている。不倫が発覚したサウスカロライナ州知事の言動である。テレビを通じて釈明会見をした知事は「間違ったことをしたが、辞任しない」と言った。この発言は、賛否はあってもルーピーではない。

 知事は会見を終えると離婚のために別居中の妻に電話して、「会見、どうだった?」と聞いた。こんな神経の人がルーピーだという。

 このような人を日本語では「宇宙人だ」ということがある。鳩山首相は、首相になる前から「宇宙人」と言われ、宇宙人グッズも売られていた。だとすると、米政府のもとに上がってきた首相の個人情報のなかには「宇宙人と言われている」というものがあり、米高官の間に「ルーピーな人」という評価があったのではないか。

 もし例のコラムが「鳩山はますます宇宙人だと米政府高官は言っている」と「正確に」訳されていたら、とくに驚く話ではない。「愚か」と訳されたので、首相の資質問題になり、「一国の首相に対しいささか非礼だ」(平野博文官房長官)という反応が出るわ、党首討論で取り上げられるわ、騒ぎになった。

 そもそもアルカメン氏が取り上げたのは、中国の胡錦濤国家主席だった。コラムの見出しは「胡氏が1位」である。核安全保障サミットの際、オバマ大統領との個別会談の長かった首脳を勝ち組とした。1時間半の中国主席が1位、次がヨルダン国王、マレーシア首相、ウクライナ大統領、アルメニア大統領などだ。首脳でないが個別会談できたエジプト外相も勝ち組だ。

 一方、正式の個別会談のない日本の首相を負け組の筆頭とした。ついでにルーピーという米高官の内輪話を紹介した。アルカメン氏には「愚か」と批判するほど首相に関心はない。日本のメディアが首相の部分だけ取り上げたので、資質批判のように受け取られた。ルーピー騒ぎは誤訳事件の一種だったのではないだろうか。(専門編集委員)

毎日新聞 2010年5月13日 東京朝刊

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