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台湾海峡・最前線:融和の裏の攻防/下 「上陸戦」武警投入か

 「斬首(ざんしゅ)戦」。陳水扁前政権下の台湾で、こんな言葉がメディアをにぎわせた。「中国軍に代わって武装警察がパラシュートで台湾に上陸し、陳総統の首を取りに来る」とまことしやかに語られ、軍事演習でも斬首戦に対応する訓練が行われた。

 中国国内の治安維持や国境防衛などを担う武装警察(武警)は暴動鎮圧用の盾やこん棒、催涙弾のほか、テロ制圧のための火器や装甲車といった陸軍並みの装備を持つ。中国のチベット自治区や新疆ウイグル自治区の暴動鎮圧にも出動した。

 馬英九総統が08年5月に就任し、中台関係が改善するとともに「斬首」といった不穏当な言葉は消えた。しかし、昨年10月に発表された国防報告書(白書)で初めて、武警に中国軍の対台湾作戦に組み込まれた部隊が存在すると指摘した。この部隊が加わった演習や軍事行動計画などが確認されているという。軍事専門家は「台湾を国内問題として処理するため」と中国の意図を分析する。

 中国の軍事情報に強いことで知られる香港の衛星テレビ局「フェニックステレビ(鳳凰衛視)」も昨夏、中国の中央軍事委員会が96年10月に陸軍の14歩兵師団を武警に配属し、武警機動師団に転換する決定を下したと報じた。中国政府は公式には認めていないが、国内のネット上では「中国軍が上陸作戦に成功した後は、都市戦に適した武警機動師団の出番だ」といった過激な書き込みも目立つ。

 上陸作戦が実行されるかどうかの問題に加え、台湾国防部(国防省)が脅威に感じるのは、中国の「軍事ソフトパワー」だ。中国の軍事思想の中で心理戦を意識したものといい、「平和的な雰囲気をつくる一方、軍事力で脅威を与え、抵抗する意志を打ち砕く」ことを目的としている。

 中国の陸軍約125万人のうち、台湾への上陸作戦に備えた兵力は約40万人とされる。武警部隊も加われば「台湾を多元的に威嚇する効果がある」と台湾国防部は警戒する。

 台湾軍では昨年、男性兵士の同性愛行為の映像や下着姿の女性兵士の画像がネット上に流れるなど不祥事が相次いだ。「士気の低下は著しく、中国軍の心理戦にはまっている」と日本の軍事関係者もまゆをひそめる。

 台湾陸軍は先月、北部の新竹県で内外メディアに装甲歩兵戦闘隊の演習を公開した。「敵が特攻人員を潜伏させ、奇襲と破壊を始めた」という想定で、「士気低下」との懸念の一掃に努めた。

 「2010年に質量において台湾の優位に立つ」。台湾国防部は中国軍がこうした目標を掲げていると分析する。武力統一の作戦計画と軍備拡張による威圧。そのシナリオの先にあるのは「戦わずして台湾を統一する」ことだという。【新竹で大谷麻由美】

毎日新聞 2010年2月25日 東京朝刊

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