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台湾海峡・最前線:融和の裏の攻防/上 中国潜水艦の影

 ◇戦力劣勢、募る焦り ディーゼル艦、米が売却意思見せず

 「我々のメンツを考えてくれ」。一部台湾メディアの記者たちは、記事化しないことを求める台湾国防部(国防省に相当)の要請を受け入れたが、同時に確信を深めた。「やはりいたんだ」

 1月27日午前11時、台湾南部・高雄の左営軍港から南西に約45キロの海底。台湾海軍は「不明な水中目標」を発見し、哨戒ヘリなどで約7時間追尾した後、台湾海域から排除した。

 国防部の説明は二転三転した。「潜水艦とみられる」から「クジラかイルカ」へ、そして「漂流するコンテナ」。台湾海軍報道官による現在の説明は「何かは確定できないが、潜水艦でないことは確定した。海底での調査は難しく、さまざまな可能性がある」。

 前日の1月26日午後、台湾海軍は左営軍港から南西約30キロの海上で、「敵」、つまり中国の潜水艦の海上封鎖を突破するという想定の演習を内外メディアに公開した。演習にはフリゲート艦や潜水艦など16隻と対潜哨戒ヘリ1機が参加した。

 「レーダーをフル活用する演習が偵察のチャンスであることは軍人の常識」。台湾軍関係者によると、予定が公表された演習に合わせ、中国の潜水艦が数日前から海底で待機していたとの見方が強まっている。事実であれば、「軍港の玄関口まで侵入されるなんて、海軍は何をやっていたのか」との批判が高まることは確実だ。

 中国は圧倒的な優位を誇る米国の海軍力を意識し、この10年で潜水艦の戦力を増強させてきた。静音性に優れた最新鋭の元級潜水艦をはじめ原潜とディーゼル潜水艦を計60隻以上保有している。

 これに対し台湾海軍は、機齢40年を超えた対潜哨戒機S2T20機と、水域警戒範囲に限界がある対潜哨戒ヘリS70C18機を保有しているだけで、対潜能力の低さは明らかだ。米国では台湾売却用として、中国の元級潜水艦にも対応可能とされる新電子装置などでグレードアップしたP3C哨戒機12機を製造中で、3年以内に実戦配備される見通しだ。

 台湾が米国からの購入を願うディーゼル潜水艦については、ブッシュ前政権が01年に8隻の売却を批准した。だが、台湾立法院(国会)で当時の野党・国民党が反対したことなどから前進せず、現在は国際社会への影響力を強める中国に配慮し、米側が売却の意思を見せていない。

 台湾海軍で戦闘行動が可能な潜水艦は2隻のみだが、軍事関係者は「米国が攻撃力の高い潜水艦や新型F16戦闘機を台湾に売却することは中国が絶対に許さないレッドゾーン」と指摘する。

    ◇

 米国が1月に地上配備型迎撃ミサイル(PAC3)や多目的ヘリコプターなど総額64億ドルの武器を台湾に売却する方針を決定した。中台融和路線を掲げる台湾の馬英九総統が08年5月に就任して以来、中国との交流は飛躍的に拡大したが、軍備拡張を続ける中国に対する台湾の警戒感は今も根強い。台湾が優位とされた中台の軍事バランスも05年ごろに逆転したとの見方が多く、台湾に向けられた中国の1300基余りのミサイルは撤去されないままだ。一見穏やかな台湾海峡を挟んで繰り広げられる中台の攻防を探った。【高雄で大谷麻由美】

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 ■ことば

 ◇元級潜水艦

 中国が開発した最新のディーゼル潜水艦。04年に初めて確認され、既に量産、配備されている。中国は90年代後半からロシアのキロ級潜水艦を輸入。元級は艦首部分がキロ級に似ており、キロ級と同様に静音性に優れているとされる。中国紙は、ディーゼル機関の作動に必要な酸素を取り込むために潜水艦を浮上させず、長期の連続潜航が可能となるAIP(非大気依存型推進)機関を搭載していると報じ、「作戦範囲が拡大した」と評価している。中国の国産潜水艦には歴代の王朝名が使われている。

毎日新聞 2010年2月23日 東京朝刊

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