「大学病院のかかり方」をテーマに11月3日に産業医科大学(北九州市八幡西区)で開催された第125回患者塾。大学病院に対するざっくばらんな質問に産業医大の医師が答えた。
<32歳の女性> 子供がぜんそくでよく発作を起こします。目の前に産業医大がありますが、市立病院まで行っています。大学病院の役割は分かるのですが、地域のためにも少しは気を使ってほしいと思います。
田中さん 私たちも少しずつ努力をしていかなければと思います。地域の病院としての役割も担っていくべきだと思います。
松田さん カナダではかなり踏み込んだ治療までできる看護師がいて、医師の負担を軽くしています。産業医大が外来も救急もすべてやるとなると、少ない医師で教育、研究、臨床をやっている状況では持たないと思います。カナダのような枠組みを作らないと難しいでしょう。
小野村さん 「大学病院は少し敷居が高い」という声も多く寄せられています。
津田さん 開業医の私たちにも、何となく大学病院は遠い存在に見えています。ぜんそくの子供の保護者は24時間体制で質の高い医療を受けられる病院を選ぶ傾向があります。大学病院はスタッフやベッドの数が多くはないので、「誰でもいつでもどうぞ」とはいかないのかなと思っています。
楠原さん ご指摘のような理由から、24時間体制の外来診療は実施できていませんが、地域の医療機関からの依頼にはできる限り対応しています。
仲野さん 豊前市で開業している立場からすると、アクセス面で大学病院の利便性は必ずしもよくありません。大学病院に紹介した場合、大抵患者さんの情報は私のところに戻ってきます。ただ、いつの間にか大学病院と公立病院の間で高いレベルのやりとりになり、数カ月後に「あの方はこうだったんだよ」という話が私に聞こえてくることもあります。それぐらい大学病院は私にとって遠いところがあります。
田中さん 紹介を待つだけでは患者さんにとっていい病院とは言えません。そこで各地の病院で出張外来をさせてもらっています。一度は大学病院に来てもらいますが、その後は私たちが出張外来をする病院にかかっていただき、さらに良くなればかかりつけ医に行ってもらう。2段構えの医療連携を作ろうとしています。
小野村さん 「大学病院は特殊な病気を扱っているので、すごい菌をもらうかもしれないよ」ということを知人に言われたという人がいました。
谷口さん 大学病院が危ないということはないと思います。専門家が一番集まっており、むしろ管理・コントロールがきちんとされている場所だと思います。重症の患者さんも多くいますが、病室や病棟を分けるというシステムも整っています。大学病院は熱心に、徹底的に調べるので院内感染の情報が多く出てきているという面があります。
伊藤さん 小さな病院にも同じような菌はいます。検査していないから分かっていないだけで、大学病院では注意して詳しい検査をするのでたくさん出てくるという背景があります。菌が体力のない患者さんにつかないようにし、元気な人が菌を持ち歩いて伝えない努力をすれば問題ないと思います。
大学病院と言えば小説「白い巨塔」の財前助教授……と書こうと考えていたら先輩が先に当欄に。担当が2人とも同じことを書こうと思ったほどに、大学病院のことを知らないし、知られていない。
無知は勝手なイメージを生み出す。検察担当の時には、重要人物が入院したとなると「○○大学病院らしい」との根も葉もないうわさが飛び交った。
患者塾では開業医の先生からも「遠い存在」という声が。でもうまく利用すればとてもありがたい病院であることも分かった。やはりいつまでもイメージ先行ではいけませんよね。【佐藤敬一】
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田中良哉さん=産業医科大学病院副院長・医学部第1内科学教授
森晃爾さん=産業医科大学副学長・産業医実務研修センター所長
松田晋哉さん=産業医科大学教授(公衆衛生学)
楠原浩一さん=産業医科大学医学部小児科学教授
谷口初美さん=産業医科大学医学部微生物教室教授
津田文史朗さん=つだ小児科アレルギー科医院院長(水巻町)
伊藤重彦さん=北九州市立八幡病院副院長(外科)
仲野祐輔さん=八屋第一診療所院長(豊前市、外科)
小野村健太郎さん=おのむら医院院長(芦屋町、内科・小児科)
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〔福岡都市圏版〕
毎日新聞 2009年12月8日 地方版