現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 映画・音楽・芸能
  4. 音楽
  5. 記事

変わるトリノオペラ 財政難の中、指揮者・ノセダが奮闘

2009年12月7日

写真拡大「椿姫」を情熱的に指揮するノセダ=イタリア・トリノのトリノ王立劇場、田中克佳氏撮影写真拡大「椿姫」開演前のトリノ王立歌劇場=イタリア・トリノ、田中克佳氏撮影

 来夏の来日公演が決まっているイタリア・トリノの「トリノ王立歌劇場」が、景気低迷で沈滞気味のイタリアオペラ界で奮闘している。2年前、指揮者のジャナンドレア・ノセダを音楽監督に迎えてから劇場の士気が向上し、定期会員も増えてきた。政府の助成金削減が進むなか、伝統を守り、発展し続けようとする試みが続く。

■評価高まり定期会員増加

 リハーサルの空気は、緊張感が張りつめる一方で、家族的な温かさが感じられた。いすに腰掛けたノセダのタクトに導かれるマーラーの交響曲5番。興が乗ると187センチの長身が立ち上がり、ダイナミックな演奏を響かせる。一つの楽章が終わると、口々に「ブラーボ」の声が上がった。

 ノセダの指示は決まって、「素晴らしかった」「とてもよかった」というほめ言葉から始まる。演奏に敬意を示しつつ、「そこはもっと鳥肌が立つように」などとユーモアを交えながらより高いレベルに引き上げていく。

 約10年前、オケに入ったバイオリンの刑部(おさかべ)朋果さんは「ノセダの取り組む姿勢に感化され、音楽に対する情熱を思い出させてくれた。全員が以前よりも日常を忘れて音楽に打ち込むようになった」と話す。

 トリノ王立歌劇場は1740年の完成。「ラ・ボエーム」が初演されたイタリアオペラの名門だ。ノセダは1964年、ミラノ生まれ。BBCフィルの首席指揮者を務めるなど世界各地で活躍。彼の監督就任後、一流歌手の出演や海外公演が増えている。劇場の評価は高まり、シーズンチケットで劇場を支える定期会員は昨年比6%増の1万4千人、観客は年間約17万人にのぼる。

 しかし、イタリアオペラの置かれた状況は極めて厳しいのが現状だ。トリノの場合、08年の収入に占めるチケット収入の割合は11.4%にすぎない。収入の65%は政府や地方自治体からの助成金が占め、残りは企業などからの寄付に頼る構図だ。

 世界的な景気低迷による財政危機で、イタリア政府は芸術団体への助成金を大幅カット。トリノの09年の助成予算は3分の2に削られ、新規採用の凍結などの収支改善策を強いられている。

 だが、ノセダは前向きだ。「常に満足することなく、質の高い芸術を追求し続けることが最も重要だ。オーケストラ、歌手、技術や事務のスタッフら劇場の全員が一丸となって高い質を求めている」

 初の日本公演は、ナタリー・デセイが初のビオレッタ役に挑んだベルディ「椿姫」、バルバラ・フリットリのミミに注目が集まるプッチーニ「ラ・ボエーム」で、7月23日〜8月1日、東京文化会館、神奈川県民ホールで計7公演が予定されている。問い合わせはジャパン・アーツぴあ(03・5237・7711)。(トリノ=丸山玄則)

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内