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社説:診療報酬 まず診療科の格差正せ

 来年度の診療報酬改定論議が本格化している。いつもなら政府が予算編成に合わせて総枠の増減を決め、中央社会保険医療協議会(中医協)が翌年2月ごろに具体的な配分を決める。02年以降、マイナス改定が続き、医療界から診療報酬アップを求める声は強い。「医療従事者の増員に努める医療機関の診療報酬を増額する」というのが民主党の公約であり、長妻昭厚生労働相は中医協の日本医師会の3ポストを取り上げ、開業医に有利な診療報酬を勤務医に傾斜配分することを目指した。いずれにしても診療報酬アップは既定路線と思われていた。

 ところが、行政刷新会議の事業仕分けの対象に診療報酬が挙げられ、「配分見直し」の判定が出た。これに乗じるように財務省は3%程度引き下げる査定方針を打ち出した。診療報酬1%は国費約800億円に相当するため、毎年の予算編成で財務省は削減を求めてきた経緯がある。小児科や産科・産婦人科はこの10年減少の一途をたどっており、医療崩壊に何とか歯止めをかけようという厚労省側が反発するのは当然だ。

 ただ、診療報酬を上げれば本当に医師不足が解消するのかどうかは慎重に見極めなければならない。診療報酬体系で医師の技術に対するドクターフィーと施設の維持管理の経費であるホスピタルフィーの区分けがないため、診療報酬を上げても医師の給与ではなく病院の維持管理費に回ってしまうという指摘もある。産科や小児科から医師がいなくなるのは、激務に加えて医療事故などで訴訟を起こされるリスクが高いためで、給与だけ上げても効果は限定的ともいわれる。

 また、忘れてはならないのは診療報酬を上げれば患者負担が増えることだ。窓口負担だけでなく、医療保険はどこも火の車である。完全失業者は340万人を超え、物価や公務員給与がずっと下落傾向にある中で、国民の理解は得られるだろうか。

 総枠の引き上げ論議の前に、まず医師間・診療科間の格差について検討すべきだ。開業医の平均年収は勤務医の1・7倍という調査結果がある。開業医の中でも小児科や産科に比べて整形外科や眼科の年収は多く、この数年、整形外科や眼科は増え続けている。医師不足が深刻な小児科や産科・産婦人科との報酬格差は是正されるべきだろう。また、病院が担っているものの中に在宅医療と介護に委ねた方が良いものはないか、医師が抱える仕事の中に看護師や別のスタッフに委ねた方が良いものはないだろうか。安心できる医療体制の維持・再興には全力で取り組むべきだが、国民が耐え得る負担も財源も限度があるだろう。

毎日新聞 2009年12月5日 東京朝刊

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