【北陸発】フグ調理資格に地域差 富山は容易 全員合格2009年11月29日
富山県南砺市城端のすし店「幸ずし」でフグを食べた九人が入院し、うち二人が意識不明となった食中毒事故から二十九日で一週間がたつ。店主はフグの取り扱い資格を持っていたが、フグの種類を知らなかったうえ、有毒部位とされる肝臓を料理に使うなど、ずさんな実態が明らかになった。関係者からは資格制度の厳格化や、全国基準の創設を求める声が強まっている。(富山・山田晃史、南砺・河郷丈史) 城端の食中毒から1週間料理店組合『統一試験 検討を』■非常識富山市内のレストランの調理場。県調理師会長で調理長の利光登さん(62)が包丁でトラフグを手早くさばき、内臓や目玉などの有毒部位を慎重に取り除く。毒性が高いとされる肝臓は薄いピンクでぷるぷるした質感だ。 食中毒事故を起こした店主は、金沢市の近江町市場で種類の分からないフグを仕入れ、肝臓(二センチ大)十二個を「小さいものなら大丈夫」と客に提供した。二人のうち一人は意識を回復。もう一人も自発呼吸を始め回復に向かっているが、利光さんは「わずかな量でも駄目なのに、常識では考えられない」と顔をしかめる。 ■免許制もフグの取り扱い資格の条件や難易度は都道府県で異なり、条例で免許制を設けている自治体もある。 特に難関とされる東京都。受験資格に「調理師免許の保有」「フグ取り扱いに二年以上従事」と高いハードルを設け、刺し身の調理など高度な実技試験を課す。都の担当者は「個人差はあるが、取得には五〜十年はかかる」と話す。 石川県では、二〇〇六年に条例を設け、免許制を導入。それまでは要綱に基づく講習で試験を受ける形だったが、食中毒事故を防ぐために資格基準を厳格化した。違反者には懲役も含む厳しい罰則を科す。 富山県はフグの免許制度はない。調理師免許がなくても、資格のある人のもとで二年間習った上で、二日間の講習を受けて簡単な筆記と実技試験に合格し、県に届け出ればフグを扱うことができる。試験に落ちても合格するまで追試し、実質的に不合格者はゼロだ。 利光さんは「命にかかわることなのに、なぜ全員合格なのか。ペーパードライバーと一緒で、資格があっても知識、技術が不十分な店はたくさんある。事故を教訓に、更新が必要な免許制など、徹底的に厳しくするべきだ」と訴える。 石井隆一知事は二十七日の会見で「この機会に仕組みをよく検討し、再構築したい」と表明。十二月上旬に七百八十七業者を対象に緊急の講習会を開き、安全指導を徹底する。 ■国は否定的全国でバラバラの資格制度。今回の事故を国はどう考えているのか。厚生労働省の担当者は「有資格者の中毒事故は極めて珍しい」と事態を深刻視するが、「フグの食習慣には地域性がある」と制度の統一には否定的だ。 一九八三(昭和五十八)年、当時の厚生省は衛生確保のためのフグの取り扱い基準を定めたが、担当者は「どう基準を守らせるかは自治体の仕事」と説明する。 全国のフグ料理店の組合でつくる「全国ふぐ連盟」の岡田薫治事務局長は、こう訴える。「平成に入ってから養殖フグが安定供給され、流通網の発達などで各地でフグが食べられるようになったのに、専門知識の習得に地域格差がある。許可を得た人が事故を起こし、大変心配。全国統一の試験制度の検討を」
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