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「戦場でワルツを」のフォルマン監督に聞く

2009年11月27日

写真:「戦場でワルツを」には、兵士時代の自分(手前)も登場する拡大「戦場でワルツを」には、兵士時代の自分(手前)も登場する

 イスラエルによる82年のベイルート侵攻にかかわった兵士の記憶をアニメでたどるイスラエル映画「戦場でワルツを」が、28日から公開される。一兵卒として自ら作戦にかかわったアリ・フォルマン監督は「兵士を英雄として描いた場面は一度もない」と話した。

■兵士が見た夢と現実

 イスラエルはいまも国民皆兵の国だ。兵役から離れたのは84年。軍の体験を意識的に忘れようとアジア各地を回った。ふつうのバックパッカーと違うのは、同じ場所に長期間滞在して、「架空の旅行記」を友人に送り続けたことだ。その体験から、映画の世界に身を転じた。

 「記憶は消え去ったのではなく、私自身が忘れようと決めて消し去った。自分は新しい人生を歩むんだと」

■自身の記憶重ねたイスラエル映画

 だが、映画やドキュメンタリーで注目を集めていた04年、突然、戦場の記憶がよみがえった。22年前、ベイルートの沖合に漂う自分の姿。夢か現実か……。心理セラピーを受け、自身の記憶をたどる旅と同時並行で製作を進めた。登場する同僚の兵士ら関係者9人はいずれも実在。写実的なアニメを使い、うち7人はモデル本人が声優を務めた。

 音楽を担当したのは英国の作曲家マックス・リヒター。自作の曲に加え、戦闘の場面で、激しい音楽の代わりに美しいバッハの旋律がゆったりと流れる。

 「下っ端の兵士が戦場で感じる、夢のような感じをだしたかった。戦場にいると、家のことやガールフレンドのことなど夢と現実が交錯する」

 よみがえる記憶の先にある衝撃的な事実。そこだけは実写の映像で示される。「私の個人史や記憶がどうであれ、結末はこういうことだったんだ、と。本当の被害者は兵士ではない」

 製作のさなか、歴史を繰り返すようにイスラエルはレバノン、そしてパレスチナ自治区ガザに侵攻した。一方的な破壊と攻撃。自分が体験した悪夢と同じ過ちの再生産。好戦的な祖国の姿に耐えられず、一時期を国外で過ごした。「この映画を見るのに、中東の政治なんか知らなくてもいい。これは、戦争のおろかさを伝える、とても普遍的な映画だからだ」

 独・仏・米との合作。(石合力)

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