【ちびティエぱにっく】⑪
「・・・ティエリア、おまえ・・・・・」
「あなた好みに少しでも近づきたくて、身体の治療と一緒にリジェネたちに頼んで・・・・・。やはりおかしいですか?」
見惚れてしまって声がなかなか出ないロックオンに、何を勘違いしたのかティエリアの表情が曇っていく。それを見て、ロックオンは慌てて彼女の両肩をがっしり掴み、力いっぱい宣言する。
「そんな訳あるか!以前のおまえも、この間までの小さなおまえも、今も、俺は“おまえ”が好みなんだ!!」
「ホントですか!?」
一瞬にして表情を輝かせ、微笑むティエリア。彼女の笑顔にロックオンにも自然と笑みが零れた。
幸せそうな2人を見て、どうやら落ち着いたようだと仲間が寄って来る。
「おかえり」
「ついこの前も言ったけど、おかえり」
「今度は完全におかえり」
「ただいま戻りました。またよろしく頼む」
スメラギや刹那たちの出迎えに、ティエリアは律儀に頭を下げて回る。
「この髪、以前みたいなエクステンションじゃないんだぁ」
「サラサラできれい」
「アーデさん、長い髪も似合うですぅ」
「そうか、ありがとう」
女の子たちはティエリアの髪を触りながら、キャワキャワ騒ぐ。
「髪がエクステじゃないっても、胸は本物じゃないだろう?なんせ見事な絶壁だもんな。特殊メイクか?」
天敵にどうしても一言言わずにいられないライルは、人並み程度にはあるティエリアの胸を指す。それに対してティエリアはフフンと鼻で笑い、ふんぞり返って自信満々に胸を突き出した。
「残念だったな。私の胸は本物だ、ほら!」
言いざまに絶世の美少女は衆目の前で、恋人の手を取ると自分の胸に押し当てた。
「本物でしょう?」
どうだ、とばかりに見つめるティエリアの胸の感触を確かめるように、ロックオンは揉んでみる。
「ああ、本物だ」
「ホントかぁ?じゃあ、俺も・・・」
兄の宣言を訝しんで、ライルがティエリアに腕を伸ばす。
「「おまえは触るな!!」」
ロックオンとティエリアのWストレートパンチで、ライルはリジェネのいるドッキングベイとの扉際まで飛ばされた。
「本物なら触ったって良いだろう!減るもんじゃなし」
懲りない男である。
「これはおまえの物じゃねぇ!」
「私の胸はロックオンの為だけにあるんだ!」
床に座り込んでいるライルを見下ろして、2人は怒鳴りつけた。ロックオンの右手はティエリアの胸に置いたままで。
そのロックオンの手をスメラギがピシャリと叩いて外させる。
「あなたたちも!そんな事は後で2人きりになってからにしなさい!」
2人が我に返ると、周りの皆はドン引きした目でこちらを見ている。ロックオンは後頭を掻き、ティエリアは舌を出して、ほんの僅か照れてみせた。
「さあ、いつまでもこんな場所で立ち話もなんだから、食堂に行きましょう。ティエリアの帰還パーティーよ」
「パーティー・・・ですか?」
キョトンとするティエリアに、クリスがウインクを寄こす。
「そうよ、ロックオンの指示で用意万端なんだから」
「ああ、おまえが気に入ってたお子様ランチもあるぞ」
「あの素晴らしい料理があるのですか!?嬉しいです!!」
ティエリアはニッコリしてから、ふと気付き、まだ扉の側にいるリジェネのところまで戻ると、彼の手を取った。
「パーティーをしてくれるそうだ。君も行こう」
「僕も?」
眉を寄せてめずらしく戸惑う様子を見せるリジェネ。ティエリアは彼の手をグイグイと引っ張って、基地の奥へと導いて行く。
「とてもおいしい食事もあるのだ。一緒に食べよう」
天真爛漫を絵に描いたような笑顔を向けられて、くすぐったいような気分になったリジェネは照れ隠しに呟く。
「リボンズたちも連れて来てやれば良かったな」
「彼らは日を改めて招待するさ。ティエリアにとっちゃ親戚も同然だからな。今日のとこは“家族”のおまえさんが参加してやってくれ」
ロックオンがポンッと肩を叩く。
「そうよう!固く考えないで」
「ティエリアの家族は私たちにとっても家族です」
「行きましょう」
スメラギを始めとする女性陣にも「さあさあ」と勧められて、リジェネは僅かに頬に朱を刷いて頷いた。
「そういう表情をすると、アーデさんにそっくりで可愛いですぅ」
「あたりまえだ。彼と私は双子みたいなものだからな」
ミレイナの感想に、ティエリアが頓狂な答えで皆の笑いを誘う。自分が可愛いと宣言したことに気付いていないティエリアは1人瞬きを繰り返した。
こうしてその日のパーティーは、元に戻ったティエリアとゲストのリジェネを迎えて、大騒ぎのうちに終えたのだった。
― ― ―
「わあ・・・・・」
久しぶりに自室に戻ったティエリアは、室内を見て感動した。
子どもの姿で基地を出た時は、クマやウサギのぬいぐるみや、動物柄の毛布に枕、服も幼児用が並べられていた。だが、今は大好きなピンク色の雑貨で整えられ、奥のデスクの上には優しい色合いの花がいっぱい飾られている。
「おまえの好みにできたと思うんだが、どうだ?」
部屋の中央で立ち止まってポヤ~としているティエリアの肩越しに、ロックオンが声を掛けると、長くなった髪をフワリとなびかせて振り向いた。
「的確な判断です!素晴らしい!」
両手をグーにして頬を紅潮させて、喜びを表現する。
(可愛いよなぁ。どんな姿でも、何をやっても・・・・・)
前に突き出された手を掴んで、胸に抱きこむ。
「愛してるよ」
ティエリアは逞しい背にまわした腕に力を込めて、ギュッと抱きつく。
「私も愛しています。誰より何より、あなただけ・・・・・」
やがて部屋の明かりは落とされて、2人は久しぶりに恋人達の時間を、じっくりと味わうのであった。
<END>
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『ちびティエぱにっく』一応の終了です~。3回くらいの短編として書き始めたはずが、延びる延びるで、11回連載になってしまいました。ここまで読んでいただいて、本当にありがとうございます!!
前回の⑩をアップした時にちょっと書いたのですが、途中ロックオンがちびティエを遊園地に連れて行くエピソードをとばしてしまいました。で、その部分を番外編で2~3回に分けてアップする予定が、ラフのあらすじを書いてみると、本編に近い長さになる事が判明いたしました。本でじっくり読みたいというリクエストもいただいているので、冬コミあたりに本編に大幅に加筆改稿する形でオフで発行しようかという野望も・・・。コミティエの後のスパコミ発行の新刊を作る間に確定させますねぇ。ご意見ご感想いただけると嬉しいです~
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